氷の蕾は花と散る
撫子
天才魔道士(見習い)公爵令嬢(8)
「……ん〜、じょーずに出来ないなぁ…」
そうぼやきつつ
彼女の小さな手にはまるで宝石のような氷属性魔法の
そんな手の中を見つめてアンジュはもう一度落胆の息を漏らした。
「お花、きれーに作れないよ……」
そう。彼女が現在試みているのは
何でも、彼女はその年端のいかない幼い
なので今日も、彼女は両親からの期待(とは言っても、彼女の両親含めた親戚一同は最年少の彼女を溺愛しまくっているのだが)を胸に先天技能、『
このスキルは端的にいえば、氷属性魔法で具現化された花を操るといったもの。
しかもその花はこの世界に存在すれば何でも良いわけではなく、彼女が知識として知っているもの(つまり植物図鑑などで容貌や生態などを学んだ植物)しか魔法が使えないという条件付きである。
だからこそアンジュは、幼女には確実に負担であろう重たい植物図鑑や逆引き辞典などを抱えて花々が咲き誇る庭園に座り込んでいるのだ。
季節は春。春の訪れを告げる鳥たちが愛を交わし合い、寒い冬を耐え抜いた屈強な植物たちが一斉に花開くとき。
そのような暖かい時節に陽の光が良く当たる中庭で長時間鎮座していれば、誰しも眠りを催してしまうに違いない。
斯く言う彼女もその口で、気が付けばいつもの如く花の芳しい香りが漂う陽だまりで微睡みに揺蕩っていた。
どうにか眠気に抗おうと頭上に小さな雪を降らせるが、ねぼすけさんなアンジュはそれぐらいの冷たさでは睡魔に打ち克つことなど、出来やしないのだ。
とうとう瞼が重すぎて持ち上がらなくなった彼女は、素直に横になって自身の
慣れない魔力操作を行って疲れた身体から、スースー、と規則正しい寝息が聞こえてくるまでそこまで時間はかからなかった。
そんなコテン、という効果音が付きそうな様子でウトウトと微睡んでいる彼女を、物陰から熱視線で見守る人物が__。
「……お兄さま!アンジュはなんて可愛らしいのでしょう!まさに『名は体を表す』とはこのことですわ!!」
そう興奮気味で話している彼女は、アンジュと10歳違いの姉、
現在18歳のリュミエール公爵家長女である。
「まあまあ、ルイーズ……そんなに大きな声を出してしまったらあの天使が安らかな眠りから目覚めてしまうではないか」
そしてそんな彼女を宥めながらもアンジュに対する愛情を爆発させている彼が、公爵家長子で次期当主の
現在22歳でアンジュとは脅威の14歳差だ。
現在リュミエール公爵家は三人兄妹。その中でもノアとルイーズは比較的歳が近いものの、待望の第三子はかなり期間を置いての出産となったようだ。
やはり『年の離れた子供は可愛い』と言うべきか。両親だけではなく兄妹や親族、そして当主の再従兄弟である現国王閣下並びにその家族ですら彼女の魅力には抗えず、公務の合間を縫ってはアンジュに会うためだけにリュミエール公爵邸を訪れるほどであった。
そんな彼らの溺愛ぶりは露知らず、まるで羽を休めに来た天使のように安らかな寝顔を晒している彼女は知る由もなかった。
自身の緩く握った手のひらの中に、キラキラと輝く氷の花が咲き誇っていることを__。
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