第63話 特別限定新作水着?

==これは、地球を救うヒーロー達の日常に密着した物語である==



「痛って!~よ、マナ……::>_<::……」


「ウッサイわよ!アッツ!……こんど変なこと想像したら、電撃だからね!」


「え?マナ?……いつから鬼娘おにむすめになったの?」


「何、言っての?あたしは、レベルファイブなのよ!この10円玉が見えないの?」


「ひぇええーーお許しをーーー」








「う、うう、オッホン…………あのーお客様?そろそろ、話し掛けてもよろしいでしょうか?」


 ちょっと困った顔で、アッツのマナの会話に割って入ったのは、店長さんだった。





「あ、ああ、あはははは……だ、大丈夫っす」




「それでは、今回、“特別限定チラシ”をお持ちのお客様におススメする商品をご覧にいれます。

 ……どうぞ、ご自由に試着していただいてかまいません。

 ……なお、このビップルームは貸し切りでございますので、他のお客様はいらっしゃいませんから、ゆっくりお楽しみください」





「アッツ?何よ、これ?……あたし達ビップなの?……そんなにお金持ってないわよ!すっごく高いんじゃないの?」


 小さい声で真夏美まなみが、熱太郎あたろうに詰め寄ると、脇から店長さんが口を挟んだ。




「あ!お客様……どうかご予算の方は、お気になさらないでください。お買い上げは、お一人様一品までは完全に無料になっております。」


「え?え?……む、む、無料ですって?」


「マナ、マナ……そんなにびっくりしなくていいからさ」


「何よ、アッツは知ってたの?」


「だって、オレは無料になるから、早起きして開店に間に合う様に並んだんだぜ!」






「へーーー。そういうところは、褒めてつかわす!」


「へへへーーーえ!」




「えっと、う、う、オッホン!

……あのですね、うちの店が完全水着販売に切り替えて、今年で50年になるんです。それを記念しての50名様限定の特別感謝祭なんです。」







「そっか、人類が日常も水着で生活するようになって、もう50年にもなるんですね……」


「オレなんか、マナが水着でいるのが普通なんだけど、昔の人はスカートとかいう物を履いてたり、ブラウスというものを着てたりしたんだってな。

 …………この間、町の資料館に行ったら、展示したあったよ。

 …………なんかとっても、ドキドキしたさ~」



「あたしも見たわ!あんな服、とっても恥ずかしいって思ったのを覚えてる」






「えー、それでは、今回、本社上げて復刻いたしました、新しい水着をどうぞご覧ください!」




 ビップルームの奥のカーテンが、勢いく良く開かれると……

 そこには様々な水…………??……水着????……

 いや、昔の人が来ていた洋服がずらーーっと収納されていた。見本の何着かは、マネキンが身に付けるようにして展示してあった。



「うわあああああーーーひょおほほほーーー!!」


 アッツは、大喜びだったが、マナは口を開けたまま、表情も固まってしまった。





「いかかがですか?お客様?……選んでいただければ、お着替えは手伝わせていただきますから、どうぞご心配なく!」





「……………………」


 マナは、まだ、動けないようだった。



「じゃあ、オレが選んであげるね!……まず、このスカートっていうの?これにしよっかな~。上は、ブラウス?このピンクのヒラヒラが付いてるのいいかな?……じゃ、お願いしまーーす!」



「はい、承知いたしました…………さあ、お客様、こちらへ……」



「う、うわ、わわわわ…………ああああああ~」


 真夏美は動揺したままだったが、店長は気にせず試着室へ連れて行ってしまった。ビップルームなだけあって、試着室も四畳半くらいの広さがあった。




「……さ、出来上がりましたよ……こちらに!」


 店長は、試着室のカーテンを開けた。




 そこには、薄い緑のフレアスカートに、これまた薄いピンクのレース付きのブラウスを身に纏った岡崎真夏美が居た。




「ま、ま、マナ……ポッ!………………」


「な、何よ!あ、アッツ…………そんなに真っ赤になって!……か、風邪でも引いたの?」


「お、お、お前だって、……そ、そのシャツより顔が赤いんだけど!」





「あら~お客様……とーーってもお似合いでございますよ~…………。

 本社が開発しました、撥水性100%の薄い生地でできた洋服ですから、理論上は水着になります。

 昔ながらの形状を維持しながら、現代のミスト社会で着用できるものです。


 他にもいろいろありますよ。


 …………あ!もちろん男性用のポロシャツやスラックスもありますので、どうぞご試着を」



「……ほら!アッツも着てみなさいよ!」


「あ、ああ、着てやるよ~覚えてろ!」






 昔は、ただの洋服だったのだが、現代ではこの洋服こそが、人前で着るには、とっても恥ずかしい思いをするようになってしまったのだった。



 アッツもマナも1着ずつ無料で購入したものの、家に帰ったらすぐに箪笥たんすの一番奥にしまって、それ以降身に付けることはなかったのである。




(つづく)

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