#30
「ひとまず、詳しい話は後にしてテントに入ろうか。ボク、もうくたくただよぉ……」
ルナは珍しくぐったりしており、真っ先にテントの中へ入っていく。
「
瑠璃は心做しか嬉しそうな素振りを見せながらテントに入るように促す。
「……おおっ!」
目の前に広がるテントの内側の光景に
先に入っていたルナから「靴は靴箱へ」と教えられ、言われるがままに靴を入れると、物珍しそうに両手を広げて叫びながらリビングまで走って行った。
続いて入った二人も廊下に腰をかけて
「あーん……やっぱり可愛い……。妹が出来たらこんな感じなのかなぁ」
「ふぇ!? る、瑠璃……?」
瑠璃は今まで見た事のない表情で
「……ねぇ、見た目の年齢的にボクと近いと思うんだけど?」
「ほら、ルナはお姉さんだから」
「お姉さん!? わ、悪くないかも……」
上手い具合に丸め込まれたルナだったが、それすら気付かない程、『お姉さん』と言われた事が嬉しかったようだ。
身体を左右に揺らしながらニヤニヤしている。
瑠璃は幸せそうなオーラを放ちながら
嬉しそうにしている
「……ご飯?」
「そうだよ。
ひと息ついたあと、皆で晩御飯を食べる事になり、瑠璃が料理を振る舞う事になった。
ルナと
いくつかの卵がシンク台に置かれて調理が行われる中、
「見た事ある……かも。……私も飲めるの?」
「飲めるよ。ご飯も食べられる。騙されたと思って飲んでみてよ!」
ルナに勧められ恐る恐る口に入れると、そこに広がる麦茶の香りが彼女の味覚を刺激する。
「美味しい……!」と一言告げるとあっという間に麦茶を飲み干してしまった。
「
「……アイオライト。羅針盤とか道標とか、恋愛なんかにも影響を与える石なんだって。ルナに教えてもらった」
表情は乏しいが全身から感情が伝わってくる独特なオーラを放っていた。
「そうそう、
「ふぇぇ、そうなの?」
「……うん。全部じゃないけど、覚えてる」
「ボクも
「一人と一匹……?」
「二人とも男なんだけど、一匹は狼の魔獣の姿をしてるんだ」
「今日はオムライスを作ってみたの」と微笑みながら
「……わぁ!」
ふわふわトロトロの卵の上にケチャップがハート型にかけられている。
瑠璃と
「それじゃあ、いっただきまーす!」
ルナがでんきあめを口いっぱいに頬張り幸せそうにモグモグしている姿を、
「……あ、そうか。ロボットだから……」
そう呟く
そうしてスプーンに溢れ出んばかりのオムライスを口に入れ、満面の笑みで味を噛み締めていた。
「今の光って……」
瑠璃は思わず手を止めて「魔法だよね……?」と零したので、
「身体が光ると同時に
「……
「弾丸さえ入れれば。今は無いし、セーフティをかけてるから安全」
そう話す
そこから自然とアトリエの話になり、どんな所なのか、何があるのか、どういう事が出来るのかという話題で持ち切りとなる。
――このライフルみたいに、もっと色んな物を創りたい。
そうして楽しい食事はあっという間に終わり、就寝の時間までは思い思いの時間を過ごす。
ルナはソファーで立体パズルの続きを、
瑠璃は
「今日は
そう言って瑠璃は日記帳に挟んでいたシール帳を差し出すと、色んな柄の小さなシールが沢山あった。
大切な出来事があった日には必ずシールを貼る事にしているようだ。
「……これ」
「明日から楽しみだね」と二人は笑いあい、何事もなく一夜を過ごしたのだった。
翌日。
場所は変わってアトリエ敷地の北東部。
敷地の境界線が近い場所で黒斗は走っていた。
「なんでここに居るんだよ!? ふざけんなって!!」
泣き叫びながら東の方角へ走り続けている。
事の経緯は十三時を過ぎた頃、日課と修行を済ませた黒斗が敷地内を探索している時だった。
初めてアトリエを訪れた時に通った道を歩いていると、見覚えのある魔獣と遭遇してしまう。
グレイッシュレッドの魔獣……ルナがくまくまベアーと呼んでいる魔獣だ。
前回出くわした時の魔獣とは違って頭に生えている二本の角の一本が折れているが、同じ魔獣であるかは定かではない。
目と目が合い、向こうが先に行動を起こしたので、黒斗は咄嗟に東へ逃げたのだ。
「こんなん、帰りたくても帰れねぇって!!」
赤毛の魔獣は火属性の魔法を扱う。
過去に目の当たりにしているのを覚えていたので、燃やされないようにアトリエから離れたのだ。
魔法を繰り出される度に防壁魔法を張って何とか防げてはいるが、いつ木々に魔獣の魔法が当たってしまってもおかしくはない。
「もう無理ー!!」と泣き叫んでいると、一匹の獣が後ろから勢いよくこちらへ向かってくる姿があった。
「うぉりゃー!」
あっという間に飛ばされて行ったのを確認すると、黒斗は座り込み、
「……ったく、たまたま見かけたから良かったけど、本当に情けねぇなぁ」
「……あ、ありがとう……助かった……」
「つーかオマエ、こんな所で何してたんだ?」
「え、修行の一環でここの敷地を巡ってた……」
「修行? 何の修行してんの?」
「あれ、言ってなかったっけ? 魔力操作を習得する為の修行なんだけど……」
今初めて知ったと言わんばかりの顔でどんな内容の修行なのかと質問され、黒斗はありのままを伝える。
「え、そんな
「……お前はどんな事してんの?」
「オレ? 今は体力作りと忍耐力、攻撃力を上げる為に色々やってる。怪我する事も多いし大変だけど、徐々に強くなってるって実感はあるぜ! 仲間を守る為に先陣を切って、攻撃を受けながら戦う戦法を先ずは覚えろって言われてる」
「……そっか」
「なんつーか、同じ修行でも得るものが違うだけでこう落差があると拍子抜けしちまうというか、こっちは苦労を買って頑張ってるのにってなんか理不尽に思っちまうけど……。そういうもんなんだろうな。ま、お互い頑張ろうぜ!」
無属性クリスタルの内側に映るコンパスがアトリエまでの道を示してくれていた。
「お、見つけたー! くまくまがこっちに飛んできたから更に蹴飛ばしてやったんだけど、あれを飛ばしたのって
黒斗の後ろからルナの声が聞こえたので振り返ってみると、スピーダーを身に付けているであろう一行がものすごいスピードでこちらに向かってくる。
黒斗は想像以上の速さに驚き、一瞬だけ呼吸が止まり呼吸を荒らげていた。
ルナは変身を解いて人型の姿に戻ると、スライディングしながら
「おうよ! コイツが追われてたからドーンと体当たりで……!」
「さっすが
「フフン。何かあってもオレ様に任せな!」
「じゃあ任せちゃおっかなー!」
徐に立ち上がり後ろの三人の元へ向かうと、「
ルナはその様子を軽く見届けると、座り込んだままの黒斗に視線を向けた。
「あのくまくま、火属性だったけど大丈夫だった? 怪我はしてなさそうだけど」
「え、うん……大丈夫。防壁張りながら逃げたから……」
「フムフム、なるほど……」
ルナが考え込んだ姿を見て、黒斗は少し不安になる。
果たして自分はこのままでいいのだろうかと、そんな考えが脳裏を過ぎっていた。
「動きながら防壁を張るのって、実は高度な技なんだよ。ボクも光属性の防壁なら張れるけど、あれって防壁の中心部分に集中しなきゃ張れないからさ。ボクはまだ成功した事がないんだよねぇ……。もしや黒斗って結構器用な方……?」
「へ? そんな……必死で逃げてただけだし……」
「だったら尚更素質があるって事だよ。極めたら確実に強くなれるよ」
「魔力操作を習得出来る日が近いかもしれないなぁ」とブツブツ独り言を零している姿を、座ったままの黒斗は呆然と眺めている。
ルナの言葉に揺らいだ心を支えてもらい、心が温かくなるのをただただ感じ取っていく。
「……ん? どしたの黒斗?」
「……いや、なんでもない。ありがとう」
そう言うと黒斗は重い腰を上げ、砂埃を払ってもう一度ルナを見る。
ルナはニカッと笑ってみせると、奥で話し込んでいる皆に声をかけた。
「さ、帰ろー! 新しい仲間を紹介するのはアトリエに着いてからねっ!」
ピョンと立ち上がり、全員が移動出来る事を確認すると、先陣を切って帰路についたのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます