第36話 失敗した……ショック

 コライオンとの戦闘を終えて、野営の時間まで探索を続ける。すると、やっとハズレ祭りが終わったのか、念願の普通の状態のレインリザードを見つけた。と思ったのだが、普通ではなかった……。


「やっと、青色のレインリザードだけどさあ……。ちょっとデカくない!?」


 今までは2メートルほどのサイズばかりだったのだが、今回は5メートルほどありそうだ。コライオンよりも体長がある。


「あれは大当たりなのです! あのサイズは、キングと呼ばれる特別なレインリザードなのです!」


「当たりとハズレの差がデカイよ……。じゃあ、ユキ頼んだ」


「……ヤマトさん。あれは自信無いのです……キビシイ」


「ん? どうした?」


「あのサイズだと、たぶん気絶させられなくて、色が変わると思うです……メンゴ」


「マジかあ……。ユキのゲンコツにも耐えそうなのか。うーん……じゃあ失敗するかもしれないけど、ハンドガン試しても良い?」


「あ! そういえば、ヘッドショットを狙うって言ってたです」


「そう、それ。本当は普通の奴で試したかったけど、どうせ色が変わりそうならチャレンジするのもアリじゃない?」


「アリなのです! ヤマトさんに託すのです」


「オッケー。じゃあ、やりますか」


 俺はハンドガンを構える。狙うはヘッドショットだ。狙いを定めながら考えた。


(あれ? 頭って意外と小さい? てか、横向いて気づいたけど目を狙えば、頭を通って逆側の目から抜けるかも!)


 俺は地面に腹這いになり、再度狙いを定める。


パシュっ


「よし、当たった! 色は!?」


「青色なのです! ヤマトさん、キングの青色なんて凄いのでしゅ! あっ、噛んだ……けど、今回は気にしないのです! ……スゴスギ」


 何とかハンドガンでも、即死させられたようだ。当たり処も良く、皮に傷は一切無い。これは、かなり高値になる気がする。


「キングの解体も、プロに任せた方が良いと思うのです」


「そうだね。そうしよう」


 キングレインリザードを、バッグに入れた。その時に気付いたのだが、雨なのに腹這いになってしまった。外套も服も泥で汚れている。それに気が付いたユキが、生活魔法のクリーンをかけてくれた。やっぱり生活魔法は便利だ。


「ちなみにだけど、素材を気にしないなら今のサイズは解体出来そう?」


「時間はかかるですが、出来ないこともないと思うのです。たぶんヘロヘロになると思うです」


 大型サイズでも、何とか解体は出来そうだ。よっぽど食料が無い時以外は解体することも無いと思うが、一応確認しておいた。


 それでもユキは解体には定評があるので、大型サイズでも頼めばやり遂げてくれることだろう。定評があるのは、主に肉なのだが……。


 ユキが解体した皮などの素材は、まだ一度も売ったことがない。でも、無駄に切り込みを入れることもなく、とても綺麗な状態だ。今度、買い取りに出してみようか。


 それにしてもコライオンを倒してから、流れが変わったかのようだ。良いことが続いている。このまま、良い流れが続いて欲しいところだ。


 毎度ながら、そう思ったのが悪かったのか、俺が流れを止める。


「レインリザード発見。今度は普通サイズだね。もう一回ハンドガンで倒しても良い?」


「おまかせするのです」


「了解。これ終わったら野営にするから、ちょっと待ってて」


「はいです」


 俺は地面に腹這いになり、レインリザードに狙いを定める。


パシュっ


「あっ!」


 目ではなく、頬の辺りに命中してしまった。レインリザードは赤色に変わり、こちらに走ってくる。すかさずユキが、とどめを刺してくれた。


「ユキごめん。失敗した……ショック」


「そんな時も、あるのです。赤色もゲット出来きて良かったと思うのです」


「流石は女神様。素晴らしい考え方で、ございます……ハハー」


「可愛い女神様なんて照れるですう……ウフフ」


 ユキは、しっぽを振ってご機嫌だ。俺のミスをカバーしてくれたので、可愛い発言を今回は不問としよう。


 ユキに赤色レインリザードの解体を頼み、俺は野営の場所をマップで探す。すると、気になる場所を見つけた。


「ユキ、ちょっと待った」


「ん? 解体しないのです?」


「あっちに気になる地形があってさ。先に確認しても良い?」


「はいです」


 赤色レインリザードをバッグに入れて、その気になる地形に向かった。


◇◇◇◇◇


「これは洞窟ですな。魔物の表示は無いけど……」


「気配察知も問題無いのです。一応あたしが見てくるのです」


 そう言うとユキは、一人で洞窟の調査に向かった。数分で戻り、魔物も罠の類いも一切無いとのことだった。


「じゃあ、ここで野営しようか。洞窟の中なら、料理も出来そうじゃない?」


「はいです。でも無理して料理しなくても良いと思うのです。保存食は、まだあるです」


「保存食は、そこそこあるね。でもさあ。雨羊あめひつじを食べてみたくない?」


「確かにまだ食べていないので、食べたい気持ちもあるです。でも今日は、色々あったのです……オオイソガシ」


 今日はイベント盛り沢山だったからか、ユキは気を遣ってくれているようだ。俺のミスをカバーしてくれたし、コライオンも倒してくれた。そんなユキに、感謝の料理を振る舞いたいのだ。


「ちなみに、ヤマトオリジナル料理が思い浮かんでいるんだけど……ニヤリ」


「なんとっ! ヤマトさん、料理頑張るのです! あたしは解体をするです! さあ、仕事しますよーなのです!」


 ユキは、ヤマトオリジナル料理を我慢するなんて無理なのだ。これで、感謝の新作を振る舞える。上手く出来るかは、別問題だが……。


 早速ユキに、赤色レインリザードを渡す。俺はテントと料理の準備を始める。


 羊の肉で記憶から引っ張り出したのは、ジンギスカンと香草パン粉焼きである。


 ジンギスカンは、市販の味付けで売られていたものを焼いて食べたことはある。自分で味付けは、したことが無い。香草パン粉焼きは、食べたことすら無い。そんなおしゃれな料理に出会う人生は、送って来なかったのだよ……グスン。へこんでいる場合ではない。まずは、ジンギスカンの味付けをしよう。


 ジンギスカンの味付けに使うものはアプル、玉ネッギ、ニンニクン、ショウガン、それにショーユーなどの調味料。あとは蜂蜜も使うようだ。


「蜂蜜は無いなあ。アプルの甘みで、何とかなるかな……ん? しずく花の蜜は?」


 鑑定によると食用で甘いとのことなので、蜂蜜として使えそうだ。まずは材料を、ひたすらすりおろしていく。


 次に、調味料としずく花の蜜を鍋に入れて火にかける。混ぜながら煮立たせて、すりおろしたものを投入。ある程度混ぜたら、完成だ。


 このタレに雨羊肉を漬け込むのだが、焼いて食べる時につける用のタレを少し分けて置いておく。雨羊肉を、食べやすいサイズに切って漬け込む。もちろん冷蔵庫ポーチに入れる。これで、ジンギスカンの準備は完了だ。


 次に香草パン粉焼きの準備を始める。使うものは、玉ネッギ、ニンニクン、パン粉、あとは香草である。香草は調味料としてバジルを持っていたので、これを使おうと思う。


 玉ネッギ、ニンニクンをすりおろして、そこにバジルを入れて混ぜる。雨羊肉に塩、胡椒をして、そこに漬け込む。ある程度漬け込んだら、肉にパン粉をつける。


 パン粉には、バジルとチーズを削って粉チーズにしたものも少し混ぜてある。あとは少し多めの油で焼けば完成だ。


「よし。準備は出来た。あとは焼くのみ」


「出来上がりが楽しみなのです」


「うわっ! また隠密してるし……ビビル」


「解体が終わって暇だったので、邪魔にならないように隠密してたのです……メンゴ」


「またまた時間かかっちゃったね……俺もメンゴ。一気に焼き上げるから、もうちょい待ってて」


「らじゃーなのです!」


 ユキに感謝の料理の予定だったのに、待たせてしまった……。二口魔道コンロ同時作業で、一気に焼き上げる。


 ジンギスカンは野菜も一緒に炒めて、無事に成功した。香草パン粉焼きの方は、少しだけパン粉が剥がれてしまった。まあ、めちゃくちゃ失敗とまでは言えない感じだし、良しとしよう。


「ユキお待たせ。出来たよ」


「ヤッホーイ! ヤマトさん、美味しそうなのです!」


 お待ちかねのヤマトオリジナル料理の新作に、ユキのテンションはマックスだ。しっぽの動きが止まらない。


「こっちがジンギスカンだよ。味付けしてあるけど、このタレをつけて食べると美味しいよ。こっちは香草パン粉焼きで、衣にバジルとチーズの味がついてるはずだけど……どうだろな」


「ん? ヤマトさん、香草パン粉焼きは自信無いのです?」


「正直なところ、わかんない。地球でも食べたことない料理なんだよねえ」


「なんとっ! 食べたことない料理が作れるなんて、凄いのですう……キラキラ」


「あっ。ユキに言ってなかったね。どうやら転生のボーナスみたいなんだよね」


 ユキに俺が予想した、転生での記憶の継承を説明した。


「それは凄いのです! ヤマトさんが忘れてても、魂が覚えてるのです。これもフルールの魂では無いことの、イレギュラーかもしれないのです……フシギ。でも、そのお陰で、美味しい料理が沢山作れるかもなのです! ……ナイス」


 これはユキにとっても、ナイスなイレギュラーだったようだ。もちろん俺にとっても、ナイス過ぎるイレギュラーだ。


「てな訳で香草パン粉焼きの味は、わかりません。味がしないようなら、たぶんソースーでいけると思われます」


「りょーかいしたのです!」


「んじゃ、食べようか」


「いただきますです」


「俺も、いただきます」


パクっ


「おお、ジンギスカンはバッチリだ」


「ジンギスカン美味しいのですう」


 ジンギスカンは、上手く作れたようだ。


「ではでは香草パン粉焼きは、どうだ!?」


「こっちも美味しそうなのです」


パクっ


「……おっ」


「バジルとチーズの香りが、口に広がるのですう。ヤマトさん、美味しいのです!」


「うん! 美味しい」


 初めて食べた香草パン粉焼きも、どうやら成功したようだ。


 またまた素人料理で時間がかかってしまったが、ユキも満足してくれてホッとした。


 俺は先に食べ終わり、ユキが解体した赤色レインリザードの皮と魔石をバッグにしまった。あとはユキが食べ終わったら、片付けをしよう。


「ヤマトさん、お願いがあるです。あのー、えっとー……」


「ん? ジンギスカンなら、すぐに追加作れるよ」


「なんとっ! 何でおかわりだと、わかったのです!?」


「そりゃ、いつもより名残惜しそうに食べながら、空になりそうな皿をチラ見して言ってるからさ」


「はうっ、食いしん坊キャラなのです……ハズイ」


 ユキはジンギスカンを、気に入ったようだ。急いで準備して、ユキにおかわりを出してあげた。


「ヤマトさん、ありがとうなのです!」


 ついでなので、保存食用に焼いてバッグに入れておいた。漬け込みもしておいた。いつまで雨が続くかわからないので、他の料理も保存食に作っておこう。


 途中でユキがボアのショウガン焼きにつられてきたが、保存食用なので死守した。


 そんなこんなで、盛り沢山な一日が終わった。

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