サイリウムは女神様の為に
椎野 守
第1話 降臨
まぁ……運命的な出会いなんてモンは、唐突に訪れるってのが定番だよ。だから、僕とその少女の出会いが唐突であったのは、ある意味必然ということになるのだろう。
え? どんな風に唐突かって?
一言でいえば……これも定番? ありがち……っていうか、そりゃマンガやアニメの世界だったらそれでイイんだけどさ……。
さすがに現実世界でそんな唐突な出会いが起こっちまったら、そりゃおったまげるよ?
や、マジでマジで。
夢だと思うのが普通だって!
だからちょっと聞いて欲しいんだよね……その唐突な出会いってのがどんな感じかってのをさ……ホントにもう、頼むよ。
普通にコンビニから帰ってきたらさ、まぁ、こんな感じだったのよ……。
※ ※ ※
ズボンのポケットから
ん? 奥に何かが引っかかっているのか? 上手く鍵が回らない。
ウソでしょ、またか……またなのか……。
落ち着け。
またぶっ壊したなんて言ったら、あの優しい大家の爺さんも、さすがに怒るだろう……。
二日連続で同じ
昨日、全く同じ状況で、
大家の爺さんに
修理が終わるまでおよそ三時間。僕は自宅アパートの玄関前で、待ちぼうけをくらうはめになったという訳だ。
そーいや昨日、爺さんから開錠のコツを教えてもらったなぁ。
はあぁ……仕方ねぇ、とりあえず試してみるとするか。
「……ひらけーごま」
感情ゼロ。完全なる棒読みで、ぽそっと小さく呪文を
……そっと辺りを見回す。……誰にも聞かれてねぇよな?
あら不思議! まるで魔法のようにスルリと心地よく鍵が回転し、何の引っかかりもなく開ける事に成功したのだ!!
「んな訳あるかい!」
おっと、思わず声に出ちまった……。
とは言いつつも? 鍵、開いたな……。 教えてもらった呪文が効いたってことなのか?
……なーんてね、そんなワケないか……。
このボロアパートめ、面倒ばかりかけてくれる。いい加減見捨てて、都心のタワーマンションにでも引っ越そうかな……。
……まあ、ムリだよね。
はぁ〜っとため息をつきながら、玄関ドアを開けた。
ん……? 部屋に入った瞬間、違和感を覚えた。
ダイニングキッチンに、
男の一人暮らし。彼女いない歴二十年。そんな僕に、そんな
部屋の中を見渡してみる。1DK……に変わりはない。けど、ダイニングテーブルや椅子、家電製品、調理器具……家具という家具がまるごと違う。全くの別物にかわっている……。
九月。残暑厳しい
ギンガムチェックのテーブルクロス、子猫のカレンダー、観葉植物。
と、とってもお洒落ですねぇ……もしかして……部屋、間違えました? ……
お隣りは……たしか中年のオッサンが一人暮らしのはず……こ、これは……趣味? というか
2階建て、各階それぞれ3部屋ずつしかないアパートの201号室。
たった今、コンビニで昼飯の弁当と、ついでにビールも買ってきたけど、こいつは今晩、風呂上がりに飲む予定だ。酔っ払ってるってわけでもない……。
いい香り……フローラル? いや、ラベンダーか? 良く分かんねぇけど、ほんのりそんな香りもする。
うん? 耳を澄ますと、ザーッという雨音が聞こえてくる……。
あれ? おかしいな? 今日は晴れのはず? もう九月だってのに、日差しが痛いくらい、いい天気だよ?
ダイニングキッチンの右手の扉……雨音は、どうやらその中から聞こえてくるようだ。
あの扉……あの扉の向こうは……。
何これ? もしかしてコレって……
僕ってば、転生しちゃったのかな? 異世界に迷い込んじゃったのかな? ようやく僕が主人公の、超大作異世界ファンタジーが、今ココに幕を開けてしまったのかな!? …………とか?
美少女を助けようとしてぇ? トラックに
うーん、残念ながら美少女を助けた覚えがないんだよね……剣も魔法も見あたらないし。
こーゆーのって、何て言ったっけなぁ……そう……たしかその……パラレル……ワールド?
現実世界とそっくりな、時間
迷い込んでしまったのか? 迷ってしまったのかな? ……人生に?
目をゴシゴシとこすって、もう一度室内を見渡す。どうやら
それにしてもこの部屋、ファンシーっていうか、メルヘンチックっていうか、その……つまり……じょ、女子っぽいよな……。
一言で言うと、女子部屋。
そうそう、僕とは無縁の女子の香りがプンプンと……って、うっせぇよ。
ん? 扉の前に、何か置いてあるぞ? もふもふしてる……スリッパ? ピンク色!? ご丁寧に
あ……ヤバいね。これは……マジでヤバい……。とんでもねえ
「キュッ」という音と同時に、雨音が消えた。……だよね、晴れてるし……。
扉の向こうから、バサバサという音が聞こえてくる。
うーん、この音……間違いねぇな……中に誰かいるよね? これ。
ますますヤバいね……てゆーか、非常にマズいねこれは……だって、あの中は……。
今ならまだ間に合う。ササッと玄関ドアを開けて、外に出ればいい。外から鍵をかけちまえば、それで万事OK。そうすりゃ、何にもなかったことになる。何も問題ない。
……ん? 何も問題ない……?
ここって、僕の部屋……だよね? 鍵開けて入ったし、問題ないよね? 僕がここにいても……問題ないはずだよね!?
いや……問題あるだろなぁ……なーんとなく、そんな気がする。
ガチャリと、ユニットバスの扉がゆっくりと開かれる。
いやー、マジで出てきちゃいますよ……美少女さん。出会っちゃいますよ!?
これってもしかして……もしかしなくても……不法侵入?
いやいやいや、違うんですよ! だって鍵開けて入ったもん。ウソじゃないんです!
さっきから見てましたよね、そこのアナタ……アナタですよ!? 後ろ振り向いたってダメです! 知らん顔なんてさせませんよ?
信じてくれますよねっ!?
白く
うわー、さすがにヤバいよ! ホントにマズい! もう間に合わないっ!!
タオルで無造作に
ゴクリ。
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