第17話 エンジュの家

「さて、治癒促進剤も手に入れたし次は防具屋か?」

「あぁ、そう思ってたんだけどな。薬師の針の話は冗談にしてもテメェの服が防護服ってのは本当だろう? なかなか性能も良さそうだし、わざわざ買わなくていいんじゃねぇかと思ってな」

 さっき触った時に俺のスキンスーツの性能は、ある程度シュマには感じ取れたらしい。


 実際このスキンスーツは防刃対衝撃を高かいレベルでまとめあげているし、傷がついても自然に塞がっている。伸び縮みも快適で、何と洗わずとも自然と綺麗になってる優れものだ。

「シュマが見た感じではこれ以上のものはなさそうなのか?」

「硬さだけでいえば、テメェの服以上のはある。だがテメェのはそれだけじゃなさそうな⋯⋯なんて言うのか格の違いを感じるんだよな。服からよ。だからその服以上のものは、少なくとも村には無いな」


「そういうことなら、買い出しは終了かな。⋯⋯ところで俺は滞在が認められるまではどこに居ればいいんだ? 野宿でも構わんが」

 俺にとっては村の中だろうと外だろうと、特に変わりはないいだがな。


「あぁ、それに関してもテミス様が用意して下さってる。一時的にだが空き家を使う許可がおりてるから、案内するぜ」

 こっちだと歩き出すシュマに、もう一つ聞きたいことがあったのを思い出した。

「後でエンジュにも会いたいんだが、どこに行けば会えるんだ?」

「今俺たちがいるのは、ほぼ最外周と言っていい区画だ。本来ならあの薬師の技量なら中央区に店を出せるんだが、採取に行きにくいってんでここに店を構えてる。エンジュは最外周から一つ内側に住んでる。テメェの家は最外周にあるからその前に連れてってやるよ」


                   ◇


「おら、ここがエンジュの家だ。もう帰ってきてるんじゃねぇか?」

 シュマに連れてきてもらったエンジュの家は、一人で暮らすならこれで十分だろうなというほどの大きさだ。

 小さな窓から灯りが漏れているので帰ってきてはいるようだ。

 ドアを軽くノックする。中でガタゴト動く音がすると、しばらくしてソッとドアが開いた。


「⋯⋯あ、イオドにシュマね。———なに貴方凄い武器持ってるじゃない?買ったの?」

 少し元気のなさそうなエンジュが顔を出し、俺の背負う獣挽きを見て目を丸くする。

「いや、シュマが案内してくれた場所でな。懐かれた」

 また触手がギュッと締め付ける。

「⋯⋯何か抗議したそうに動いてるけどね。とゆうか動くのね。貴方は出会ってからずっと私を驚かせてばかりね。頼もしくもあるけど」


「ようエンジュ、居残ってたみたいだけどよ、その⋯⋯どうだったんだよ」

 シュマがぶっきらぼうながら気遣うように声をかける。その眼差しからは口調からは伺えない本気の心配が俺には感じ取れた。

「テミス様は何て言ってたんだ?」

「ん、入って。中で話そ」


 俺とシュマはエンジュに促され、家に足を踏み入れた。

 屋内は一部屋だけのようで、手前にキッチン奥にベッド。中央にテーブルと椅子が置いてある。壁際の棚には今まで集めただろう記録媒体が所狭しと並んでいる。

「座って。キノコ茶しかないけど」

「悪ぃな。こんな時間に。こいつがお前のこと気にしてるし、俺も正直気になってた」

 シュマが申し訳なさそうに縮こまっている。俺に対する態度とは違い気遣いが感じられる。そうか。外は明るさが変わらないから、時間が判別できなかったが腕のデバイスを見ると確かにまぁまぁ遅い時間だ。


「いいよ。早めに話しておきたかったしね。イオドの準備はもういいの?」

 エンジュが用意してくれたキノコ茶を俺とシュマの前に置きながら、俺に問いかける。

 立ち上る湯気を何故か目で追ってしまう。エンジュの初めて出会った時と変わらないよう努めて振る舞ってる雰囲気を肌で感じ取り、何故か分からないが少し落ち着かない気持ちになる。


「あ、あぁ。シュマにいろいろ連れて行って貰ってな。必要なものは揃った」

「そっか。イオドなら問題ないと思うけど、無茶はしないでね」

「あぁ」

「そういえばエンジュはここに一人で住んでるのか?」

「ん? そうだけど⋯⋯あぁ、ミゼーアのことね。彼は兄貴分ってだけで血は繋がってないからね。家は別なのよ」


 兄妹の割に似てないとは思ったが、血の繋がりはないのか。

「そうなんだな」

 空気に重みを感じながらエンジュに淹れてもらったキノコ茶を啜る。シュマもどこかやりにくそうにとっくに飲み干した湯呑みを弄っている。

 しばしの無言の後、エンジュが口を開く。


「———私、もうそんなに長くはないみたい」

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