勇者パーティを追放された【役立たず】なワタシはもう引退したから「どうしても戻ってこい」って言われても【無能】な男と仲間になったからもう遅い。

かみひとえ(カクヨムのすがた)

【役立たず】

 ワタシの物語はここで終わりかもしれない。


「――なるほど。幼なじみだった勇者とパーティを組んでいたが、あんたが授かったスキル、【役立たず】のせいでパーティを追放された上に、新規加入した大人のお姉さんの魅力にも勝てずに誰にも引き留められなかったわけか」


「改めて要約されるとあまりにも辛すぎる!」


 そう、ワタシはたった今、無職の宿無し美少女になった。いや、もはや、美少女でもない、リリアさんの魅力に完敗だったのだから、良くてカワイイ女の子だろう。「いや、あんたはちんちくりんでいいだろ」「初対面で傷心の女の子の傷をさらに抉らないで!」


 確かに、悔しくて着の身着のまま飛び出してきたから、イモいもっさりワンピース一枚だし、栗色の髪はボサボサだったのを簡単にポニーテルにしただけだ。激しい動きも全く阻害しない慎ましやかな胸元からはお色気が溢れ出すこともない。


 ……え、何事? 自分で言ってて涙が出そうになるんだけど。いいえ、ワタシは美少女! 大きな青い瞳がチャームポインツの素敵な美少女なのよ! ……くぅ、もう無理だ、認めざるをえない、ただのイモいだけの女の子だと。


 ワタシは別に冒険者に憧れていたわけじゃない。


 幼なじみのスヴェンが伝説の勇者に選ばれて、だから、お節介焼きでせっかちな上に身の周りのことに無頓着な彼のことが心配で付いて来てただけで。


 そのための魔法で、そのための剣術だった。


 ま、それももうおしまいだけど。


 追放されたなら潔く冒険者は引退して、どこかで静かに暮らすのも悪くはないかもしれない。


 ただし、この場を切り抜けられれば、だ。


「あ、あの~? これはどうにかなりそうなんですか?」おそるおそる。


「わからん!」


「不穏!」


 そう、ワタシ達の前に立ちふさがるのは、オークの群れ。


 彼の二倍はありそうな巨躯に、岩の塊みたいな大きな棍棒を軽々振り回す怪力。まともな装備無しじゃあ傷ひとつ付けることもできずに、頭を薬瓶のキャップみたいにひねり回されておしまいだ。


 ワタシが所属していたパーティでは一体倒すだけで命懸けだった。


 スヴェンが突貫して、リリアさんが魔法でサポート、攻撃はガディルダさんが防いで、ワタシはみんなの回復する。そうして、死地をギリギリで切り抜けてようやく倒したのに。


 そんなのが、たくさん。そう、たくさんいる。


「……ありえないわ」


 ここはまだ街からはそう離れていない。


 こんなところでオークの群れに遭遇するなんてありえない。


 そして、そんなオークの群れにたった一人で立ち向かおうとするこの人も、ありえない。


 この人は……、えっと、……なんだ?


 おそらくワタシと同じくらいの年齢で、その身体はとても筋肉質だ。筋肉質で、そう、とても筋肉質の筋肉モリモリマッチョマンの変態だ。格闘家かな?


 黒いツンツン頭には、元が何色だったのかすら判別不能なボロボロのバンダナ。


 どこかで山籠もりでもしていたのだろうか、服もボロボロで魔物に立ち向かうための装備は一切ない。つまり、生身。


 これじゃあ死にに行くようなものだ。


 だけど、魔物の群れを真っすぐに睨み付けるその眼差しは爛々と輝いていて、にやりと不敵に口角まで上げているじゃない。


 どこをどう見たって、この薄汚れた男にとても勝機があるとは思えない。


 それでも、ワタシはどうしてもこの場から逃げ出すことができなかった。


「で、その【役立たず】ってのはどんなスキルなんだ? あんまりいいモンじゃねえってのはなんとなくわかるけどさ」


 こんなはちゃめちゃな緊急事態だっていうのに、彼は振り返らずにそんなことを聞く。


「え、えっと、全暫定事象発生確率不確定的変動能力です」


「なんて?」


「つ、つまり、想定されるどんなこともランダムで起きてしまう、というスキルです」


「するとどうなるんだ?」


「たとえば、何もないところで靴ひもが勝手に解けたと思ったら屈んだ瞬間に薬瓶が全部割れて、漏れ出た魔薬で魔物が活性化して、武器は壊れて魔法が何故か不発になる、ということがわりと起きてしまう、という感じです」


「超絶ピタゴラドジっ子になっちゃうスキルか」


「そんな可愛らしいもんじゃないです。このスキルはワタシだけじゃなく周囲にも影響を及ぼすんです。敵も味方もみんながドタバタあたふたし始めたらもう戦闘どころじゃないんですよ」


 ワタシは思わず俯いてしまう。ワタシを追放した時のスティン達のあの蔑み、嘲笑う顔がフラッシュバックする。あんな表情は初めてだった。


「せっかく上げたレベルも鍛えたスキルも、高い防具も伝説の聖剣も何の意味もなくなってしまうんです」


 下を向くワタシを背中越しに見つめながら、男は再度にやりと笑む。


「なんだ、それならオレとは関係ねえな!」

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