第九話 グラビア撮影からは逃げられない

 今日の午前中のお仕事は、午前中は『声優グレード1』という雑誌の表紙グラビア撮影と巻頭大特集のインタビュー取材でして。

 世の中には、ボクのようにルックス優先の声優も大きく取り扱ってくれる神様のような雑誌があるってわけ。

 そしてファンの皆がその雑誌を沢山買ってくれるから、次の仕事にも繋がって美味しいご飯が食べられている。

 ありがたや~。


 しかも!

 ボクのデビュー3周年記念ということで!

 表紙グラビアだけでなく20頁も特集記事掲載なんて、はじめての試みで!

 これが売れれば、その翌月に発売される予定の6th写真集(ギリシャのミコノス島で撮影済)の良い販促になるに違いなし!


「いいわね~! 今日の姫希ひめのちゃん、最高に輝いてるわん!」


 今のボクは、多分瞳の中にドルマークを浮かべながら、神山かみやま先生が構えるカメラの前で、様々なポーズを作り続けている。


 神山かみやま先生には、ファースト写真からお世話になっているけれど、ボクのプライベートには一切踏み込もうとしない先生のプロ意識には、傲慢なボクも素直に敬意を抱いているよ。

 偏見かもしれないけれど、カメラマンの先生って遊び慣れた人多そうだから、他の先生は苦手なんだよね。

 彼氏は欲しいけど、遊び相手がほしいわけじゃないので!


 「本当にありえないほどの透明感と存在感! 別人と見違えそうだけど、間違いなく姫希ひめのちゃんなのが不思議ね~」


 間違いなく、交尾価値メイトバリュー才能タレントの影響でボクのルックスが向上してるんだろうけれど。

 うかつに打ち明けられるお話ではないので。

 最高のシャッターチャンスを提供することで、返答とさせていただきました。


 インタビューについては、あらかじめ頭に入れておいたの内容から大きく踏み出さない無難な回答に全力投球!

 ボクが思うがままにフリーダムにインタビューに答えてしまうと、事務所が全部訂正しちゃうんだよねえ。

 まるでアイドルらしくないと!


 前世は200歳生きても彼氏なしの干物エルフだったものでして。男性ファンの皆さんが喜ぶような清純派という概念は全く理解できないのだよ。

 とほほ。

 どんなキャラクターや役柄よりも、アイドル声優を演じることの方が一番ボクには難しいね!

 そんなボクにもガチ恋勢がついてくれているのは不思議なんだけど。

 彼氏は一向にできそうにないので、あまり意味無しでガックリ。


 午後のお仕事は、ウォーチューバー姫騎士クッコロとしてグラビア撮影。ロケ地は、薬草ダンジョンの採取者向けに開放されている草原エリア。

 スタッフは全員採取者に準ずる有資格者で、ダンジョン省から撮影許可も得ている。


 こちらは声優雑誌の掲載ではなく、写真週刊誌のお仕事でして。

 

『クッコロのグラビアは数字取れますよ』


 などと餌を与えることで、マスメディアを味方にするというメディア戦略なんだとか。


 カメラマンは午前に引き続き、神山かみやま先生なので、クッコロの正体が貴志姫希きしひめのなのバレバレだよね?

 大丈夫? 週刊誌にスクープされたりしない?


 などと内心ドキドキしていたけれど、神山かみやま先生は何一つツッコミを入れることはないことはなくて、正直ホッとした。

 仮に、気がついていても、神山かみやま先生は余計なことは口外しないよね。


 だからボクが変わりにツッコミを入れたい!

 なんだよ、このビキニアーマーなどどいう水着見たいな鎧は!

 こんな隙間だらけだと、防御力があるようには全く見えないよ!

 でも、動きやすいのは最高かよっ!


「クッコロちゃん、もっと胸を寄せてみてくれるかしら?」


 貴志姫希きしひめのの時よりも、神山かみやま先生の指示もどこか叡智で、大胆なショットが増えていく。


 肌面積過多が気になる人はいるかも知れないけれど、ボクとしては乳首と局部さえ見せなければいいんじゃね? というのがグラビア仕事の時の心構えなのではあるのだけど。

 事務所の方針で、貴志姫希きしひめのとしては、あまり過激なグラビア仕事はNGなんだけどね。


 男性にとって性欲と恋愛感情は、決して切り離せない関係であることをボクなりに理解しておりまして。

 もしも未来の彼氏がボクのことを見つけてくれるのであれば、ある程度は叡智な仕事をしてもいいと覚悟している。

 そのために、恵まれたナイスバディと声質を一番利用できるアイドル声優なんてしてるわけで。


 声優事務所って所属声優の写真の扱いに対しては、一般の芸能事務所がドン引きするくらいに神経質に管理するようでして。


 貴志姫希きしひめののかわりに、姫騎士クッコロとしてはある程度露出していこうという方針になった次第なんだとか。


 思い切った舵取りだけれど、声優としてだけでなく、ウォーチューバーとしての活動で鷹觜たかはしマネージャー以下、スタッフ諸氏には今後も迷惑かけ通しになる見通しだから。

 ガッツリ稼いで、みんなの昇給とボーナスの査定に貢献せねばなるまいて!


 ようやく撮影も終わり、撤収の準備を始めた頃にスタッフの制止を振り切って6人の男達が現れた。

 このプレッシャーは、それなりに強そうなウォーチューバーかな?


「なるほど、お前が姫騎士クッコロかっ! 随分と調子に乗っているようだなっ!」


 赤いフルフェイスヘルメットとボディースーツで全身を隠した、赤い男がキャンキャンと吠えよるわ。


「ここは、諍い禁止の採取者向けエリア。喧嘩を売りたいなら、明後日に開放される伝説の森の最奥まで遊びに欲しいかなー」


「伝説の森を私物化するな! ゴブリンケイブダンジョンは、俺達ペンタゴン野伏のぶしが完全攻略するはずだったんだぞ!」


 とんでもない言いがかりに、ボクの表情も引きつる。

 にらみ合う、赤い男とボクの間に、鷹觜たかはしマネージャーの大きな背中が割って入る。


「そこまでです。レッド野伏のぶしさん。あなたが所属する八ツ手プロダクションには正式に抗議させていただきますよ」


「なんだ、てめえ!」


 などと他のカラフルな野伏のぶし達がいきり立つ。しかし泡食ったレッド野伏のぶしとやらが、片手を上げて静止する。


「ま、まて、お前ら! ……鷹觜たかはしさん、あんたに喧嘩を売る気はねえよ。借りが幾つかあるしな。すまなかった」


 驚いたことに鷹觜たかはしマネージャーには、ペンタゴン野伏のぶしとやら全員がレッド野伏のぶしに続いて素直に頭を下げた。

 鷹觜たかはしマネージャーって、本当は何者なんだろ?

 できる男は違うねえ!


 ペンタゴン野伏のぶし達のそれぞれの実力は、ある程度見定めたつもりだけれど。

 キングゴブリンと一騎打ちできそうなメンバーは見当たらないね。

 小娘のボクの活躍を見て、自分達も! と勘違いしちゃったのかな?

 これはわからせ甲斐がありそう!


「出直させてもらう」


 レッド野伏のぶしは、鷹觜たかはしマネージャーに頭を下げてから、再度ボクを睨みつける。

 ボクも睨み返してやると、レッド野伏のぶしは舌打ちしてから手下を連れて去っていった。


「クッコロちゃん、よく我慢したわね。偉いわー」


 まだ撤収してなかった神山かみやま先生が、シャッターを切る。


「褒めてくださってありがとう。神山かみやま先生。一時的な感情に身を任せて、みなさんを危険に巻き込むほど、ボクは愚かではありませんよ」


 お調子者の野伏のぶせ達が、ノコノコと伝説の森に侵入したらどうしてくれようか。

 ボクながら悪い笑顔になっていると、神山かみやま先生は、再度シャッター音を鳴らした。

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