二章
山本詭弁(中学二年生)
染まってしまえば、自分が消えてしまうと思った。
それを初めて意識したのは、中学二年生だった。僕は流行りのアーティストの曲を聞いて、電車に揺られていた。仕事帰りのサラリーマンたちや、僕と同じ学ランの学生たちで車内は混んでいた。
通勤ラッシュで混むのは珍しいことではなく、日常のことだった。僕は曲の再生を止めて、車窓から過ぎる街並みを眺めて、それからなんの気なしに車内を見渡した。
数秒前の僕をコピーしたような人たちが沢山いた。音楽プレイヤーを聞いて、自分の世界にいる男子学生、ショート動画をスワイプしているOL。
皆が一様に同じ角度で俯き、無表情で音も立てない。
学生の制服と、似た配色のファッションの統率のとれた――無個性の集団だった。
電車を降りる。
電車から吐き出された人たちの群れに飲み込まれて、僕は階段を上る。
ひとたび足を止めたら、たちまち集団の流れが乱れてしまう。淀みなく人の群れは流れて階段を上っていく。それぞれの営みへ上がっていく。
めまいがした。
僕は中学校へ登校し、自分のクラスの自分の席へ行く。
同じ机、同じ制服、同じような頭髪。
誰がオリジナルなのか分かりはしない。
ひょっとして僕をコピーしたのではなく、僕も誰からかコピーされたのではないか――。
「おはよう」
「おはよ!」
「昨日の配信見た?」
「見た見た! 神ファンサだったよね」
「マジ寿命伸びる」
女子中学生の会話ですら、量産型のプロトタイプに聞こえる。
この集団にいたら、僕は一たまりもなく飲み込まれてしまう。飲み込まれて埋もれてしまう。
僕は踵を返して、教室を飛び出した。
自分が中学生という皮をなくしたら、何も残らなくなってしまうのが怖くて。
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