第2話 元旦の夕方、初詣に鳴る
『はい?え?何?えー、ホントですか?!あ、大丈夫です。宇治に初詣に来ていたんで。はい、はい。ありがとうございます。』
『誰?』
『義母さんやん!今すごい事になってるって!あんた、ネットニュース!!』
ピロリピロリピロリピロリ、、
ブーブーブーブーブー、、
『ん?マジ!、、』
『ちょっと!これ見てみて、、』
いきなり周りのスマホが
一斉に鳴り始め、
電話に出る声が、そこかしこに響いた。
「なあ、お姉ぇ、なんか前の人らが話しするの見て?!」
参拝に一緒に並ぶ妹が、
前に並んでいた夫婦の電話を盗み聞きをしたかと
思っていたら、
ヤホーニュースを開いて見せる。
「な、石川で震度7?で、何これ富山と新潟まで?大阪や兵庫で震度5?嘘でしょ?それならここだって揺れてるはずやん?!」
「そう!なのに全然揺れてないからビックリしてんの!」
「ちょっ!なら!けーちゃんとしげくんとこは?!大丈夫か電話せな!!」
本年元旦の4時過ぎ。
何故か急に妹が、
今年は日本で最古の建築を持つ社に
初詣をしたいと言い出し列車に飛び乗った。
そもそも、社は宇治。
最初は平安神宮が良いと言ったが、
元旦の京都、ましてや平安神宮なぞ人が凄い。
勘弁してくれと頼んだら、
宇治に譲歩してくれたのだ。
とはいえ、
途中の伏見稲荷なんぞは
駅から既に人が溢れていた。
嵐の人混みに冷や汗を流しながら、
電車から伏見稲荷参拝客を見る。
飛び乗ったはいいが、
京都についたのは15時を周って
宇治の社には16時に着いたという状態。
妹や周りの参拝客は、口々に曰く。
『さすが最古の建築!残る理由!建てる理由!』
謎のスローガンみたいな台詞を叫びながら、
周辺地域は長く横揺れをしたにも関わらず、
微動だにしなかった此の地盤に
感嘆の声を上げる。
しかしネットニュースの状況から
震度7となった震源地は
大変な様子になっていると解った。
この年末、
施設にたまたま『けーちゃん』を預けていたから
直ぐに電話をする。
やはり揺れたみたいだが、無事だった。
隣に並ぶ妹に、
『けーちゃん』所は大丈夫だと告げる。
「お姉ぇ、うちの母さん、こんな事いうのアレやけれど、よんちゃんとこのおばちゃんも、、もう逝ってて良かったな、、、」
「そやな。でなきゃ、担いで逃げなならんもんな、、、」
南海トラフ地震がニュースや
特集をされる様になった頃。
生前、母は言っていた。
『いざとなったら、置いていって。』
そんな母の言葉を、亡くなってから思い出す。
母の三回忌間近の元旦の夕方。
わたしと妹は初詣の列で言葉を無くした。
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