第11話 皆とゲームで遊んだ

第11話 皆とゲームで遊んだ 1

あー、今日も働いたなー。

私はロッカールームで着替えながら、今日の仕事を振り返る。

今日は街から少し離れた所で作業したけど、街の外は相変わらず灰色の荒れ模様で、視界も悪ければ足場も悪くてコンディションは最悪。

収穫もイマイチだった。

ああでも、シャマイム重機の大型強化外骨格パワードスーツマルアークシリーズ、アルケーを見ることができたのはラッキーだったかな。

これぞ戦う天使! のような優美かつシャープなデザインが特徴だとは聞いていたけど、土砂と瓦礫に埋もれて錆びついていてもその名残は残っていた。

掘り起こしたものの、無残なその姿を見たら何か悲しくなったのは、その見た目のせいだろう。

ま、生活のため容赦なく解体しましたけどね。


「ナナちゃん、お疲れー」


そう言ってロッカールームに入ってきたのは、友人にして同僚のアイちゃんだ。

アイちゃんも今日は私とは別の場所に遠征していた。


「お疲れー。そっちはどうだった」

「ボチボチだった。ラインアトラスのアルビオンが見つかって、ロイさんが喜んでたよ」

「おー! 凄い! 正真正銘のエース機じゃん!」

「でも完全体じゃないから、そんなに稼ぎにはならないよ。レアメタルもなかったし、全体的に見れば苦労した割には、って感じ」

「今日は天気も悪かったしねー」

「そうそう」


私達は話しながら並んで着替えを続ける。


「ねえ、ナナちゃん」

「ん?」

「ロード・オブ・ディアボリカってゲーム知ってる?」


私はカーゴパンツを履きながら頷いた。


「名前だけは。最近人気のVRゲームだよね」


毎日見ている動画投稿サイトのゲームのカテゴリーで、その名前が独占状態だった。

有名なゲーム会社の最新作らしい。

するとアイちゃんの声が弾んだ。


「あ、知ってるんだ。そのゲームね、最近ユーゴに誘われてやってるんだよ」

「え?!」


私は顔を上げた。


「アイちゃん、ゲームやるなんて珍しい」

「でしょ。私もユーゴに誘われなければ名前すら知らなかったと思うよ。基本無料で敷居が低かったのもある」

「そうなんだ?」

「うん。課金要素はあるけどね」

「そりゃそうでしょうな」


企業もボランティアでゲームを作っているわけではない。

カーゴパンツを履き終え、最近買ったトレーナーに袖を通す。


「どう? 楽しい?」

「一人だったら十分ももたずに脱落してたと思う」

「そんなに難しいの?」

「それもあるけど、世界観が暗いんだよ。私の趣味じゃない」


アイちゃん曰く、ロード・オブ・ディアボリカ、略してロディアは、悪魔が支配する世界に転移した主人公たちが、元の世界に戻るためにスキルを身につけ悪魔の王を倒す、というVRRPGだそうだ。

ただ、悪魔の支配する世界故に全体的に暗く、色彩も乏しい、いわゆるダークファンタジーな世界観なのだという。

確かに、ガーリーでキラキラが大好きなアイちゃんの趣味とは真逆の世界観だ。


「あー、街の外のようなイメージ?」

「街の外を夜にした感じが近いかな。見通しは街の外より抜群にいいけどね」

「ゲームだもんね」


私達は笑いあう。

見通しの悪さもゲーム性になることはあるだろうけど、流石にずっとはストレスになって不評の元になるだろう。

着替え終わり、帰り支度をしていると、上着を着ながらアイちゃんが笑顔を向けた。


「でね、ナナちゃんも一緒にやってみない? 信頼できる人と一緒だと結構楽しいよ」


私は内心驚いた。

まさか、ゲームとは無縁の人生を送ってきたアイちゃんにゲームに誘われるとは。

でも、逆に興味も持った。

そんなアイちゃんすら魅了するゲームがどんなものなのか。


「うーん。せっかくだし一回だけやってみようかな?」


軽い気持ちで言ったら、アイちゃんはニコニコ笑顔を浮かべた。


「やった! じゃあ、今からVRカフェに行こうよ!」


へ?

荷物をまとめていた手が止まり、アイちゃんを見つめる。


「今から?」

「今から! ……あ、もしかして何か用事入ってた?」

「や、暇だけど」


まさかこれからすぐとは思わなかった。


「ロディアの影響でVRカフェ、すぐいっぱいになっちゃうんだよ。だから急いで行かないと」

「夕飯どうすんの?」

「もちろんVRカフェで食べる! 私の行ってるカフェは持ち込みOKだから」

「途中で安いご飯を買えばいいわけね。わかったよ」

「ちょっと待ってね、すぐに支度しちゃうから」


アイちゃんは大急ぎで支度を始めた。

どうせ今夜は暇だし、懐事情はまだ余裕はあるし、ゲームにも興味はある。

仮に合わなかったとしても、一度やっておけば話の種にもなるしね。

こうして私達は急いで会社を後にし、途中で夕飯を買って、アイちゃんが贔屓するVRカフェにやってきた。

このVRカフェは完全個室かつ防音。

ドリンクバーもあるし、長時間滞在用にシャワー室も完備され、各種アメニティも充実している。

店内も明るく清潔感があり、女性からも好評らしい。

……お値段もそれなりにするけど。

とはいえ、この街にある各種遊園地やランドマークの展望台の料金に比べれば遥かに安い。

店はピークタイムを迎えていたが、席は辛うじて空いていて無事に三時間確保できた。


「あ! ユーゴも後で合流するって」


部屋に向かいながら端末を確認していたアイちゃんが声を上げる。

お、ユーゴさんも来るのか。


「じゃあ三人で遊べるんだね。でも今からVRカフェに行くの? 席空いてなくない?」

「ユーゴは家にVRゲーム機持ってるから大丈夫だよ」

「あ、なるほど」


VRゲーム機は、ぶっちゃけとってもお高い。

それを持っているとは、さすがは売れっ子の傭兵、お金持ちだ。

アイちゃんは傍から見ても上機嫌で説明を続けた。


「ロディアは、プロローグでキャラクター設定と操作説明があるの。それが終わると広場に出るから、そこで合流しよう」

「すぐにわかるの?」

「広場に目印になる彫像とか建物がいくつかあるの。そうだなー、大きな鳥っぽい彫像があるから、そこで待ってるね」

「わかった。鳥っぽいやつね」

「それと、ジョブで多分悩むと思うけど、適当に選んでも後で変えられるから大丈夫! ナナちゃんがピンときたものを選ぶといいよ」


私はアイちゃんの方を向いた。


「オススメとかある?」

「うーん」


アイちゃんは顎に人差し指を当てた。


「私は衣装で選んだからなー」

「衣装?」

「そう!」


アイちゃんの表情が輝いた。


「ロディアのジョブ衣装、一つのジョブに四つの違うデザインがあって、それがもう、みんないいデザインなんだよー。いかにもな衣装もあるけど、現代っぽくアレンジされたものもあってね、見ているだけでも楽しいよ!」


アイちゃんがこのゲームにハマった大きな理由に気づいた。

アイちゃんは、ファッションにとても高い関心を持っている。

だから衣装に力を入れているらしい、このロディアに惹かれる要素を持っていたのだ。


「だから、ナナちゃんの好きなデザインの服を選ぶのも選択肢の一つだよ。見た目ってやる気に繋がる大事な要素だから」

「確かにね」


私は笑った。

そうして私たちはそれぞれの部屋へと入った。

扉が開くと電気がついて内装があらわになる。

VRゲーム機器とリクライニングチェア、簡易テーブルが置いてあるだけの、至ってシンプルな室内だ。

でも防音が施されているせいか、ちょっと圧迫感を感じなくもない。

室内に入るとドアが自動的に締まり施錠される。

私は端末と買ってきた夕飯を取り出すと、カバンを荷物置き場に置き、リクライニングチェアに腰掛けた。

早速端末を起動してブラウザを呼び出し、素早くタップする。

ロディア、初心者、オススメ、ジョブで検索開始。

やっぱり前評判というか、ある程度の事前情報は欲しい。

間を置かずに多くの検索結果が出てきた。

しかしその内容は、自分のやりたいものをやってみましょう! とか、一通りのジョブを触って自分に合うジョブを探しましょう! とかいう正論ばかりだった。

いや、そうなんだけどさー。

私はため息をつきながら検索を続け、頭の中で情報を整理した。

ジョブ繋がりで、それぞれ役割ロールというものが三つあるらしい。

その三つとは、ディフェンダー、アタッカー、ヒーラーで、ディフェンダーは敵を引きつけて味方を守り、アタッカーはその間に攻撃を仕掛け、ヒーラーはみんなの体力を回復する、といった感じだ。

うーん、どれをやりたいか、というより簡単そうなのはアタッカーだよなー。

体力が軒並み低いことが気がかりではあるけど、役割がシンプルで分かりやすい。

……そういえば、アイちゃんのジョブは何だろう?

聞きそびれちゃったな。

それはさておき、ではアタッカーのジョブはと……多いな!?

他のロールは三つ四つしかないのに、アタッカーは近接、中距離、遠距離のアタッカーと合わせて七個ほどある。

悩ましい!

そこでアイちゃんの言葉を思い出した。


『ナナちゃんの好きなデザインの服を選ぶのも選択肢の一つだよ。見た目ってやる気に繋がる大事な要素だから』


……よし! 始めよう!

私は手順に従ってVRを起動し、ゴーグルとヘッドセットを装着。

リクライニングに深く腰を掛けると同時に、私の周囲の風景が一変した。

色んな会社のロゴマークが表示され、真っ黒な背景に真っ赤なひし形の亀裂? に向かおうとする角と尻尾を生やした悪魔の女の人? が現れ、そして暗いけど壮大な曲調のBGMと共にゲームのタイトルが現れた。

ほ、ほほー? この方がラスボスさんかな?

まあいい、まずはログインしよう。

淡々と登録手続きを済ませて、難なくログイン完了。

ゲームのオープニングが始まった。

プレイヤーは現実世界で突如地面に大穴が開いて地中へ落下、目が覚めたらロディアの世界『バハギア』へ転移したという流れだ。

……ふーん。

前時代の異世界ものでは、トラックに轢かれたとか、働きすぎて過労で倒れたとか、そんなのが多かった気がするけど、そこは王道を外したのかな?

前時代の転生物と比較している間にも話は進み、真っ白な人影に言われるがまま、名前を入力し性別を選んだ。

そして、人影は告げる。

己の役割を選べと。

お、ついにジョブの選択か?!

そして、周囲に様々な三つのアイコンが現れた。

あ、最初はロール選びか。

盾はディフェンダー、剣はアタッカー、杖っぽいのがヒーラーのようだ。

私は迷わずアタッカーをチョイス。

すると、今度は周囲に様々な衣装を着た女の人たちが現れた。

おお、これがアタッカーのジョブか!

私はまじまじと画面の人物たちを見つめた。

どの衣装もマジカッコイイし、作り込みが凄い!

しかもこれ、自分で着れるんだ。

アイちゃんが興奮したであろう姿が目に浮かんだ。

まずは王道中の王道、剣士を選んでみた。すると、四種類の衣装を着た剣士が現れる。

前時代のメディアでうなるほど見かける西洋風の衣装もあれば、多少現代風に寄せた衣装もあった。

バラバラ見えて『剣士』というコンセプトから全然外れていない絶妙なデザインは、見ているだけでも眼福ものだ。

私は腕を組み笑った。

あははー、これ悩むな!

一度ジョブの選択画面に戻り、改めてアタッカーたちを眺める。

剣士、格闘家、盗賊、狂戦士、狩人、吟遊詩人、黒魔術師。

……魔法使いってちょっと憧れるかなー。

というわけで、黒魔術師を選択。

うん! やっぱ黒っ!

でも、このイメージになるよねー。

大きなとんがり帽子を被り、黒のローブを纏ったオーソドックスなデザインもあれば、前時代のミステリー作品によく登場する探偵風味のデザインもある。

あ、この衣装いいなー。

くすんだ水色の帯がついた黒の帽子に、クラシックで装飾のある黒のコート、帽子の帯と同色のワンピースがカッコ可愛い。

あ、スリムパンツのやつもブーツと合わせてカッコイイなー。

うーん、ワンピースかズボンか。

ここはせっかくだし、縁遠いワンピースにしよう!

すると、たちまち私の体に光が取り巻き、選択した衣装が反映された。

おおおお! すごいじゃん!

体をひねると、コートとスカートの裾が綺麗に翻る。

布地がたっぷり使われていて、現実だったら贅沢な一品だ!

そして、手にはシンプルな棒が現れていた。

これが初期装備の杖らしい。

これより強いのは、多分ゲーム内通貨で買うか、宝箱からゲットする形になるのだろう。

そして一通りの操作説明を受け、吸い込まれるエフェクトと共にバハギアの大地へと降り立った。

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