第78話 職人の願い
~~これは、地球を救うために手を繋ぎ合う仲間達の物語である~~
「キャアアアアアアアアアアアーーーーーー!」
「どうした?ピンク!」
悲鳴を聞いて、一瞬慌てたのは、ブルーだった。
「うーーっふうーーーん!ミーせんぱ~~い~~🤩……これ、見て~~!」
が、しかし……どうやらそれは、喜びの声だったようだ。
「ブ、ブルー!こ、この陳列は…………」
「おーイエロー…………まぎれもない“全国煎餅10選”だなあ~」
「だからか!ブルー……これを目にしたピンクは、抑えが利かなくなってます!」
「きっとピンクは、この煎餅に魅了されてしまったんだ!」
『虹ノ森
100年前までは、まだ普通に煎餅が焼かれていた。
中でも老舗の煎餅屋に必ずいた“
そして、年に1回開催される“全国煎餅合戦”に出場する煎餅職人は、1000人を超えていた。そして、その中から≪味・硬さ・焼きのパフォーマンス≫の総合評価で高得点を出した煎餅と煎餅職人は、“全国煎餅10選”として、全国の駅の売店に特等席が用意されるのである。
ただ、気温の上昇が始まって、煎餅を高温で焼くことができる職人が減ってくると、いつしか“全国煎餅10選”も行われなくなってしまったのである。
それが、この『虹ノ森海苔巻煎餅~霰チェーン店1番店』には、蘇っていた。眩しいくらいに煎餅が輝いているのである。
「ミ、ミ、ミー先輩…………あたし、も、も、もう我慢できない!た、食べてもいいよね?」
イエローに後ろから羽交い絞めされているピンクが、ものすごい力で彼を引きずってまで、煎餅に手を伸ばそうとしていた。
しかし、その時、背中を向けて座っていた一人の中年の男が、ゆっくりと振り返りピンクを見つめて、話し出した。
「ああ、思う存分に、食べてくれ!この焼き立てのパリパリ煎餅を」
男は、
ここは、煎餅焼きの工房で、何か所にも炭火が起こされていた。おまけに、この部屋にはミストの噴霧器は無く、異常なほど室内の温度は高かった。
「お前が、この煎餅を焼いたのか?」
「ああそうだ!好きなだけ、食べるがいい!」
「な、なにを、馬鹿な…………あ!ピンク!」
「うへえーーー〔バリ、バリ……バリ〕ウッメーーー!」
「あ、マナ!」
「アッツも食べなよ!……食べていいって、言ってんだもん!……ほら、ミー先輩も!」
「あーー、もーマナ~、ホント、食いしん坊なんだから…………あ!ぶ、部長!」
「お、おおおー、危なかった。うかつに気を抜けないな!」
「もー、部長まで……ホントに、ウチの部員は、オヤツが好きなんだから!…………俺達は、オンダンVなの!ほら、早く、戻って、戻って!」
「す、すまん、イエロー!
…………ところで、職人?どうしてお前は、この暑い中で、平気で煎餅を焼いていられるんだ?
…………私達は、この冷却コスチュームのお陰で、辛うじて頑張れるんだ!何も着ていない、お前など、一瞬で熱中症になるはずだろう?」
「ふっ!確かにな…………煎餅焼きは、暑いんだ!
……だから、今は煎餅を焼く職人なんて、ほとんど居なくなった!
例え居たとしても、工場で隔離された部屋の外から、リモコンを操作して熱が漏れない密閉された空間の外で、煎餅焼きの機械を操作するだけなんだ!
…………そんなのは、もう煎餅じゃない!」
煎餅焼きの職人は、はっきりとした口調で自分の職人魂をぶつけて来た。
しかし、その顔面はもちろん剥き出しの上半身には、流れるように汗が噴き出している。
「仕方がないじゃないか!今は、温暖化で、これ以上暑いことなんてできないんだから!」
イエローが、職人に向かって、力を込めて訴えた。
「ああ、そうかもな……でも、例え工場で煎餅を作ったとしても、あのミストにやられてフニャフニャになった煎餅だけは、…………あのフニャフニャ煎餅だけは、許せないんだ!」
8畳間ぐらいの窓もない密閉された空間に、いくつもの炭焼きコンロを並べ、煎餅を焼きながら職人は話を続けた。
「確かに暑かったよ!いや熱かったんだ!
…………アレを手に入れるまではな!
…………突然だった。オレは、暑さを感じなくなったんだ!これで、幾らでも煎餅を焼けるって…………」
職人は、薄っすらと笑みを浮かべながら、網の上で焼けてきた煎餅に甘醤油を塗り始めた。
ジューー………シューー………ジュジュジューー………
醤油の焼ける音が聞こえた。
同時に、心地よい香ばしい甘い匂いが、鼻の粘膜にひっついて来た。
「う、ううう…………ゴクッ!」
三人は、溢れてきた唾液を一気に喉に流し込んだ…………しかし、その唾液は止まることを忘れたように、また溢れ出した。
(つづく)
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