五目稲荷とポン太のはなし
倉沢トモエ
五目稲荷
うちの子だぬき、ポン太はスーパーのバナナ売り場で宣伝のアルバイトをしている。
どうして子だぬきが採用されたのかわからない。サルの着ぐるみを着用してのパフォーマンスと、大好きなバナナへの熱意が伝わったからです、とはポン太の弁。
「今日は、園田さんなんですよ!」
ポン太は時々、割引シールの貼られた五目稲荷を買って帰る。
「いつもおいしいですが、園田さんの日は、特においしいんですよ!」
勤め先の惣菜売場の調理スタッフに、園田さんというおばあちゃんが入る日の五目稲荷は、いつもよりおいしいのだと。
「いただきましょう!」
私はインゲンのゴマ和えと、お味噌汁を作って、濃いお茶を淹れた。
「七つ入りです」
まず、一つ目。ぱくり。
「たいへん、おいしいです!」
私も一つ目を、ぱくり。
「おいしいねえ」
お揚げは優しくふっくら、刻んだレンコンはシャキシャキ、ニンジンとひじきも柔らかく、そこにゴマの香り。
二つ目、三つ目と、箸がすすんでいくのだが、同時に少し不安になってくる。
「むむ」
ポン太に緊張が走る。
「油断してはいけません」
「そうねえ」
「決して、油断してはいけないのです」
最後の一個が近づいてくる。
私も少し、緊張してくる。
「むむ!」
やっぱりだ。
「なくなった!」
最後の一個になると、姿を見せない誰かが、さっ、と、かすめていく。手品みたい。
五目稲荷の日は、いつもそうだ。
「むむむう」
そのたびに、ポン太はくやしがる。
涙目だ。
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