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短いような長いようなやけに静かな沈黙が続いた後、意を決してジェスは口を開いた。
「先日、先代様の遺品整理をしていた時に、先代様からの遺言書を発見いたしました。その中には、レリア様、コリア様を次期辺境伯にするようにと記述がございました。先代様は奥方の思想に染まってしまった自身の息子を最後の最期で見限っていたのでしょう。ですがタイミング悪く、先代様はレリア様コリア様が生まれてからすぐに先ほど申し上げたスタンピード対応に出かけ帰らぬ人となりました」
そこで言葉を切って、ジェスは手を放し、床に額づいた。レリアとコリアだけでなく、ロナルドまでぎょっと目を見開いた。
「ジェス、そんなことーー」
「申し訳ございません、レリア様、コリア様。私は先代様のご遺志だと、いえ、それを盾にあなた方がどんな扱いを受けているか知りつつ目を背けてきました。現御当主、いえ、あなた方の父君を支えることが先代様に大恩がある私の生きている理由だと思ったからです。いえ、それさえも自分をだますための理由だったのかもしれません。私はただ、自分を守りたかっただけかもしれません」
「「……」」
「そして、そんな罪を犯しながらも、なおあなた方に私は懇願しなければならないのです。どうか、どうか、先代様の意思を、領地を、責務を、継いではいただけないでしょうか、先代様が次代の御当主に指名されていたのは、レリア様コリア様、あなた方です。帝都まで行って確認を取りましたが、あなた方のお父君は当主代理であって当主ではありませんでした。このことは私しか知らないと思われます。そして、あなた方が望めば今すぐにでもあなた方が当主になれるようになっておりました」
「ま、待ってくれ、ジェスさん。レリア様コリア様二人とも当主ってありなのか? それに、先代様はいつそんな手続きを……」
ジェスは顔を上げてふうっと息を吐いた。
「少々急きました、申し訳ございません。ロナルド、帝国法には嫡男嫡女が双子だった場合は満18までは二人ともを当主として扱い、適性を見るべしとある。基本的には嫡男が優先されるが、こと辺境においては、戦闘能力が一番高い方が優先される。まあ、つまり18まではお二人が御当主ということだ。それと、お前も知っているだろうが、先代様はやたらと勘の良いお方だった。もしかしたら自身の死期が近い事を悟られていたのかもしれない。書類の手続きの日付はスタンピードから1週間前、つまりレリア様とコリア様が生まれてすぐの日付だった。これは推測になるが、お二人に対する御当主代理の対応を見て見限ったのかもしれない。書類は最速の小龍便を使ったのだろう、あれは御当主しか使えない機密郵便だからな」
「……つまり、ジェスさんも知りようがなかった、と」
「ああ。スタンピードを押さえて帰還したら教えてくださる予定だったのではないかと思う」
「ーーむしの良い話ね」
レリアがポツリと呟いた。コリアも眉をひそめて何かをこらえるような顔をしている。
ジェスとロナルドはふたりで頭を深々と下げた。そうするしかなかった。二人にもこれがひどい話だと分かっていたからだ。
「……あなた方二人が、この土地で、どのような扱いを受けたか存じております。我々もその一員だったことも。ですから、卑小のこの身ではありますが、残りの生をすべてあなた方に捧げますのでどうか、この土地を、先代様の意思を繫いで下さませんか。どうか、どうか、伏してお願いいたします。この土地の重要性がお分かりでない御当主代理では、いずれこの土地は魔に飲まれるでしょう。どうか!!」
再び額づくジェスと、それにならったロナルドをレリアとコリアは見つめた。
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