惑星プリモ②
辺りはすっかり闇に包まれた。月明かりが辺りを薄い琥珀色に染めている。
家の屋根の影が僕の上に落ち、おかげで空がくっきりとよく見える。
北の空の果てにあった光体は、気が付けば南に移動して、頭上近くまで進んでいた。
僕らは、この光体の正体を知っている。
だから、お祭りが開かれている。
遠目に見える街の様子はさらに賑やかさを増している。街中に設置されたスピーカーからは、楽器の生演奏が流され、あちらこちらでお店の呼び込みが飛び交っているようだ。さすがに声は聞こえないが、街中から離れたここに居ても、雰囲気だけは感じられるくらいに盛り上がっている。
最近は、何か理由を探しては小さなお祭りや催しが行われている気がするが、今回の赤道祭はいつもより賑やかだ。
ブランデーが美味い。
飲み過ぎればすぐに頭痛が始まるが、それでもグラスを手に取ってしまう。チーズをつまみ、酒を喉に流し込む。
酒の理由に事欠かないのはいいことだ。
僕はひっそりと、光体に向けて祈りを捧げる。
乾杯。
君のここまでの航海を讃え、残りの旅程の無事を祈る。君は地球人の歴史に残る航海者であり、孤独を耐え続けた英雄だ。尊敬する。
光体は今から数時間後にはアロネの重力に捕まるが、そのまま振り切りスイングバイを行う。しかも、半周と少し廻り、来た方向へ近い方向へ帰って行くのだ。
すべてが偶然の賜物だ。
そして、帰って行く方向には地球があるらしい。らしい、というのは、地球だって常に動いているわけで、計算したところ地球へ接触するコースに乗るだけで、今の方向に地球があるということではないらしい。
光の速さでも一ヶ月以上はかかる距離だ。数千年かけてのんびりと飛べば、いつまでも同じところに地球はないだろう。
なんにせよ、おそらく地球の方から飛んできた光体が、やっぱり地球の方へ飛んでいくのだ。
ちょうど折り返し。赤道祭というわけだ。
ぼんやりと酒の回ったとろんとした目で光体を眺めていると、月の方にもう一つの光体を見つけた。
青白い光。
どうやら、オレンジ色の月アネロの光を反射しているわけではなく、自力で光っているようだ。白く噴射するロケットのようにも見える。絵物語の中を飛び回っているアレだ。
その同じくらいの大きさの青白い光は、徐々に加速すると、真っ直ぐに最初の光体の方へ向かっていく。
ああ、なんだか街で噂になっていたやつか。
僕は頭を振り振り、光体の正体を考えてみる。
たぶん、間違ってはいないだろう。アネロから飛び出した人工物だ。それの意味するところは……
僕はもう一度頭を振って、ため息をついた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます