ぶさいくシューマイ

マツダセイウチ

第1話

 以前働いていた職場に、もうずっと長いことそこで働いているベテランのパートさんがいた。その人はとても料理上手な人で、私はその人に仕事以外にも料理の作り方を教わった。シューマイのレシピもその内の1つだ。私はシューマイが家で作れることをその時初めて知った。簡単そうなので家でも真似して作ってみようと思った。


 材料は豚挽き肉、みじん切りの玉ねぎ、塩コショウ。つなぎに片栗粉。市販のシューマイの皮。そしてホタテの貝柱の缶詰を1缶。ホタテの缶詰は安いもので構わない。玉ねぎをレンジで加熱し、粗熱が取れたら上記の材料をすべて入れ、混ぜ合わせる。後はシューマイの皮で包み、レタスを敷き詰めたフライパンに並べて水を入れ、火が通るまで蒸し焼きにすれば完成だ。


 手で丸を作り、そこに皮を被せて肉のタネを乗せ、きゅっと包めばシューマイの形になると聞いたのでその通りにやってみたがなかなか難しい。初めて出来たシューマイは形が歪で起き上がり小法師のようにふらふら揺れていた。我ながらぶさいくなシューマイだと思った。気を取り直してもう1個作ってみた。今度は全体的に斜めってしまった。さらにもう1つ。皮のくっつき方が左右非対称だった。試行錯誤するも結局1つも綺麗に出来ず、結果ぶさいくなシューマイが30個も出来上がった。


 私は焦った。正直家族に出すのも躊躇するレベルの見た目だった。何とかマシになる方法はないかと考えた。そういえばお店で売っているシューマイにはグリーンピースが乗っている。あんな感じで飾りをつければいいのではと思ったがあいにくグリーンピースは買っていなかった。私はグリーンピースは嫌いだしなくても良いと思ったのだ。まさか必要になるとは。今さら買いに行くのは面倒だったので代わりのものがないか冷蔵庫を物色し、冷凍の枝豆を見つけた。


 試しに1つ乗せてみたが、枝豆が大きすぎて今一つだった。何だか枝豆のほうが主役っぽいというか、「枝豆の飾りがついたシューマイ」というよりは「肉の玉座に乗った枝豆」といった風情だった。一体なんの料理なんだ。悪あがきで枝豆を半分に切って乗せてみたりしたがそれでも枝豆の圧倒的主役感は消せなかった。枝豆作戦は諦めることにした。


 このぶさいくなシューマイたちをどうしてくれようかと悩んでいた時、ふとある可能性が頭をよぎった。生肉だってそのままだとそれほど美味しそうには見えないが、こんがり焼けば美味しそうになるではないか。グラタンだってそうだし、卵焼きだって焼く前はただのドロッとした溶き卵ではないか。このシューマイがぶさいくなのはまだ焼いてないからかもしれない。そうだ、そうに違いない。焼けば何とかなる。

 私はそう思い、教わった通りレタスを丁寧にフライパンに敷き詰め、シューマイを並べた。

 そのままフライパンを火にかけ、水を入れて蓋をした。タイマーをセットし、焼き上がるのを楽しみに待った。


 タイマーが鳴った。どんな風に仕上がったかとフライパンの蓋を開けて中を覗き込んだ。その出来映えを見て、私は思わず


「さっきよりぶさいくになってるじゃねえか」


 と呟いた。私が悪態をついてしまったのも無理はない。豚挽き肉は加熱すると白っぽくなることを忘れていた。焼く前は肉のピンクと皮の白で色合いはまだ可愛かったが、そのなけなしの可愛さを失ったシューマイは、もはやシューマイと呼ぶのもおこがましい、白っぽい肉塊と化した。彩りも何もあったものではない。しかもギュウギュウに詰めたせいで隣同士で皮がくっついてしまい、取り出すときに皮が所々取れてぼろぼろになってしまった。最後の抵抗で豪華な模様の入ったお皿に盛り付けてみたが、シューマイの量が多すぎてせっかくの素敵な絵柄はほとんど隠れてしまった。


 もうリカバリーは不可能だった。私は諦めた。溜め息をついて、取りあえず1つ味見してみることにした。実を言うと私はシューマイよりギョウザ派であった。その日シューマイを作ったのはただの好奇心に過ぎなかった。そんなに好きでもない、見た目もぶさいくなシューマイを食べるなんてまったく気が進まないことだったが、家族に出す前に味をチェックしなければならない。味も不味ければ捨てるしかない。シューマイの中でもとりわけ皮が剥がれてボロボロな、つまり一番ぶさいくなヤツを選び、ポン酢をかけ、つまようじを突き刺して口に運んだ。


 噛んでみると、肉汁がじゅわっと出てくるのを感じた。豚肉のこってり感と、玉ねぎの甘さ、ホタテの風味もとても良い。つまり美味しかったのだ。見た目からは想像できない美味しさに私は驚いた。見てくれに囚われて本質を疎かにしていたこと、罪なきシューマイをさんざん罵った愚かさを私は心から反省した。


 私はこうしてギョウザ派からシューマイ派に寝返り、シューマイばかり作るようになった。包まなくて良いのでギョウザよりも早く簡単に出来るのも良いところだ。場数を踏んで、ぶさいくだったシューマイもだんだん綺麗になっている(ような気がする)。見た目はともかく手作りのシューマイはとても美味しいので、作ってみてはいかがだろうか。





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ぶさいくシューマイ マツダセイウチ @seiuchi_m

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