モンスターお悩み相談所

山広 悠

第1話

「お悩み相談始めました」


なんだか冷やし中華みたいだな…。

ため息混じりの苦笑をしつつ、俺は洞穴の入口にお手製の看板をぶら下げた。



 交通事故で死んでしまったはずなのに、なぜか異世界で目が覚めた時は

「おっ! もしかしてイケメンの勇者になってたりして」

なんて期待したのに、まさかの生前と全く同じおっさんのまま。しかも職業がよりによって占い師って。

これじゃ転生した意味ないじゃん。

マジでやってらんないよ…。


期待した反動もありめっちゃテンションが下がってしまった俺だが、とはいえ、何もしなかったわけじゃなく、とりあえず街に行ってみて、占いの店を開いてはみたんだよ。

でも、当然のことながらお客は誰も来やしなかった。

そりゃそうだよな。

街にはセクシーな衣装を着た美人のお姉さん方が既に店を開いてるんだから。

誰がわざわざ金を払って素人のおっさん占い師の話を聞くかっつーの。


俺はほんの数ヶ月で家賃も払えなくなり、街を追い出されてしまった。


森を彷徨い、やっとのことで洞穴を見つけた俺は、生きるために、ダメ元でモンスター相手に占いを始めることにしたってわけ。


やはりここでも占いのほうはさっぱりだったが、試しにやってみたお悩み相談のほうは結構評判がよかった。そんで、看板も作ってみたんだよ。


看板をかけて洞穴の中に入ろうとした時、その効果か、大ネズミの群れがいきなり現れた。


ネズミといっても人間の子供くらいのデカさはあるし、尖った爪と凶暴さで知られているので、俺は思わず尻もちをついてしまった。


「い、いらっしゃい…」

震える声でかろうじて挨拶すると、奴らは堰を切ったように一斉に喋りだした。泡を飛ばしお互い殴りかからん勢いだ。


話を聞いてみると、どうやら奴らは10人兄弟で、母親から一度に産まれてきたらしく、誰が長兄なのかが分からないようだった。

しかも、両親共に先日冒険者に殺されてしまったために、群れの統率が取れなくなってしまったようなのだ。

加えて巣穴の相続問題もあるみたいだが、それはまあ、いいだろう。


正直、俺にとってはどうでもよかったんで、「そこの一番デカイ彼」って適当に答えようとしたら、すぐにバレて半殺しにされそうになった。

なんせレベル1の丸腰の占い師だからね。自慢じゃないがスライムにも余裕で負ける自信がある。


「あ~。タロットカードだけは質に入れるんじゃなかったな…。まあいいや。始めるか…」

俺は腫れた頬をさすりながら、何百回も吐いた愚痴と一緒に呪文を唱え始めた。


しばらくすると一匹のネズミが光りだした。

洞穴にどよめきが湧く。

まあ、これでも一応占い師だからね。これくらいのことはできる。


「あー、そこの光ってる君。あんたが一番上の兄さんだ」


目をまん丸くして、囁きあっていた大ネズミたちだったが、俺がそう告げると、姿勢を正し、光っているネズミに向かって一斉に敬礼した。


すごいね。まるで軍隊だ。さっきまでとは雲泥の差だ。


彼らは自分がリーダーになりたがってたんじゃなくて、リーダーが決まっていないと戦闘で負けてみんな死んでしまうから早く決める必要があったんだね。


めんどくさいと思ったことを、俺は少し反省した。


「大変お世話になりました!」

大ネズミたちは金を払って俺にも笑顔で敬礼すると、そのまま一列で帰っていった。


なんだよ。結構いい奴らじゃん。


今度どこかで遭遇してしまっても、戦うべきかどうかまず考えよう。

ま、今のところ逃げの一択しかないけどね。


彼らの後ろ姿を見つめながら俺はそんなことを考えていた。


                    【了】



























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モンスターお悩み相談所 山広 悠 @hashiruhito96

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