スタート前夜~物語が始まる前に

田島絵里子

第1話 まずは大河ドラマの原作から

 スタートは、ものごとの始まりである。


「一年がスタートする」

 これは元旦だし、

「ダイエットをスタートさせる」

 ははあ、そのうちリバウンドするな。

「仕事をスタートさせる」

 新規事業を立ち上げるのか、もしやムショ暮らしで今日が更生? 

 

 たいていのひとは、スタートするとその後のことを期待する。スタートは始まることを意味するからである。


 起承転結という言葉の通り、始まり(起)があればそれを受けて続くキャラクターを活かしたストーリー(承)、意外でひねりのある展開(転)、オチ(結)で感動させられたり、驚かされたりという感情の変化を期待する。


 では、スタートの前って、なんだろう?

 みなさん、考えたことありますか。


 赤ん坊が生まれる前は、卵子と精子である。

 書籍の場合はどうなのか。


 そこで、おもむろに古典の冒頭を思い出してみる。

 ここはカクヨムだから、小説を書く人が多い。

 著作権上、引用可能だ。

 古典ぐらいは知っているだろう。


 なに、知らないとな。

 だれかー、この人叱ってやってくださーいッ!


 ともかく、古典の冒頭である。

 いま大河ドラマで話題の紫式部。『源氏物語』は、こんな感じ。


「いずれのおん時にか」

 いつの時代だっただろう、の意味である。

 え、いつの時ってなに。

 食事時?

 入浴時?

 仕事中?



 時代と言うからには、江戸時代とか、鎌倉時代ってことなのか。

 注釈を見ると、「いつの天皇の時代だったろうか」である。

 天皇ね。そこからスタートするのね。では、その前は?




 天皇の歴史をたどってみると、古事記にたどり着く。つまり、天照大神に行き着く。

 天照大神は、イザナギから生まれている。

 イザナギは、妻イザナミと一緒に、日本を創った神である。

 その神も、さかのぼっていくと名前しか出てこなくなる。


 不親切である。



 役所よりも、タウンページよりも情報量が少ない。

 ひょっとすると、オレオレ詐欺師の持っている名簿より名前が少ないかもしれない。

 ともかく、古事記のスタートは、固有名詞である。

 その前は、闇に閉ざされている。

 不親切である。


 別の話ではどうか。

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