はじめての恋だった

春夜如夢

第1話 牡丹一華 ~アネモネ~

 私は中学生のころ一番仲良くしていた貴女の後ろをゆっくり歩くのが心地よかった。


「あのね、それでね~。」


 時々くるりと振り返っては楽しそうに笑って一生懸命話してくれる貴女といると、たまにきゅっと胸の奥が絞られるけれどあたたかいもので満たされる気がした。

 まだなにかもわからない気持ちで眩しくほほえむ貴女を見ながら笑っていた。


 高校生になって学校がわかれてもたまに会って話すあなたとのやりとりに、胸がいっぱいで高鳴る鼓動に首をかしげていた。


 軽口で、


「私の友だちに悪い虫がつかないように見張っておくの。」


 なんて話してたけれど、誰かに恋する貴女を想像したくなかった。


 久しぶりに貴女がうちに遊びに来ることになって嬉しくなった。

 一度も作ったことないくせに貴女が好きだと言っていたマカロンを前日夜中までかかって手作りした。


「すごい!おいし~いっ!」


 艶やかな唇に嬉しそうにマカロンを運ぶ貴女を見たら寝不足も吹き飛んだ。


 

 夕暮れのオレンジの日差しを受けてつややかなその髪が風に揺れて輝くのを見ると、うっとりと胸が切なくなった。


 自分の髪は男勝りなショートカットが気楽で好きだったけど、暑い土曜日の午後に


「ポニーテール飽きたからなにか簡単なアレンジ知らない?」


 なんて、聞いて来たことに得意になって、あれこれ束ね方を考えるのが楽しかった。



 本当はあなたのさらさらした髪にふれること自体が、私にとってたとえようもなく甘美なひとときだったの。



 ね。

あのとき私、貴女に恋していたわ。

はじめての恋を。


 艶やかな髪の手触りを今も思い出せる。



 無邪気に私の部屋に寝転んで笑う貴女を見て一瞬、目が眩むくらいに体温が上がったのを覚えているわ。



 自分のこころを自覚して血の気がひいた日を忘れられない。




「大好きよ。」



 震える指先を強く握りしめて伝えたら


「私も~っ!」と軽くハグされた日。


 好きの差を残酷に感じた。



 貴女には私の「好き」の意味をきっと解ってもらえない。


 そう自覚したの。



 笑顔がひきつらないように気力を振り絞って


「うん、大切な友だちだものね。」

 と笑った。



 恋する気持ちに刃を突き立てて殺し

「友人である私」を作り上げた。




 あれからずいぶん経つけど貴女は元気にしているかな。



 あの日足元の花壇で咲いていた牡丹一華アネモネを今は懐かしく眺めることができる。



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はじめての恋だった 春夜如夢 @haruno-yono

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