第43話 サムライ、忍者に出会う
決闘と言う名の模擬戦擬きは終了。
村人たちも、その一瞬の決着に目が点であった。唯一喜んだのは、村長一家だ。
「流石はムネカゲさんです!」「いやはや、カミルは確かに村一番の槍の使い手。それをああまでも往なすとは。」「流石娘の恩人だ。」と、拍手喝さいであった。
「いや、実は言ってはいなかったでござるが、拙者、冒険者なのでござるよ。なので、戦闘については、一日の長があるのでござる。」
小さい頃から剣術と槍術を訓練して来た。多数の戦場を駆け回っていたとは言わない。言った所で
広場での決闘が終わると、住人達はそれぞれの仕事へと戻って行く。
ムネカゲ達は、村を出る為門へと歩く。
そんなムネカゲの後ろを村長一家が歩き、門まで見送ってくれる。
「世話になったでござるよ。」
「いえ、また近くに来られた際は是非立ち寄って下さい。」
「その折りには、立ち寄らさせて貰うでござる。しからば、御免。」
ムネカゲはそう言うと、キーラとカエデを連れて、元の旅へと戻る。
ムネカゲ達の姿が見えなくなるまで、村長一家は手を振り続けた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
アンの村を出たムネカゲは、ドリットの町を目指して歩き出す。
主街道の分岐を西側へと折れ、右手に湖を望みながらその脇を通る街道を進む。
ドリットまでは、一日半の道のりだ。
そんな中、何やら雲行きが怪しくなってくる。ドリットの町の付近から、こちらへと雨雲が来ているようだ。
「一雨来そうでござるな。ここはちと早いでござるが、テントへと避難するでござるよ。」
ムネカゲはそう言うと、街道を外れた場所へと移動。マジックテントを出す。
中へと入った頃合いで、外は土砂降りの雨となる。幸いこのマジックテントには結界が張られている為、雨がテントに打ち付けると言う事は無い。テントを中心に、半径5mは雨が降っていないのだ。
キーラとカエデをテント内に残し、ムネカゲはテントから出ると曇天の空を見上げる。
「これは当分や止みそうにはござらぬな。」
そんな事を呟きながら、ふと気付く。
この土砂降りの雨の中を、こちらへと走って来る複数の反応に。
「まあ、ここら辺は雨宿りする場所もなさそうでござるからな。突然降られると困るでござる。」
そんな呑気な事を考えていると、その反応はどんどんとこちらへと近付いて来る。
そして反応が突然止まったかと思うと、その周りに更に複数の反応が現れる。暫くすると、その反応同士が付かず離れずを繰り返し始める。
「何事かあったでござるかな?キーラ、少し様子を見て来るでござる。キーラはここでカエデと待機しているでござるよ。」
「畏まりました。」
ムネカゲはそう言うと結界の外へと出、反応のある方へと走り出す。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
それは数分前に遡る。
その一行は、仰々しい行列で街道を走っていた。
その者達を見れば、何処ぞの貴族ではないかと直ぐに分かる行列だ。
二頭立ての馬に牽かれた、豪華な意匠の施された真っ白な馬車。それを守るかのように、フルプレートに身を包み、馬に騎乗した騎士が十名。この様な行列であるからして、道行く人々はそそくさと道を譲る。
そんな一行に、大雨が襲う。そしてその大雨を待ってましたとばかりに、黒い覆面をした者達15名が襲い掛かったのだ。
「馬車を守れ!馬車の周りを固めろ!」
騎士達は馬車を守る為に馬上で剣を抜き、黒覆面達へと応戦する。
しかし黒覆面達の動きは素早い。フルプレートを着た者達を翻弄するかのように斬り付け、そして次第に騎士達が押され始める。
「マズい、とにかく姫を守れ!馬車を出すんだ!」
しかし既に御者は黒覆面に殺されており、御者席にはその骸が横たわっている。
「チッ。誰か御者台へと入れ!馬車を出すんだ!」
指揮官らしき男はそう叫ぶが、騎士の数も既に6名まで減ってきている。
このままでは全滅の上、馬車に乗る高貴な方に危害が及ぶ。どうすればいい?そう思っていた時だ。
「助太刀致す!」
そう叫びながら近付いて来た見た事の無い恰好をした男が、黒覆面の一人をこれまた見た事の無い武器で斬り伏せたのだ。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
ムネカゲは濡れる事も構わず、兎に角急いで反応のあった方へと走る。
そして薄暗い中見えて来たのは、馬車を守るように馬に騎乗し周りを囲んでいる者達が、この暗雲の暗闇に紛れる様に黒い装束を着込んでいる者達に襲われている光景っだった。
「忍者でござるか!?」
その姿に、ムネカゲは忍者を連想する。ただ、忍者では無いのだが。
いつもなら、どちらが悪かと考えるムネカゲだが、流石にこの状況を見ればどちらが悪かは直ぐに判断出来た。
そして、既に馬に乗っている者はその数を減らしており、これは急がねばならないと身体強化をして近付く。
「助太刀致す!」
そう言いながら、腰の雷紫電の鯉口を切り、居合抜きの一閃を黒装束へと放つ。
「ぎゃっ」
背中を斬られた黒装束の男は、その場で地面へと崩れ落ちる。ムネカゲは取って返すその刃で、その黒装束の首を刎ねると、次に馬車へと襲い掛かる黒装束へと斬り掛かる。
しかし、黒装束の者はそれを回避。逆手に持ったナイフでムネカゲに斬り掛かろうとするが、ムネカゲはそのナイフを半身で躱しながら雷紫電で受けた。
すると、馬車の屋根からとムネカゲの後ろから、黒装束の者達がムネカゲへと襲い掛かって来る。
ムネカゲは刀を振り上げる事で、拮抗するナイフを弾くと、そのまま斜め前へと前転。上からと後ろからの攻撃を躱す。
体制を整えたムネカゲは、刀を左へと寝かせると、脚力を上げ更には瞬歩を使い、後方から襲い掛かった黒装束へと肉薄。擦り抜け様に、腹へと刀を滑らせる。
腹を斬られた黒装束は、その斬られた場所から内臓を溢しながら地面へと崩れ落ちる。
攻撃をした直後の隙を狙ったのか、残りの二人がムネカゲへと接近。同時に攻撃を仕掛けて来た。
そこへ待機を命じていたキーラが突如として参戦。ムネカゲが贈った大剣で黒装束の一人を吹き飛ばすと、吹き飛ばされた黒装束は馬車へと激突。ずり落ちる様に地面へと落ちる。
残ったもう一人の黒装束にはムネカゲが対応。クルリと爪先で回転すると、そのまま黒装束へと刀を斬り上げる。
ムネカゲへと飛び掛かっていた黒装束は、咄嗟に腕をクロスさせるが、ムネカゲの刃はその腕をも斬り飛ばし、黒装束の右脇から左肩へと斬り裂いた。
黒装束は、そのまま地面へと墜落。そこへキーラが止めとばかりに大剣を喉元へと突き刺す。
「キーラ、助かったでござるよ。カエデは無事でござるか?」
「はい。お云い付けを守らず申し訳御座いません。罰は後程受けます。カエデお嬢様はテントの中です。」
申し訳なさそうに足早にそう言うキーラ。しかし、キーラのお陰でムネカゲは助かったのだ。
「罰などある筈もないでござろう。それよりも、今はこの黒装束共を倒すでござるよ。」
「畏まりました。」
その後、下馬した騎士と共に黒装束と相対していくのだが、次第に数が減り、敵わぬと思った黒装束数名が退却。土砂降りの薄暗闇へと消えて行った。
「消えたでござるな。」
気配察知から黒装束の気配が消え、安全を確認したムネカゲがそう呟く。
「はい。敵の気配は消えました。どう致しましょうか?」
「とりあえずここはもう安全でござろうから、テントへと戻るでござる。」
ムネカゲはキーラへとそう告げ、この場から立ち去ろうとした時だ。
「ご助力、感謝致します。」
一人の騎士が声を掛けて来た。
「なに、たまたま近くに居ただけでござるよ。礼には及ばぬでござる。それでは拙者、連れを待たせているので、これにてご免。」
ムネカゲはそう告げると、騎士に背を向けカエデの待つテントへと向かおうとする。のだが。
「ちょ、ちょっと待っては頂けないでしょうか!」
騎士はムネカゲの言葉に慌てふためき、その足を止めに入る。
「なんでござろうか?礼なら、不要と申したでござるよ?」
「いや、そう言う訳にもいかない。助けて頂いておきながら礼も無しともなれば、国として問題があるのです!」
ムネカゲはこの騎士の言葉を聞き、「国?」と首を傾げる。
「ええ、先ず、私はこのアッセン国騎士団副団長のアントニーン・バラーシュと申します。そして、こちらの馬車にはさる高貴なお方が乗っておいでです。その高貴なお方の命をお救い頂いたのですから、礼を受けて頂かねばこちらの面子と言う物が立ちません。」
アントニーン・バラーシュと名乗った男は、「絶対に逃がさない!」とばかりに強めの言葉でそう言い切る。
「面子云々と言われても、拙者、困るのでござる。」
対してムネカゲはと言うと、別に謝礼を期待して助けた訳では無い。単に、ムネカゲの中の「仁義」と言う二文字に従ったまでの事なのだ。それにこの土砂降りの中で話すようなことでは無い。それより何より、早く着替えたい気持ちでいっぱいだった。
「いえ、その腕前。かなりの剣の達人とお見受けします。そして、その見た事の無い剣。もしや、東方諸島群出身の方ですか?」
案外と東方諸島群と言う名称は知られているようで、ムネカゲの
「あ~、まあ、そうでござる。拙者、東方諸島群からこちらへと修行の旅に参ったでござるよ。」
なので、ムネカゲもその「東方諸島群出身」をかなり多用している。
「やはり!我らに加勢し、命を救って頂いたその御仁のお名前を教えては頂けないでしょうか?」
アントニーンの言葉に、内心「早くテントに帰りたいのでござるが……」と思いながらも、ムネカゲは名乗る事にする。
「拙者は、ムネカゲと申すでござる。こちらの女性は、拙者のメイドでキーラと申すでござる。で、もういいでござるか?連れがテントで待っているでござるよ。」
ムネカゲはそう言うと、その場を後にしようとするのだが。突然、馬車の窓が開く。
「アントニーン。その方はお連れの方がご心配の様。であれば、そのお方のテントまでご一緒させて貰えば良いのでは?私も、是非恩人とお話がしたいです。」
窓は少ししか開いていない為、顔までははっきりと見えないが、その声は若い女性の声だ。
その声を聴いたアントニーンは、その場に膝ま突くと、
「はっ。ではその様に致します。と言う事で、ムネカゲ殿。テントまでご同行させては頂けまいか?死んでいった仲間の供養もしたいので。」
ムネカゲを無視してとんとん拍子で進む話に、ムネカゲの顔は次第に仏頂面となる。
「……まあ、それは構わぬでござるが。拙者達はこの雨が止めば、直ぐに出発するでござるよ?」
「ええ。それまでは時間があると言う事ですね?」
アントニーンは、そう言うとニヤリと笑う。
諦めの悪い男の様だった。
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