第43話 出発当日

 出発の日、ETDは20時だがケンとソフィアは昼前には15番ピアに行きアイリス2に乗り込んで自分達の荷物を部屋に置きそれからピアに来ていた情報部や大統領府の職員らとアイリス2の食堂のテーブルで打ち合わせをする。


「ご存じかと思いますが大統領は非常に気さくな方で食べ物や部屋についても無理な注文は出されません。しかもこのアイリス2での移動を進言されたのが大統領御自身です。ケンとソフィアがいるアイリス2なら安心だろうとおっしゃっていますし大統領には普通に接して頂いた方が大統領自身もお喜びになられると思います」


 大統領府の職員の話を聞いている二人。


「食事も特別にしなくても良いってことね」


「はい。積み込んでいる食材で対応してもらって構いません。こちらから特に積み込む予定はありませんので。食事の場所については大統領に直接聞いてください。おそらくですがこの食堂で皆さんと一緒に召し上がると思います」


 ソフィアの言葉に答える職員。


「要は特別扱いしなくても良いってことだな。それならそういう対応を取らせてもらうよ」


 ケンの言葉にもOKだという職員。大統領府の職員が出ていくと今度は情報部との打ち合わせだ。主にルートの確認と途中で緊急事態が発生した場合の対処方法だについて話をする。


「ルートについてはケンから出たルートを情報部内で共有している。何らかの事情でルートを大きく外れる必要が出てきた時は連絡してくれ。それと緊急事態。他星の軍隊や海賊船に絡まれて逃げられないとケンが判断した際にはケンの判断でNWPしてくれ。機密保持は重要だがそれ以上に大統領以下乗員の人命の方がずっと重要だからな。船の中ではケンが最高責任者だ。大統領もいるし外交部長、うちの准将らもいるが気にすることはない」


 スコット大佐の言葉にわかりましたと頷くケンとソフィア。


「客人の安全を最優先にして対応しますよ」


 それで頼むと言う情報部員。情報部との打ち合わせが終わって彼らと一緒にコーヒーを飲んでいるとドックの技術者が2名乗船してきた。マーベルというエンジンを見る男性の技術者とアンジーというコンピューターを見る女性エンジニアだ。この任務が決まってから既に彼らとはここ15番ピアで顔合わせしている。


「今回はよろしくお願いします」


 二人と挨拶を交わすとソフィアが立ち上がって二人を客室に案内する。二人の部屋は階段を上がって左側の手前から2つだ。彼らは荷物を部屋に置くとすぐに降りてきた。


「早速点検してきます」


 そう言ってマーベルは1階に降りていき、アンジーはアイリスと話をしながらチェック作業に入った。


 4時ごろにシュバイツ准将とアンドリュー中佐が乗船してきた。同時に情報部部員が彼らの荷物以外にいくつか荷物を持ち込んでソフィアに准将と中佐の部屋の部屋の場所を聞くとそこに運び込んでいった。


「お二人、また世話になるよ」


 軽く手を上げて乗り込んできた准将が言う。ソフィアが准将を部屋に案内する。准将の部屋は廊下の奥の右側の大統領の隣の手前側の部屋だ。そしてアンドリューは階段を上がって右のいちばん手前の部屋になる。


 部屋割りは大統領府の担当者が決めた。ケンはもちろんだがソフィアもその辺りの序列に詳しくない。完全に人任せにしている。


 准将と中佐が荷物を置いて降りてきた。ソフィアが淹れたコーヒーを飲みながら打ち合わせというか雑談タイムだ。


「今回は移動で6日、現地で4日の強行軍だ。とはいえNWPでの移動なので肉体的にはそう疲れないだろう。心配すべきは時差ボケだな」


「移動中は部屋でリラックスしてください」


 シュバイツの言葉にケンが言うと


「そうしたいところだが事前打ち合わせってのがあってね。前回の様にのんびりとできそうにはないんだよ。部屋よりもこの奥にある会議室に籠ることが多くなりそうだよ」


 本気かどうか嫌そうな表情になる准将。その表情を見てアンドリュー中佐が言った。


「地球での会談は大統領と外交部が全面に出て行われる。その間情報部はあちらの参謀情報本部と別の部屋で打ち合わせをする事になっている。お互いに相手は違うが差し迫っている脅威はあるからな。建前は情報交換だがNWPの件は間違いなく彼らから議題に上げてくるだろう。どこまで開示するかという駆け引きがある。准将には頑張ってもらわないと」


「アンドリュー、貴様は逃げられるとは思ってないだろうな」


 中佐が言った後で准将が笑いながら言った。ケンとソフィアもつられて笑う。


 そうしている間にも関係者がアイリス2に乗り込んでは作業をしてく。水や食料、カートリッジなどの積み込みが終わった頃エンジンを見て外回りをチェックしていたマーベルが戻ってきた。


「NWPエンジン、補助エンジンに異常はありません。よく整備されてます」


 報告が終わるとマーベルは一旦機体から降りてドックの中の整備所に消えていった。コンピューターを見ていたアンジーもこちらにやってきて


「アイリスは問題ありません。バージョンアップも正常でした。この調子ながら今回の移動中に私の仕事はないかも知れません」


「マーベルとアンジーが暇な方がいいんだよ。でも何かあったらその時はよろしく頼むよ」


 ケンが言うとわかりましたと言って2階の部屋に上がっていった。しばらくしてマーベルがいくつか工具を持って戻ってきてそれを1階の工具入れに収納すると彼もやることはやったと部屋に上がっていく。彼らは移動中のアイリス2の整備はもちろんだがそれ以外に情報部のサポート要員として乗船していた。現地では専門部会の席上NWPに関する質問、またAIに関する意見交換などが予想され専門家としての知識が必要になるという判断だ。


「往復の移動の約6日間程を機内で過ごすことになりますが、食料、水ともにかなり多めに積んであります」


 物資担当の職員がそう言ってその明細をケンとソフィアの端末に送付してきた。それをみたソフィア。


「これだけあれば全く問題ないわね」


「調理担当のソフィアが言うのなら俺からは何もないよ。ありがとう」


 全ての出港準備が整ったのは夕刻の18時だった。あとは外交部のメンバーと大統領らを待つだけだ。


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