女神の弟子と異世界珍道中  ~転生したらゲームみたいなスキルと幸運スキルのお陰で楽しくやってます~

ごぶろう

第1章 転生と町での生活

第1話 転生? ……って、あの転生!?

「これと、これを組み合わせて……よし出来た。これを納品して依頼達成だな。それじゃあ、また採取に行くかなあ」


 休日の午後、仕事の疲れを趣味のゲームで癒し中である。今ハマっているゲームは、素材を採取して作業台で作成し、新たなアイテムを作るという、所謂クラフト系のゲームである。


 昨日も夜中までゲームをしてから寝て、ゆっくり昼前くらいに起きた。軽く身支度を済ませてから缶コーヒーを1本飲み、今もゲームに夢中である。あっという間に数時間が経過している。これが、いつもの休日の過ごし方だ。


「流石に、お腹空いたなあ。何かあったっけ?」


 冷蔵庫を開けてみるが、飲み物と調味料しか入っていない。気ままな一人暮らしである。基本的に買ってきた弁当や、外食で済ませることが多い。それでも休日や仕事が早く終わった時には、自炊するようにしている。料理は得意でもないが、ネットでレシピや動画を見ながら作るので、割りと美味しく出来る。


 たまに自炊もしないと、あっという間に財政破綻してしまうくらいの稼ぎしかない。そんな、しがないサラリーマンの俺は27歳、独身、名前は秋野ヤマトという。ちなみに彼女も2年ほどいない。今は仕事を頑張るんだ! と言い訳しておこう。


「やっぱり、食材は無いかあ。買い出し行くかな」


 近所のスーパーに、買い出しに向かう為の準備をする。スマホを持った時に、思い出したことがあった。


「そういえば、ネット小説も更新されてるかも。あとで読まなきゃな」


 これも趣味の一つである。ネット小説の中でも異世界ものと言われるジャンルが、お気に入りだ。そうこう考えながら、準備を済ませて部屋を出る。


◇◇◇◇◇


 5分程歩いて、もう少しでスーパーというところまで来ていた。正面から、買い物帰りと思われる親子が歩いて来る。女性の片手は荷物がいっぱいのバッグを持ち、もう一方は女の子の手を握っている。3歳くらいだろうか。元気に歌いながら飛び跳ねていて、手を繋いでいるのも大変そうだ。


「あっ! ワンワン!」


 女の子は道路を指差して言った。次の瞬間、繋いでいた手を離し、道路上にいる犬に向かって走り出した。


「あっ! ダメっ!」


 女性は叫んだが、女の子は止まらない。女の子と犬のところに、トラックが向かって来ている。女性は驚きのあまり動けないでいた。


「おい、嘘だろ!? 危ない!」


 気がついたら、女の子のところに駆け出していた。何故か感覚がスローモーションに思える。あと一歩で手が届く。その瞬間、女の子と犬は、目の前から消えたのだ……。


「は?」


 女性の方を振り返ると、女の子を抱きながら泣いている。女の子は何が起こったかわからずに、キョトンとしていた。


「どういうこと?」


 クラクションと急ブレーキの音が聞こえる。そこで俺の意識は途絶えた。


◇◇◇◇◇


「緊張するですが、仕方ないのです。このままでは、まずいのです……ヤバイ」


(……ん? 誰か、いるのか? 何処にいるんだ? 真っ白にしか見えない)


「えー、聞こえるでしゅ? あっ、噛んだです……ハズイ。あー、聞こえるです?」


(……誰かに呼ばれた?) 


「あたしの声が聞こえるです? 声が出せるはずなので、返事するのです」


「は、はい。あっ、見えるようになった」


 目の前には女の子? が立っていた。中学生くらいだと思うが、真っ白な耳としっぽがある……。


「……セーフなのです」


「セーフ?」


「あっ、何でもないのです。あたしは、女神的な感じなのです。あなたは、あたしと……じゃなくて、可愛い子狐と女の子を助けようとして、車に轢かれて死んでしまったのです」


「え!? 死んだってマジかよ……。てか、女神様なの!? ……ん? 狐?」


「覚えていないです? 真っ白の可愛い子狐なのです」


「……あっ。犬じゃなくて狐だったんだ」


「なんとっ! あたしの……じゃなくて、可愛い子狐の可愛いフサフサしっぽを見ていなかったのでふ? あっ、また噛んだです……ハズイ」


 どうやら、あの時の女の子と犬を助けようとして、俺は死んでしまったらしい。あと、犬ではなく狐だったようだ。


(俺マジで死んだのかあ。じゃあ、何で会話出来てるんだろ? ……ん? 女の子が目の前で消えたのは、女神様の力!? じゃあ俺って、ただ道路に飛び出して轢かれただけなんじゃ……。てか、女神様とか本当にいるんだなあ……) 


「何か考え中です?」


「えーっとですね。あの女の子と狐を助けたのは、女神様ですよね? 俺って、ただ轢かれただけなんじゃないかと……」


「そ、それは違うのです! あたしがミスって姿を見られ……じゃなくて、とても勇敢な行動だったのです! あなたも一緒に救えなかったのは、申し訳ないのです。なので、あたしはあなたを転生させることにしたのです!」


「転生? ……って、あの転生!?」


「あの転生なのです! ……タブン。では、転生しますです。いきますよー」


「ちょっ、ちょっと待って! いきなりですか!? 説明とか無いんですか?」


「説明いるです? 時間無いのに……」


 それから女神様は、渋々説明してくれた。説明してくれたのだが、何だか大雑把な感じと、何故か急いでいる感じがした。


「というわけなのです。スキルは、あなたの記憶から振り分けてもらう仕様にして……よし出来たです! これで準備完了なのです。いきますよー」


「えっ!? 質問とか出来ないの!?」


 俺の声も聞かず、女神様は呪文のようなものを唱えている。すると、別のところから声が聞こえた。


『ユキ、何してるの?』


「あっ、フェリシア様! これは、その、あの、えーと……。ごめんなさいです……グスン」


「この人は誰だ? なんか今、謝ってたよね……。どういうこと!?」


 二人の会話を聞いていたら、俺を転生させようとしていたのは女神様ではなく、神様になる修行をしている弟子だとわかった。名前はユキという。フェリシア様と呼ばれた方が、本物の女神様のようだ。


 ユキは他の星に遊びに行くのが趣味のようで、今回は地球に遊びに来ていたようだ。その星の者には干渉しないのがルールなのだが、気を抜いてしまい、あの時の女の子に見つかってしまった。慌てて女の子を救ったが、俺には気がつかずトラックに轢かれて死んでしまった。焦ったユキは俺の魂を連れ帰り、女神様にバレる前に転生させようとした。これが今回の経緯のようだ。


 本物の女神様に大目玉を食らったユキは、正座しながらギャン泣きしている。それでも、女神様の説教は止まらず、流石に放置され過ぎているので声をかけることにした。


「あのー、すいません。俺は、どうしたら良いでしょうか?」


『……あっ! すいません。忘れていました……』


「はあ……」


『……こほん。改めまして、私はこの星の女神フェリシアです。この度は私の弟子が大変申し訳ありません。ユキも、ちゃんと謝りなさい』


「ごべんなざいでずう」


「……はい。あのー、俺どうなっちゃうんでしょうか?」


『まずは、元の星の神に連絡します。えー、地球の秋野ヤマトさんですね』


「そうです。あれ? 俺、名乗りましたっけ?」


『魂を見ると、わかるのです。ヤマトさん、少しお待ち下さいね。地球の神に連絡しますので』


 そう言うとフェリシア様は目を閉じた。数分程で、また目を開けて話しかけてきた。


『話をしてきました。これからのことも含めて、説明いたしますね』


 先程の偽物女神のユキとは違って、本物女神フェリシア様は状況をしっかり説明してくれた。


 この星はフルールという。地球とは違い、魔法があり魔物がいる世界である。今いるのはこの星の転生の間で、本来ここはフルールで亡くなった魂を、生まれ変わらせる為の場所である。


 地球の神と話したところ、地球に魂を戻すことは難しいと言われた。地球に魂を戻そうとすると、途中で消えてしまうだろうと。そもそも魂が消えずに、フルールにたどり着いたことが奇跡だったのだ。


 そこで地球の神は、フルールで転生することに了承した。今回の件はフルール側に非があるので、俺に十分な保証をして転生させて欲しい、と言ってくれたそうだ。それに応える為に、フェリシア様から幾つかの提案があった。


 フルールに地球での記憶を持ったまま、成人年齢である15歳に転生する。


 言語理解(読み、書き、会話)と適応力(魔物や血に対する感覚)と身体能力強化(地球の時よりも動ける強い体)を魂に付与して、すぐには困らない生活が出来るようにする。


 この星では生まれる時に、必ず三つのスキルをランダムで取得するのだが、それを自分で選ばせてくれる。


 ユキも一緒に転生させる。この星の知識があり、戦闘能力も高いので、こき使ってかまわない。


『という提案なのですが。どうでしょうか?』


「提案は、わかりました。そうですね……。地球に戻るのも無理そうですし、戻れたところで死んじゃってますしね。フルールで生きてみます」


『そうですか! 提案を受けて頂いて、ありがとうございます。早速ですが、スキル選びから準備を進めますね』


 フェリシア様は準備を始めた。ユキは、まだ正座のまま、ぼそぼそ呟いていた。


「あたしも転生……。修行は中断……。同期と差が付く……。でも悪いのは、あたし……。これ以上、フェリシア様を怒らせてしまったら終わるです……。頑張らねばなのです……フンス」


(一緒に転生して、大丈夫なんだろうか? やる気の空回りが心配なんだが……。てか、同期とかいるんだ!?)


『ヤマトさん、準備が出来ました。……どうかしましたか?』


「いえ、大丈夫です」


『それでは、こちらがスキル一覧です。これを見ている間に、言語理解と適応力と身体能力強化を魂に付与しますね。……あれ? スキルが!?』


「え? スキルが何ですか?」


『スキルが、二つ確定しています……』


 フェリシア様が能力を魂に付与しようとしたところ、すでに二つのスキルが確定されているのを見つけた。どうやらユキが急いで転生させようとした時に、確定してしまったようだ。


 ユキは俺の記憶に関係あるものが、スキルに選ばれるような設定にしていた。しかし、フェリシア様の登場で中断して、二つだけ確定した状態らしい。確定してしまったスキルは、女神の力でも元に戻すことは出来ないとのことだ。


『ユキ。どうしてスキルをランダムではなく、記憶からの設定にしたのですか?』


「それは、あたしのミスで巻き込んで、勝手に転生しようとして、申し訳ない気持ちがあったです。なので、記憶からだと馴染みがあるスキルになるかもと思ったのです……」


『申し訳ない気持ちがあったなら、誤魔化さずに連絡して欲しかったですね。そもそも、あなたは━━━』


 フェリシア様は、また説教モードに入ったようだ。少しだけ待ってみたが、まだ話しは尽きない。


「あのー、フェリシア様。また、俺のこと忘れてませんか?」


『あっ。……すいませんでした』


(俺、ちゃんと転生出来んのかなあ……)

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