ミケランの心のこり

喜島 塔

第1話「猫天原にて」

―― ここは、猫天原ねこまがはら


 虹の橋を渡ったネコちゃんたちが暮らす天空の楽園。幸せな猫生を送った子もそうでない子も、皆、幸せそうに暮らしています。


 おや? あそこに見える三毛猫の子、なんだか、ちょっと寂しそう。どうしたのでしょうか? ちょっと、近づいてみますね ――


「どうしたのじゃ? ミケランよ。何か悩みがあるのにゃら、ワシに話してみなさい。そなたの助けになることができるかもしれにゃいぞよ」

 

 もふもふの白い毛に包まれた、猫天原にいるどの子よりも大きいネコが三毛猫の子に話し掛けた。その透き通ったサファイアブルーの瞳に吸い込まれそうになりながら“ミケラン”という名の三毛猫は言った。


「ね……ネコ神さま! ご心配おかけしてしまってごめんにゃさい……あたちは、とても幸せな猫生を送ってきました。生まれてすぐに飼い主さんに捨てられてしまいましたが、その後、そらくんのお家の家族としてあたたかく迎え入れられて、12年という長い猫生をまっとうし、本当に本当に、幸せすぎるほどに幸せでした……『我が猫生に悔いにゃし』なのです」

 

 そう言いながらも、ミケランのエメラルドグリーンの瞳には悲しみの色が映し出されていた。


「そうか。それは、まことに素晴らしいことにゃ! しかし、そなたの言葉とは裏腹に、そなたは何かを憂いているように見えるのじゃが、ワシの気のせいかにょ?」

 

 ああ、ネコ神さまはなんでもお見通しなんだとわかったミケランは、正直に悩みを打ち明けた。


「あたち……空くんのことが心配にゃんです。あたち、何の前触れもにゃく、空くんが学校に行っている間に、眠るように虹の橋を渡ってしまったから……そのことで、空くんは悲しんでいるんじゃにゃいかと思って。『ありがとう』って、空くんに言えにゃかったことがあたちの心のこりにゃんです」


「にゃるほど。そういうことじゃったのか。そなたの事情はようわかった。もし、そなたが良ければ、そなたの願い叶えることも可能じゃが、やってみるかね?」

 

 ミケランのエメラルドグリーンの瞳が満天の星空みたいに、きらきらと輝いた。


「はいっ! やってみます! ありがとうございます、ネコ神さま!」

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