金貨一万枚もらえるクエストを受けた結果、魔王が復活してしまったんだが……

夜幻 伊月

少年シン・少女ルミナ始動

 俺は、何もない寒村・クルックス村に住んでいる。

 限界集落で人口は百人未満。俺と同年代の奴らは五人いる。

 中でも俺は、ひまわりのような笑顔を振りまく明るくて容姿端麗な美少女、ルミナ・リリーブラウンと仲がいい。

 周りの奴らには「早く付き合え」と揶揄われるぐらい仲がいい。

 今はセミがうるさく、太陽が強く照っていて暑い。つまり夏、だ。

 俺は今、外に出て桃の収穫をしている。でもこの村の桃は小ぶりで不味いんだよな。


「ねぇ、シン!」


 噂をすれば、ルミナが後ろで元気いっぱいに俺の名を呼んでくれる。

 振り返ってみた瞬間、即座にルミナに手首を掴まれた。


「おいルミナ! 一体どうした!?」

「あのおばさんがいる小さなギルドで金貨一万枚貰えるクエストがあったの! シン、わたしと一緒にクエストを受けてくれる?」

「……まあ。クエストの内容にもよるけど」

「それはあのギルドに行ってからね」

「はぁ……分かったよ」


 この寒村の側にある小山の頂上に、偏屈で頑固なおばあちゃんことセリア・サノヴァがいる。

 正直ルミナ以外の同学年の男女にお願いされたら行きたくない場所だ。


「シン、体力落ちた?」

「まあここ最近はこの村から出るために勉強してたから」

「へぇー?」


 おいおいルミナ、なんだその好奇なものを見る目は。

 あと、本当に金貨一万枚もらえるのなら、俺の妹のサラの栄養失調もどうにかなるだろうし、父さんがわざわざ王都に出稼ぎに行く必要もない。

 死んでしまった母親は流石に生き返らないだろうが、そこはどうでもいい。


「もうすぐだね! もうギルドが見えてきた!」

「はぁ……はぁ……やっと山頂か……。つ、疲れた……」


 この小山はずいぶん道がゴツゴツしてて歩きにくい構造になっているため、大抵の人間は体力が奪われる。

 しかも今は夏な為、暑さで脱水症状になるんじゃないかというぐらいしんどい。

 ……しかし隣にいるルミナは汗こそかいてるが一切疲れを見せない。


「シン、もしあのおばさんからクエスト遂行断られたらどうする?」

「……諦める」

「えー? シンは淡白だね~……わたしなら認めてもらうまで居座るけど」

「迷惑行為だろそれ。あと、あのおばさんなら認めないうえにギルド出入り禁止にしてるって」


 ルミナはスキップをしながらギルドに向かっている。

 俺はぜえぜえ言いながらなんとか彼女についていくのが精一杯だ。


「いらっしゃ……ってあんたらか……」

「こんにちはセリアさん!」

「あ、こ、こんにちは……セリアおばさん……」


 ギルドに辿り着いた俺たち二人はさっそく木造のドアを開けておばさんと対峙した。

 案の定おばさんは厳つくムスッとした顔をしていた。


「セリアさん!」

「お断りだよ」

「……え!?」

「ルミナ、あんたがやりたいクエストってこれの事だろ」

「あっはは~……バレちゃった?」


 おばさんは椅子から立ち上がり、雑多に張り付けられたクエストの中から、異彩を放つ赤く大きい紙を俺たちに見せて来た。

 見ただけでも迫力やら圧力やらがあって正直怖い。

 ルミナはおばさんから赤いクエストを読んで目を丸くしていた。


「こ……ろせ……?」


 ルミナの顔が一気に真っ青になって目を見開いていた。


「シン、これ読んで……」


 そうしてルミナから赤い紙を受け取った俺は、その禍々しさに目を見開いた。

 内容は『特定の十二人の若い女の中にある光球を集めろ。集めた後はその女達を殺せ。期限は半年』。

 何てクエストだ……。

 これを数多のクエストの中に紛れさせるのはおかしいだろ……!


「おばさん」

「どうしたんだい? シン。そのクエストが怖いのか?」


 怖くないって言ったら嘘になる。

 現状、暑さが強度を増して蒸されるような苦痛に襲われている。

 こんな悪質なクエスト……なんで……?

 でもこれで金貨一万枚集められるのなら……。


「おばさん、俺このクエストやります」

「はん。有効な魔法も魔力もない村から出たことのない子供がをやれるのかい?」

「王都で武器は買います。それでいいですよね?」


 俺はなんでこんなヤバいクエストにしがみついてるんだ。

 隣のルミナは青ざめた顔をして下を向いている。


「……ルミナはどうするんだい?」

「え、わたし……?」

「やっぱり内容にビビったんじゃないかい?」

「いえ……。……わたしも! わたしもシンがやるって決めたからやる! 絶ッ対に金貨一万枚を手に入れます!」

「……二人とも十四歳にしては覚悟が決まりすぎてる。分かった、もうあたしは喋らん。そのクエストを遂行するがいいさ。光球を収納する瓶は全十二種類。一人ずつ色が違うから気を付けな。あとその紙には十二人の美少女の名前が書かれている。そいつらは全員胸に光球が埋まってるからな。必ず殺すように。あと小瓶の色と光球の色はそろえること。緑の光球は緑の小瓶に入れるように」


 こうして俺たちは、光珠を集めるはめになり、おばさんから旅をするためのボロボロの焦茶のバッグを二つも用意した。……あれ? あのおばさん、意外といい人だったり……?


 夕暮れ。

 俺はいつものように居候先のリリーブラウン家にお邪魔する。

 俺の家・ユーグリッド家はあまりにも貧しすぎて住めないからと、ルミナのお父さんから言われて今はこうして居候してる。

 サラのお世話も大体ルミナの父に任せている。

 周辺は閑散としていて食べられるものが少ないせいか、サラの栄養失調がなかなか治らない。


「聞いたぞシンくん! あの真っ赤な禍々しいクエストを引き受けるなんて!」


 ルミナのお父さんは豪胆で声がデカい。ウザくはあるが俺の父親の親友で俺とサラをかくまってくれるいい人だ。


「ちょっとオヤジ! 何わたしとシンがゲットしたクエスト表を手に持ってるの!? 返して!」


 ルミナが激昂して父親から強引に赤い紙をかっさらう。


「ねぇ、シン。シンは本当にこのクエストをやるの?」


 自分から誘ったくせに、なんてビビりなんだこいつ。


「やる。てか、お前が誘ったくせになに怖がってるんだよ」

「さすがに殺人は……ウエッ!」

「おいおい、ここで吐かれちゃ困るからトイレ行って来いよ」

「いや、そこまでじゃないから」


 ふと俺は室内を眺めていた。

 暖房もあるし、絨毯引かれてるし、明かりもちゃんとついてる。

 俺とサラの家は狭くて仄暗いのに。

 そして、隅っこで天井を眺めながらよだれを垂らしてる金髪緑目の幼女が居た。

 そう、そのよだれを垂らしている女こそが、俺の実妹・サラ本人だ。


「サラちゃん、今日は何食べる?」


 ルミナのお父さんがサラに問いかけ、彼女は幼く苦しそうな声で「オムライス」と答えた。

 こんなにおかしくなったサラだが、これは二年前にゴブリン大量出現してこの村の人口を大きく減らした事件のせいなのだ。

 サラはお母さんっ子なので、母がゴブリンに丸呑みされて死んだことで一気に頭がおかしくなった。

 それにしても、クエストを受けるなんて初めてした。

 俺はこの村が嫌いだからと年に一、二回ギルドに入ったことがある。

 ルミナが居なかったら、俺は一生この村で燻り続けてたと思うとちょっと怖くなってきた。


 いよいよ四人のオムライスが出てきた。


「ん~! オヤジが作ったオムライス美味~!」

「サラ これ食べるの 好き」

「そうかそうか! いやぁ、サラちゃんにそう言われると作り甲斐があるなぁ! シンくんはどうだ?」

「普通に美味しいです……」

「だよな! ……ところでそのクエストは明日から実行するのか?」


 ルミナのお父さんが、いきなりクエストの事に触ったのか、空気がピンとしている。


「うん、そうだよ。明日から行く! どうやら期限は半年だって!」

「まあ、Sランククエストなら仕方ないんじゃないか?」

「二人とも気を付けて行ってくるんだぞ!」


 そうして四人でオムライスを食べて、就寝した。

 ……ちょっと服の中を覗いてみたが、ルミナって十四歳の割に胸がそこそこ大きかったな。


 朝がやってきた。


「シンくーん! ルミナー! もう朝の七時だぞー! おっきろー!」


 なにやらうるさい声が聞こえると思ったらルミナのお父さんだった。

 丁度トイレも行きたかったし、俺は夏用の涼しげなタオルケットを布団の上に置いてトイレに行く。


 数十分後、ルミナは起きていた。かなり眠たそうだったけど。


「その茶色い鞄にアエキウィタス王国の地図を入れておいた。これなら迷わないだろう? あと二人の鞄に金貨五百枚! そして護身用のナイフ! これならまともな冒険が出来るだろう!」


 そういってルミナの父親はそのままどっか行ってしまった。


「シンと冒険するなんて初めてだよ!」

「そうだな。いつもはターザンとかしてたし」

「準備はOK?」

「ああ、OKだ」

「まずは王都に行けばいいよね! シャー! なんか燃えて来た~!」

「あんまり序盤でエネルギーを使うなよ?」

「分かってるって!」


 俺とルミナはクエスト達成を願って、二人で鞄を持って冒険の旅に出た!


 まさか、このクエストが俺を蝕むと知らずに……。


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