第二章
Episode 5 【コンパスの示す先へ】
#33
ルナは本館一階にあるワーキングスペースで準備を行っていた。
玄関から入って左側にあるワーキングスペースの奥にはコの字型の本棚が天井まで伸びており、分厚い本がぎっしりと詰まっている。
本棚に収まりきらない本達は手前のテーブルに何段も積み重なっていた。
ルナはその本棚の前で
「えーっと、何処に置いてあったっけなぁ……あ、あった!」
本を探しておおよそ三分、梯子がないと取れない場所にある分厚い本を一冊取り出し、ゆっくり降りてくるとそれを作業台の上に置いた。
「うーん……こんなもんかなぁ。……あっ! 来た来た!!」
皆が時間差でリビングに集まってくる。
ルナがここに集まるように指示したのだ。
「えっとね、今日は伝え忘れていた事があって集まってもらったんだけど……」
そう言ってソファーの前に置かれているテレビの前に移動すると、しゃがみこんでテレビ台の中をゴソゴソと探っている。
そこから取り出したいくつもの機械と箱のような物を目の前のローテーブルに並べていった。
「これ、人間が作った
テレビゲーム。
それは画面の中に存在する、人間が作り出した架空のセカイ。
画面内に登場するキャラクターを操作しクリアへと導く、あっという間に時間が過ぎていく娯楽玩具のひとつだ。
ルナはそれぞれの機械……コンシューマーゲームのハードウェアとソフトを一通り説明し、それともう一つ、人が作った映像が見れる機械もあると皆に見せびらかした。
ハードウェアは黄ばみのある古そうな物から新品のように綺麗な物まで、テレビ台によく収まったなと思わせる程の種類が並んでいる。
「ババアの趣味で恋愛モノがやたらと多いけど、色んなジャンルの物があるから色々試しちゃって! ちなみにボクは戦略系のゲームが好き!!」
「……銃を撃つやつ、ある?」
「あるよー! 確かこのゲーム! ボクも好きなんだよね」
「おぉぉ……! やりたい!」
「
瑠璃は
アトリエは物で溢れかえっているとはいえそれぞれやる事が限られていたので、新たな暇つぶしが出来た事でこの場にいる全員がテレビゲームに興味津々だ。
「つーか、電源を付けても真っ暗なまんまだからスルーしてたけどこれ用だったんだな」
「うん。本来は人が作った映像を専用の電波を通して見る事が出来る機械なんだけど、こんな森の奥にそんなモノないからさ」
「へぇ……」
黒斗がルナと会話をしている横で皆はそれぞれゲームソフトを取り上げ、ゲームの内容を確認している。
パッケージのある物から裸ソフトまで、たくさんのジャンルのゲームが隣の棚全てに埋まる程……というより既に溢れかえっているので、全てを確認するのは時間がかかりそうだ。
裸ソフトは竹籠の中にたんまりと無造作に入れられている。
映像ソフトはゲームソフトと比べて枚数は少なく、恋愛系とアクション系の二種類が複数枚棚に入れられてはいたが、皆の興味はゲームに向いているおかげで見向きもされていない。
「私、これが気になる!」
パッケージの中にソフトが入っている、そこそこ新しいハードの物だ。
「へぇ、育成シミュレーション……ってなんだろう? 育てる以外にも何かあるのかな?」
瑠璃も興味津々でそのゲームソフトを覗き込んだ。
架空の動物が沢山描かれているこのパッケージによると、その動物と交流・育成し、コンテストに参加して優勝を目指すというものだと記載されている。
その動物達の最終進化する内の一種類はこのゲーム限定のシークレットキャラクターと書かれており、二人は今度一緒に遊ぼうと約束を交わしていた。
「へぇ……、アクションかぁ。面白そうだな」
一方、黒斗が手に取ったのはカセット式のゲームソフト。
所謂レトロゲームと呼ばれる物だ。
ボロ付き具合が垣間見える紙製の箱の中にはソフトと説明書が入っており、少し折り目が付き劣化している説明書を広げて内容を確認する。
移動とジャンプと攻撃だけのシンプルな操作で行う物らしい。
「ディフェンダーがファイターなゲームするの? 黒斗は逃げ足が速いんだからホラーゲームでもすればいいのに」
ルナにからかわれ、黒斗は少々不機嫌になる。
ニシシと笑う企み顔が怪しさを全開にさせているので、黒斗は益々不安になり、近くにいる瑠璃へ助けを求めるかのように視線を送った。
「瑠璃、ホラーって何?」
「怖いやつだよ。恐怖を楽しむものなの。小説にもそういうのあるよ」
怖がりな黒斗は全力で拒否したのだった。
まずは
現実に近いグラフィックにルナ以外の全員が驚きを隠せずにいた。
作業台の上は先程置いた分厚い本と共に複数の素材とすくい網とすり鉢、少し大きめの壺とヘラのような物、そしてガラス製の水差しとピンク色のノートが置かれている。
「あのね、
道具の絵と共にメモ書きがされているが、初めて見る言葉や名前が多く表記されている。
錬金術とは数百年前から人間の世界に存在しているものだと伝えられているが、今から説明される錬金術は魔力を扱う者によって創り出せる特殊なもの。
《エンチャント》という特殊効果を合成品に付加する事により、効果の発揮を促進する事が出来るとルナは言う。
ここで言う特殊効果は宝石達の効能もとい魔法が関係しているのだろう。
人の扱う錬金術とは全くの別物らしい。
ルナが本棚から取り出していた分厚い本は、専門用語の横にその意味や素材の名前が書かれた、図鑑のような錬金術の専門書だった。
人のセカイの錬金術は素材名が専門用語で書かれており、専門書がなければ解読する事さえ難しい。
その反面、隣に置かれているピンク色のノートにはご丁寧にも専門用語と素材の名前の両方が書かれているので、素材を用意する手間が省けるのが幸いだ。
それほど合成する頻度が高いアイテムなのだろう。
「……何してんの?」
視線を向けた先には悪戯な笑みを浮かべる黒斗の姿があった。
彼は「人の事言えねぇよな」とからかうと、そのまま右隣に座り、作業台に腕を置いて彼女を覗き込む。
「ちょっと! ボク達の間に割り込んで勝手にイチャイチャしないでよっ!!」
「いっ!? し、してねぇよ!」
「してるじゃん! ……で、なんでこっち来たの? 向こうにゲームがあるでしょ?」
ルナはムスッとした顔で黒斗を睨みつけている。
「や……その……なんつーか、
黒斗が指を差した先にはゲームに夢中になっている
「ここに
「わかりやすいよねぇ」と視線を黒斗へ向けとてつもなくいやらしい笑みを浮かべている。
黒斗が怪訝そうな顔をする隣りで
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