第8話 シュバイツ准将

 翌日迎えに来たエアカーに乗ってアイリスの船があるポートシエラ8番ピアに出向くとそこには全く人気がなかった。


「結構な数の情報部員や研究員が動くので今日はここは人払いをしている」


 ケンらよりに先についているシュバイツが言った。そうしてケンを先頭に12名のメンバーが博士の製造した船に乗り込んだ。全員がコントロールルームに入ると、


「ジャスミン」


 声を出すとすぐに


『初めまして。この船と博士の基地を管理しているAIのジャスミンです』


 船内にあるスピーカーから声がする。


「船の中の調査は向こうでもできるだろう。とりあえず出発しても良いか?」


 大丈夫だというシュバイツは船長席に座り、ケンは航海士の席に座った。他のメンバーも思い思いに椅子に座る。


「ジャスミン、出発してくれ。目的地は小惑星の博士の基地だ」


『わかりました。浮上します』


 船がゆっくりと浮かび上がっていく。乗り込んだ12名のうち技術者らしい数名が声を上げた


 船はそのまま上昇するとメインエンジンに点火をして宇宙空間に飛び出した。そして来た時とは違うルート、星がない方向に船を飛ばしていく。離陸から30分後、


『周囲500万kmに船影無し。NWPに入ります。ワープインは3分後』


 その声を聞いて全員が座っている椅子のシートベルトを締める。


『ワープ10秒前、…3、2、1ワープ』


 と同時に軽いGがかかり体が椅子の背に押し付けられる。来た時と同じ様にトンネルの様な漆黒の空間をとてつもない速さで船が進んでいく。


『ワープアウトは3分20秒後です』


 ジャスミンの報告が終わると乗り込んでいる連中が感嘆の声を出す。


「これならどこからでもワープできる」


「しかも時間が相当短いぞ」


 ケンは航海士席に座って彼らのやりとりを聞いていた。正面には何も写っていない。超高速で機体が進んでいるという感覚すら感じないほど安定したワープだ。


『ワープアウト1分前』


「ここに来た時はワープアウト時の衝撃もほとんどなかった。ただ念のためにシートベルトはした方が良いだろう」


 ジャスミンの声を聞いたあとケンは言ったがほとんどの乗員はシートベルトをしたままだった。


『ワープアウト10秒前… 3、2、1ワープアウト』


 その声がすると同時にモニターに宇宙空間が映し出される。


『周囲500万Kmに船影無し。このまま目的地に向かいます』


 飛行艇が通常速度で10分程進むと小惑星群が見えてきた。ゆっくりと減速して小惑星群の中に入っていく。


「あれだよ」


 ケンが声を出すと全員の目が正面の窓に注がれる。そこには見事に周囲に溶け込んでいて外からは基地に見えない小惑星が浮遊していた。


「見事なカモフラージュだ」


 シュバイツの声が背後から聞こえてきた。船が小惑星基地の中に入ると背後で扉が閉まる音がし、空気が注入されていくランプが着く。そして進むと鉄製のゲートが見えてきた。ゲートが開き飛行艇が中に入るとゆっくりと機体が下がっていく。


『3メートル、2メートル…着岸しました。重力1G、空気中の酸素濃度問題ありません』


 シートベルトを外して立ち上がったケンは


「ジャスミン。全員が基地のコントロールルームに入ったら俺が見た博士のメッセージをもう一度流してくれるか」


『わかりました』


 ケンは後ろを振り返るとシュバイツに、


「ここからはあんた達の仕事だろう」


「そうだ。それにしても見事にカモフラージュされているな。これでは簡単に見つけられない」


 シュバイツもこの場所を隠れ家にした博士の慧眼に感心していた。順に船を降り中に入っていくのを見ながらケンは船を降りると自分の船に近づいていった。


『修理は終わっています』


「ありがとう。助かったよ」


 外から一通り自分の船を見たケンが中に入るとシエラ情報部のメンバーはモニターでアンヘル博士の言葉を聞いているところだった。部屋に入ったところの壁にもたれて同じ様にモニターを見ているケン。


 博士のモニターが終わって画面が暗くなるとシュバイツが近づいてきた。他のメンバーは基地内のあちこちに散らばっては仕事を開始している。


「博士のこの基地を見つけてくれてありがとう。改めて礼を言わせてもらうよ」


「全くの偶然だけどな。それより今から25年以上も前にこの基本技術を開発していたという博士は本当に天才だったんだな」


「その通りだ。当時私は情報部の中尉だった。博士に近づこうとするファジャルを排除するのが仕事だったのだ」


 シュバルツが語りだした。博士がまだシエラ第3惑星に住んでいた頃、次々と新しい技術を開発する博士を取り込もうといろんな惑星国家がシエラ星にアプローチをしていた。ほとんどは外交筋からのアプローチで友好条約や不可侵条約を締結する見返りとしての技術の開示を求めていたが、ファジャルだけは最初から恐喝というアプローチをしていた。技術を出さないとどうなっても知らないぞというマフィアまがいの脅しをしていたという。


「博士はシエラ第3惑星内の自分の研究所で研究を続けておられた。研究所の周囲には常に軍が駐留して警戒していた。そして私は研究所の中で博士の身辺警護をしていたのだ」


「それほどファジャルの脅しはきつかったのかい?」


「武力行使も辞さないという外交文書が送られてきたりしてな。国民には知らせなかったが軍はずっと最高度の警戒体制を維持していた。当然我々の惑星に来る船はすべての船が検閲対象になった。実際に港でファジャルの関係者の検挙が相次いだ」


 基地の中を動き回る情報部員や研究員らに視線を向けながらシュバイツは話を続ける。


「博士は自分の研究で軍や民間人に迷惑をかけるのことに対して心を痛めておられた。そしてある日我々に提案を出された。それは惑星の外で研究を続けるというものだった。政府と軍は提案を受け入れて第1惑星、資源星の衛星軌道上にあった小惑星群に目をつけ、時間をかけてその小惑星群の中にダミーを作ったのだ。それがここだよ」


「なるほど」


 彼によると第3惑星の研究所の警備は従来通りに続けていかにもそこで研究を進めていると思わせながら博士を秘密裏にその新しい基地に移したのだという。


「小惑星のダミー、つまりこの基地が完成すると博士はここにこもって研究を続けた。我々情報部は軍の部隊とも連携してこの小惑星群の周囲を警戒していたのだ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る