冬の王子さま

林風(@hayashifu)

第1話

今日は、サークルも午前で終わりで、神社の前の、芝生の公園に来ていた。冬、といっても、まだ暖かいほうだ。日差しがあって、ほんの少し気持ちいい。ぼくは、芝生公園の、真ん中のベンチに座って、のんびりと本を読んでいた。12~13ページにめくるとき、サークルでいつも、となりの席に座る女性が、歩いてきた。きょろきょろしている。誰かさがしているのかな?ぼくは、そのひとの名前を知らない。思い切って、そのひとに声をかけた。

「あの......?」

「はい?」

「いつも、サークルで会いますね......?」「え?」

そのひとは、ぼくがいつも、となりに座っていることなど、気付いてなかったようだ。ぼくは、いつも、気にしていたのに、自分一人だけ、意識していたことに、恥ずかしくなる。

「だれか、探してるんですか?」

たずねると、バタバタバタバタ!鳩がいっせいに、飛び立っていった。

「王子さまを探してるの...…」

「え?」

王子さまを探す?少女じゃあるまい。そんな、王子さまなんて、いるはずないじゃないか。なんだ?

「お名前、なんていうんですか?」

「田中です。田中瑞季です」

瑞季さんていうのか。かわいい名前だな、と思った。

「じゃ、わたし、これで!」

え?ぼくの名前聞かないの?なんだ。すれ違ってばかりだな。ま、王子さまを、探してるんじゃ、仕方ないか。と思い、読んでいた本をめくる。『運命のひとと出会う』という、タイトルの本だった。

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