第48話 ユキにプレゼントだよ
「ぶらぼー帰還したのです!」
「ブラボー、荷車の返却任務ご苦労だった」
二人でビシッと敬礼を決める。
「で、すぐ昼ご飯に行くけど、食べれる?」
「ん? 食べれるのです。何で聞くです?」
「さっきまで、屋台で何か食べてたんでしょ?」
「なんとっ! 何でわかったのです……フシギ」
どうやら、イヤーカフでの自分の発言でバレたことに、気づいていないようだ。しかも俺には、マップスキルまであるのに。
さらには急いでいたのだろう、口の周りに串焼きのタレが付いている。なんとベタなことか……。
食いしん坊ユキさんには、間食直後でも何の問題も無いようなので、一階に昼食を食べに行った。その後、冒険者ギルドに向かった。
◇◇◇◇◇
ギルドに入ると、受付にヴァニラさんがいたので声をかけた。
「ヴァニラさん。お待たせしました」
「ヤマトさん、ユキさん、お疲れ様です。バルディさんに、声をかけて欲しいとのことでした。買い取りカウンターに、お願い出来ますか?」
「わかりました。ありがとうございます」
買い取りカウンターに移動してバルディさんに声をかけ、一緒にギルマス部屋に向かった。
部屋に入ると、ギルマスは密会玉を起動した。
「ヤマト、ユキ、アーノルドギルマスから連絡がきたぞ」
「はい。決まりましたか?」
「ああ。明日から数えて、60日後だそうだ」
「60日後!? アーノルドさんの予想を、超えてきましたね……」
「アーノルドギルマスも、驚いていたな。この後は、アーノルドギルマスのところに行ってくれ。詳しく話があるそうだ」
「わかりました」
「出発は30日前くらいか?」
「いえ、まだ決めてません。後でユキとも相談して決めます」
「ヤマトさん。あたしは今すぐ出発と言われても、もーまん……じゃなくて、大丈夫なのです!」
「流石に、今日は出発しないよ」
(ユキ、また
出発してから順調に進めれば、25日の道のりだ。イベリス以外の町は初めてなので、途中のカルノーサの町も見て回りたい。
「出発する日が決まったら、教えてくれ」
「わかりました」
今度は、バルディさんからの質問だ。
「二人は、カルノーサに何日か滞在するのか?」
「ん? 滞在ですか? 多少は町を見て回ると思いますけど、すぐアリッサムに向かうと思いますよ」
「そうなのか。あの町は、ダンジョン都市として有名だからな。二人なら何日か潜ると思ったんだがな」
「「ダンジョン都市!?」」
「ん? そうか。知らなかったのか」
バルディさんに、詳しく教えてもらった。それからアーノルドさんに会いに、商人ギルドに向かった。
◇◇◇◇◇
「ヤマトさん! カルノーサでの寄り道は、アリだと思うのです! ……ジュルリ」
「うん。アリだね」
バルディさんに教えてもらったのは、主にダンジョンのことだ。ここには複数のダンジョンがあり、管理されている特殊なダンジョンもあるという。
そのダンジョンで取れるドロップ品が、以前レストランで食べたイベリスでは珍しい食材たちだった。そのためユキは、早くもお得意の『ジュルリ』が炸裂していたのだ。
イベリスでは珍しく、地球では当たり前の食材が確保出来れば、ヤマトオリジナル料理のレパートリーも増えることだろう。
商人ギルドに着いて、アーノルドさんに取り次いでもらった。ギルマス部屋に入ると、アーノルドさんは密会玉を起動した。
「ヤマト様、ユキ様、お越し頂いてありがとうございます」
「いえいえ。でも、60日後とは驚きました」
「私も予想していませんでした……」
アーノルドさんは、40日後くらいの予想をしていた。しかし、結果は60日後だ。ものがものだけに、商人ギルド本部も人が集まりやすいように、かなり長めの設定をしたのだろう。
オークションに向かう注意事項を、アーノルドさんに説明された。
オークション開催日は、明日から数えて60日後である。出品物の確認作業があるので、必ず3日前までに王都アリッサムの商人ギルド本部にいるグラマスに会うこと。
情報漏洩を防ぐために、他のギルド職員は俺達がオークションの品物を持ってきていることを知らない。
「これを、お貸しします」
「これは……密会玉と通信魔道具ですよね?」
「そうです。通信魔道具は、グラマス直通で秘匿回線使用のものです。必ず密会玉を使用してから、使って下さい。オープンな場所ではなく、個室で使用するのもお忘れなく」
「わかりました」
王都アリッサムに着いたら宿に入るなりして、すぐにグラマスに連絡をすること。そこからは、グラマスの指示で動くこと。もし、到着前に問題があった時も、グラマスに連絡すること。これらが注意事項だ。
ちなみにアーノルドさんは、オークション前日には王都に来るらしい。
「ヤマト様とユキ様は、いつ頃出発されますか?」
「まだ決めてませんが、近々出ると思います。王都だけじゃなく、カルノーサも初めての町なので、少し見て回りたいので」
「そうでしたか。やはり冒険者の方には、カルノーサは魅力的ですよね」
「はいです! とても楽しみなのです! ……ジュルリ」
食いしん坊のジュルリが止まらない。早くカルノーサに行きたいから、
今回は依頼ではないし、少しのんびり旅をしたいものだ。ユキに乗るのは凄く助かるのだが、旅というよりは移動になってしまう。折角なので、もっとフルールを堪能したいのだ。
「それと……冒険者の方に失礼とは思ったのですが、本当に護衛は要りませんか?」
「はい、大丈夫です。ウチの相棒は、強いですから」
「アーノルドさん。あたしに、おまかせなのです! ……フンス」
「そうですか。失礼しました。ユキ様、よろしくお願いいたします」
「かしこまりーです」
「では、出発日時が決まったら、また来て頂けますか?」
「わかりました」
オークションの話を終えて、商人ギルドを後にした。
◇◇◇◇◇
ここから当初の予定通りに、仕立て屋に向かおう。
「こんにちは」
「いらっしゃいませー。お待ちしてましたー」
店員さんは、すぐに俺達だとわかってくれたようだ。完成したニット帽を、採寸してくれた二人が持ってきてくれた。
「一度、被ってもらえますかー? 合わない時は、すぐに調整しますのでー」
「はいですー」
ユキが、店員さんの口調に引っ張られている……。気持ちはわかる。何か癖になる口調だ。
ユキがニット帽を被ると、これぞ俺が知ってるドワーフという感じのゴツイ男性と、小柄な女性が、ニット帽のフィット感など色々と確かめていた。
「お客様ー。どうですかー?」
「うーん、ちょっとだけ大きい気がするのです……アレレ」
「それはですねー」
店員さんの説明は、こうだ。
使い方を説明してあったので、髪がクルンクルンになったら、少しボリュームがある感じになるはず。なので、雨の日メインで使うというので、そのボリュームも考慮しての大きさだそうだ。
ニット帽なので、ある程度は伸びるのだが普段の状態でピッタリに作ると、雨の日にはキツク感じると予想したそうだ。
流石は職人さんだ。用途に合わせて、調整してくれていた。
「なるほどなのです! 雨の日は、ピッタリになると思うです。ありがとうです!」
「気に入ってもらえてー、良かったですー」
このニット帽は、雨羊の毛によって防水機能がある。さらに機能を付与してもらい、温度調整と、湿度調整の機能を付けてもらった。追加で機能を付けるには、付与術というスキルを使うようだ。
これで雨の日に被って寝ても、寝汗をかかずに眠れるだろう。
「お客様ー。もう一つも、出来てますよー」
「ありがとうございます」
「えっ? ヤマトさん。何か頼んだです?」
「ユキにプレゼントだよ」
「こちらですー。どうぞー」
「こ、これはっ!? 可愛いのですう……ニコニコ」
ユキにプレゼントしたのは、雨羊の毛、スパイダーの糸、スパイダーの鋼糸で作ってもらった、巾着袋である。
店員さんの説明によると、雨羊の毛の水色ベースで作り、そこにスパイダーの糸をチェック柄にしてデザインと強度を両立したという。ところどころにスパイダーの鋼糸を混ぜて、壊れにくい作りにしたそうだ。
もちろん、これにも例の刺繍を入れてもらった。
「ユキ、どう? 気に入ってくれた?」
「はいです! ヤマトさん、ありがとうです!」
「これに、お小遣いを入れて使って欲しくてさ」
「なるほどなのです。あたしのお小遣いだと、すぐにわかるのです」
ユキのお小遣い制を始めた時に、革袋が同じデザインばかりでわかりにくいので、財布を探そうと考えていた。
しかしフルールに財布文化は無く、みんな同じデザインの革袋を使うのだ。なのでニット帽を注文した時に、これを頼んでいたのだ。
ちなみに巾着袋には、雨羊の防水機能のみが付いている。あえて容量拡張などは、付けていない。
お金の量や、重さなどがわからなくなるので、付けなかった。量や重さの変化で、お金の増減を少しでも感じてもらえれば、もしかしたら無駄遣い減少に繋がるかもと考えてのことだ。
早速ユキは今まで使っていた革袋からお小遣いを取り出して、巾着袋に入れていた。お小遣い日まではまだ何日かあるが、かなり少なかった気がする……。まあ、今は修行中なので特に何も言わなくて良いだろう。
この店は、本当に良い仕事をしてくれる。一つ閃いたので、ユキに相談してみた。ユキも賛成してくれた。
またこの店で、注文することにした。店員さん三人に相談する。色々と相談して、商談成立である。
料金を計算してもらう。ニット帽は銀貨7枚。巾着袋は銀貨2枚。もう一つ注文したものは、銀貨6枚。全部で銀貨15枚を支払った。
「色々わがままを聞いてもらって、すいません。ありがとうございました」
「いえいえー。こちらこそー、沢山注文して頂いて、ありがとうございますー。例の注文も、おまかせ下さいー」
「よろしくお願いします。あっ、そうだ。お礼に、これをどうぞ」
お礼にポテチを渡した。もちろん、教会の屋台の宣伝も忘れずにして、仕立て屋を後にした。
「面白いお客様だったねー」
「そうだなー」
「作り甲斐があったわねー」
「これ、いただいてみようかなー」
パクっ
「えー! 美味しいよ、これー」
「美味しいわねー」
「旨いなー。今度屋台を探して、買ってきてくれよー」
「絶対買ってくるー」
◇◇◇◇◇
「さてさて、これでイベリスでの予定は全部終わったね」
「はいです。じゃあ、出発の準備するです?」
「そうだね。とりあえず、市場で食材の買い出しは絶対だな」
「ヤマトさん。行きましょうです!」
「りょーかい」
王都への出発へ向けて、準備を進めるのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます