秘密

 夫の部屋を掃除しているとき、卓上カレンダーに㊙︎という文字が書かれていることに気がついた。

 もしかして、夫は何か隠し事をしているのだろうか? そんな思いが頭によぎった。

 ㊙︎と書かれた日にちが、何を意味するか考えてみたがわからない。誕生日でもなければ結婚記念日でもない、そもそも夫はそういうことに気が回る人ではない。

 それなら、仕事のことだろうか? いや、そんなはずはない、夫は仕事を家庭に持ち込むことはない。家で仕事をすることも、仕事の愚痴さえも漏らしたことがない。家にいる時くらい仕事のことは忘れたいというのがその理由だと聞いたことがある。

 まさか、浮気? 私は頭を振った。夫はそんな人ではない。そうは思いつつも、私は先月のカレンダーを確認すると、やはりそこには㊙︎の文字があった。さらに遡って確認してみると、月に一、二個、決まって月曜日に書かれている。

 私は記憶をたぐった。そういえば、いつも定時で帰ってくる夫が、時に二時間くらい遅く帰ってくることがたびたびあった。それが月曜日だったかと言えばそうだった気もする。それに、先月小遣いをあげてくれと言っていた。

 私はこれまで得られた情報から推理を働かせる。

「美容師の女と密会している」

 美容院は火曜日が休みのところが多い、夫はいつも美容院で散髪しているから、そこで出会った美容師と恋に落ちて、月曜の営業が終わったあとあんなことやこんなことをして何くわぬ顔で帰ってきているのではないか?

 私は次の㊙︎の日に夫を尾行することにした。


 困ったことになった、とても妻には打ち明ける事はできない。俺は深いため息を漏らした。こんなに長引くとは思っていなかった。妻に気付かれる事なく、さっさと終わらせるつもりだったのに、ずるずる半年も続けている。くそっ、今の小遣いじゃやっていけない。とうとう、へそくりを切り崩してしまった。今日こそはと思っても、いつも最後にあの悪魔のような微笑みで「また来てくださいね」と言われると、俺はただ流れに身を任せるしかない。


そして㊙︎の日


 夫が会社から出てきた。私は気づかれないように後をつける。やはり、家とは反対方向へと向かっている。夫は、足を止めると周りをキョロキョロ確認して、慌てて建物に入っていった。

「ここって!?」私は驚きのあまり、口を押さえた。


 俺は今日も妻とは違う女の前でパンツを下ろす。最初は躊躇いがあったが、慣れてしまえばなんて事はない。そんな自分が怖くなってきた。

 そしてコトを終えて、彼女は言う。

「それでは、また二週間後」

 まだ、続くのかと俺は肩を落として、泌尿器科の建物を出た。

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