騎士をクビになった俺は憧れていた冒険者になろうと思ったが、冒険者にもなれなかったので俺が海賊になって海で暴れ回ることにした。
珈琲カップ
第1話
「マーチ=アステル。お前を今日付で騎士団長を解雇。そして王宮を追放とする」
突然の宣告だった。
朝いきなり王宮に呼びされたと思ったら国王からそんなことが告げられてしまった。
「ど、どうしてでしょうか?」
こんなことをされる理由が思い浮かばない。
悪いことはしていないはずだ。
「わからないとは言わせないぞ」
「そうは言われましても………」
「くどい!」
国王との会話に割って入ってきたのは大臣だった。
「貴様が悪事を働いているというのはわかっているんだぞ」
「だからなんのことですか」
「以前から貴様は国王の指示を聞かずに独断専行な行動が目立っていた。国王の命令は絶対のはずであるのに、それを遵守しないのは騎士としてあるまじき行為であるぞ」
国王の命令を全て遵守していたわけではない。
大臣の言うとおり何度か俺の独断専行で待機している騎士団を動かしたことがある。
だが、それはそうじゃないといけなかったんだ。
国王の命令を待っていれば、間に合わないと言う状況に置かれていたから、動かざるを得なかった。
それによって他国からの侵攻を防ぐことができたり、討伐対象のモンスターを取り逃さずに討伐することができたんだ。
しかもそれは事後的に説明して、納得してもらったはずだ。
それなのにここで掘り返すかよ。
「国王。俺はその件はその都度説明をさせていただいたはずです」
「確かにお前からの説明は受けていたし、わしも了承をした」
「でしたら!」
「だが、それは一度や二度ならの話だ」
なんだと。
「その程度ならわしも許したが、これまでにかなりの数同様のことを繰り返している。流石にこれは看過することはできない」
「ですが、そうしなければ間に合わない場面がたくさんありましたし、そうならないように増援をしていただきたいと何度も上奏したはずです」
「貴様、国王に口答えするか!」
この大臣俺を陥れるつもりか?
「国王もそうしたいのにそれができなかったりもするんだ」
「だとすれば現場の判断に任せていただきたい!」
「貴様は王国騎士団の団長だろうが!それなら何が何でも国王の命令に動くのは当然だろうが!」
だからそれをしていたら間に合わないんだよ。
国王の命令を待っていたら、どれだけの人命に被害が及ぶと思ってるんだよ。
一般市民はもちろんのこと、騎士団の団員たちの被害は甚大になるのは明らかだ。
これまで鍛え上げた精鋭たちを使命を果たせずに無駄死にをさせるわけにはいかないんだよ。
「国王。命令を遵守しろとおっしゃるのなら、国王が現地に赴いて陣頭指揮をとっていただきたい。さすれば、私は国王の命令に従うことをお約束します」
「国王をそんな危険な場所に行かせられるか!考えなくてもわかることだろ!」
「しかし、そうしていただかないと…………」
「もう良い」
俺と大臣の会話を国王が止めた。
「マーチよ。お前の功績は理解している。我が国に多大なる貢献をしたのもわかっている」
「でしたら!」
「だが、わしの命令を聞けないような人間を王宮の中に置くわけにはいかん。そんな奴を野放しにしておくわけには行かんのだ」
命令が聞けないってな。
こっちはそのつもりがあるからここで頑張ってるって言うのに。
それをしてしまうとあまりにも大きすぎる弊害が出るんだって言うのを散々言っているのによ。
言いたい。そう言い返したい。
でもそんなことをしても無駄だと言うことはわかる。
この場の空気が完全に俺の圧倒的な不利なものだったからだ。
全員が国王の肩を持って、俺をとことん批判する立場をとっている。きっとこれまで俺の味方をしてくれていたであろう人もきっと国王側についたに違いない。
こうなったら弁明するだけ時間の無駄だ。
「わかりました。国王の命に背き続けた責任を取らせていただきます」
「ああ。これまでご苦労だった」
「はい。では失礼します」
大広間にいる人間に内心笑われながら、俺はその場を去った。
荷物をテキパキとまとめて自分の住処を出て、王都からも出立した。
俺の印象は確実に悪い。他の仕事をしようとしても王都では絶対にできない。
そもそも元騎士団団長を雇う人間はいないし、俺のような人間のする商売に誰が信用を置いてくれるかって話だ。
王都を出なければ、仕事はできない。
それにやりたい仕事をするためには王都を出る必要があった。
俺は王宮を出た時に次になる仕事は決めていた。
冒険者だ。
俺は昔から冒険者に憧れていた。物語の主人公や英雄と呼ばれる人間の多くは冒険者だ。みんな凶悪なモンスターと戦って勝利したり、お宝を発見するなど子供ながらに冒険者の話にワクワクしていた。
絶対に冒険者になりたいと思っていた。
でも俺は冒険者にはなれない。
だって俺の家柄は騎士の家系だからだ。
騎士の家系である以上は騎士にならなければならない。
それ以外に未来への選択肢は存在していなかった。
毎日のように技を磨いて、勉強して、礼儀作法を身につけていく日々は地獄だったのはよく覚えている。こんなことをしたくはなかったのにしなければならないという苦痛。
しかし、家柄を無視するわけには行かないから頑張るしかなかった。
その頑張った結果騎士団団長にまで出世したが、その地位を追われることになった。
そうなると俺は自由の身だ。
こんな俺が家に帰ったところで家の名前を汚した人間として勘当されるのは容易に曹操がつく。だから家に帰っても無駄足になる。
家も頼れないのなら自分で自分の道を切り開くしかない。
だったら子供の頃から憧れていた冒険者になるしかないだろ。
冒険者になるのにはギルドに登録するだけでいいんだ。
資格や実績はいらない。家柄も政治力もいらないんだ。自分の持っている実力だけで成り上がれて、英雄になれる。
これこそ俺の道だ。
決めたんだ。
そのためには王都から離れた街に冒険者ギルドがある。そこに行って登録をしなければ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます