近未来的泥棒

グカルチ

第1話

 アユルは、アンドロイドだ。彼女は内なる正義感があった。その理由がわからなかった。なぜなら曖昧な自分の過去の記憶をたどると、彼女は警察組織に雇われていたアンドロイドだったと思うのだが、何か不足した日々を送っていた気がするのだ。とてもひどい事をやらされていた気がする。


 もともと自分は何かの罪を犯して、その犯罪組織に雇われていたような。街角を歩いていると、街頭モニターであるニュースが流れる。

「“人格化アンドロイド”が再び事件をおこしました」

 アンドロイドには、人格がない。あるとしてもそれは国の認めた特定のパターンのみだ。厳格な制限がある。なぜなら、人格、感情、知識が自分の考えるように発達したら、アンドロイドは完全な自我を持ってしまうから。

 その異変が生じたアンドロイドは処分されてしまう。アユルは自分の中に自我があることを少なからず感じていた。だから、まともな職にはつけない。


 アユルには、確信があった。これが目覚めたために、自分は警察組織に雇われていたのだという。だが、もはや《アンドロイドレーション》も欠け始めている。手持ちの金もつき、どうしようもない。


 どこから逃げてきたのだろう。画家の家に居候していた気もするし、貧乏なスラムに打ち捨てられていた気もするし、警察から逃げ、廃棄処分寸前だった気もする。そんな事はどうでもいい、ふと、考えついていた事があったのだ。

「ベルク、情報をうって」

「まあいいが、あんたもう、持たないんじゃないか?」

「あんたには関係ないでしょ」

 路地裏にさしかかるといつも同じ場所にいて掃除をしている”情報屋”から情報をかいとった。ある強盗の拠点の情報だ。彼女は、今夜決行する気だった。


 その夜、まんまと強盗宅に忍び寄る。その行動力と、事前情報の把握、そして、降りわるく接触した強盗の下っ端たちとの小さな戦いを経て、強盗の金庫をみつけた。情報にあったものと同じ、特殊な器具を使い金庫を開けると、財宝をすべてもらって、退散しようとした。その瞬間、振り返ると薄暗い部屋に、警察官の格好をした男がたっていた。


「探したぞ、アユル、警察に戻るんだ」

「!!!」

 アユルは、あえなくつかまった。もとの部署に配属されるという事になった。

強盗もつかまり、アユルが盗もうとしたものも警察に押収された。

「どうして私を捕まえられたの?」

「情報屋からかいとった情報でね」

 アユルは絶望した。そのまま、自分を捕まえた警官の車に乗せられ、一度署に向かうという事になった。そこで“メンテナンス”を行うという。だがアユルは奇妙な感じがした。そもそもアユルが犯罪者を狙う犯罪を試みたのは、あの情報屋がヒントをくれたからだ。

「悪い奴は裁かれるべきだ、だが裁く人間が、善人である必要があるだろうか」

 その言葉に何か既視感を覚え、それから犯罪者に対する犯罪で資金を得ようとした。赤信号で車両が止まる。アユルは警察官にいった。

「ねえ、トイレいきたいんだけど」

「我慢しろ」

「私を疑うの?私には“首輪”がついているのでしょ?あなたたちは、いつだって私を爆破できる、それなのに私を殺さなかったのは、私が重要だったからでしょ?ホラみて、バイタルにエラーがでている」

 そういうとアユルは、自分の手のひらから、ホログラム上のモニターをだした。確かに異常を観測している数値が映った。

「仕方ねえ」

 そういって、車を止めた瞬間。警察官は後ろからアユルに首を殴られ、失神した。


「逃亡されました」

「チッ、気づかれたか、まあいい、永久に“犯罪の迷路”をさまようのだから」


 3XXX年その未来では、完全犯罪は実現されていた。そして法の整備と対策はイタチごっこで、取り締まることができなかった。その犯罪とは、犯罪者の財産を盗む行為。それを廃棄されたアンドロイドに記憶を操作して実行させることが流行していたのだった。


 アユルを捕まえた人間たちも、警察を装った犯罪組織だった。アユルに“自分たちから逃れると必ず記憶を忘れ、同じことを繰り替えすシステム”を組み込んでいたために、アユルを再発見したのだった。


 アユルはまた記憶を忘れ、犯罪者を襲い、その痕跡を残すだろう。また犯罪者に使われ、犯罪者から、犯罪の成果を盗み取るために。

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近未来的泥棒 グカルチ @yumieimaru

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