スタート!

楠秋生

プロローグ

「5秒前、4、3、2、1、ゴー!」

 先生の合図に合わせて一番目の先輩がスタートをきった。最初の数回は短く蹴りだし、次からはすいーっと力強く滑り出す。きれいなスタートだ。ぐんぐんその背中が小さくなると、次の合図が始まる。

「5秒前、4、3……」

 クロスカントリースキーでは、15秒毎に一人ずつ出発する。7番目の明日香がスタートするまで、まだ1分以上ある。明日香は脚をパタパタ動かした。曇天で気温はかなり低い。スタート位置に並ぶときに上着は脱いだ。身体にフィットしたツーピースのウェアだけでは、すぐに身体が冷えてくる。

 陸上の試合の時より緊張している。コールがかかっての待ち時間と、スタートラインに並んでカウントダウンが何度も繰り返される待ち時間とでは、感覚が違う。明日香は自分を落ち着けるように、ふうーっと大きく息を吐いた。


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