第4話 王との食事

 テーブルには豪華な食事が並んでいた。


 丸々チキンを揚げたものやスパイスの効いた卵のスープ、ベーコンらしき塊や巨大なチーズ。デザートのカスタードパイもある。それらを自分で食べたい分だけよそって、皿代わりのパンにのせて手掴みで食べるのだ。


 陛下の周りに座っているおじさん達は、ばくばくと料理をほうばっている。私もお腹は空いていたが、今は食べるのは後回しだ。


「陛下、いつもお食事はこういったものが多いのですか?」


「そうだが」


 ふむ、フライドチキンやベーコン、チーズやカスタードパイなど明らかに高脂質、高カロリーな食事だ。陛下を始め、周りのおじさん達もそれを何度もおかわりして食べている。


 陛下が毎日何キロカロリーを摂っているかは、今は分からないが、運動量も少なそうだし、このような食事を1日3回、しかも数回の間食でお菓子も出てくるとなると、おそらく1日に必要な摂取エネルギーはオーバーしているはずだ。あと、陛下の体重が分かれば、今後のスケジュールも作れるのだが……


 頭の中で考えていると、陛下の横に座っていた髭面のおじさんと目が合った。

 絹の刺繍が施されたチュニックを身にまとい、明らかに周りの人達と身なりが違う。陛下の親類か。こちらの方は陛下より、さらに体重が重そうだ。


 その髭面のおじさんは人好きのする笑顔を私に向けた。


「君がフェルの身体を痩せさせると啖呵を切ったカンナちゃんだね。面白い子だね。私はプロンだ、宜しく頼むよ」


「は、はい」


 プロンさんと言う人は、わははと笑いながらチーズを口いっぱいにほうばった。


「だが痩せる必要があるかね? 別にフェルも私も病気になった事はないぞ」


「今は大丈夫でも、こういった食事を続けると、病気のリスクが高くなるんです。例えば……」


「考えすぎだよ」


 プロンさんは、わははと笑って陛下の肩に腕を回した。


「なぁ、フェル。膝が痛いくらいで、太ってても別に問題ないよな」


「叔父上、口から食べた物が飛んでいます……まぁ今の所、支障はないですけどね」


 なっ! なんと言う事だ。彼らは太っててもいいよね同盟を組んでしまっている。まずいぞ。栄養マネジメントは相手の理解と協力がないと成功しないのに。


 陛下は何も食べていない私に気づき、フライドチキンを取り分けてくれた。


「あ、ありがとうございます」


「お前が私を痩せさせたいなら協力はするが、特段膝が痛いくらいで困ってはいない。それに食事は厨房から出てきた物を食べているだけだし、間食も出された物を食べている。私ではなく料理人と話し合ったらどうだ」


 え? 確かに厨房の人との相談は必須だけど、どの位の量を食べるか、どんな料理を選ぶかは陛下自身なのだが……


 失言したら、おそらく極刑。私が何て言おうか慎重に考えていると、プロン様が笑いながら、また陛下の肩に腕を回した。


「フェル、お前は本当に優しい奴だな」


「叔父上、ギトギトの油ぎった手で肩に触れないで下さい」


 そして陛下はプロン様としばらく会話すると、忙しいのかすぐに席を立ち、出て行ってしまった。



 私はその後、厨房に向かった。厨房はお城とは別に、専用の建屋があり、屋根付きの回廊でお城と繋がっている。


 本来は、陛下とまず、しっかり食事について話さなければいけないが、話す時間をちっとも貰えない。仕方ないから、先に厨房の人達と話し合おう!


 厨房はお城と違って、とても質素なレンガ作りの建物だった。

 扉を開くと、中はとても広い空間が広がっていた。多数の釜戸や暖炉、鉄製のフライパンや鍋などの調理器具が所狭しと置かれ、肉や魚、野菜が至る所に積み上げられている。その場所で100人位の使用人があくせくと働いていた。


 ここまで案内してくれた侍女に、料理長は誰か教えてもらう。


「あの方です」


 侍女が指差した先に、何やら大声で怒号を飛ばしている男性がいた。50代位だろうか、白髪が少し目立ちはじめてはいる茶色の髪を白いハットにきっちりとしまい込み、腰には年季の入った白い前掛けをしている。そして忙しそうに使用人に指示を出していた。


 そっと近付いて声をかけて見る。


「あの……」


「あ? 誰だあんた。新しく入った下働きか」


 忙しい中、声をかけてきた私を迷惑そうにちらりと見る。


「いえ、違います。陛下の食事の事で少しご相談がありまして」


 料理長は『陛下』という言葉が出た瞬間、近くにあった長包丁を手にし私に向けた。


「お前か! 俺の食事にいちゃもんつける奴は。お前なんかと話す時間はない!

この包丁で豚のように解体されたくなかったら出ていけ!」


「ひぃぃぃぃ!」


 もうやだぁぁぁ怖すぎる!


 どうやら先程、陛下と話した内容が、即座に噂話として広まったらしい。

 どこの職場も噂が広がるのは早いものだ。学びました。うぅ、怖い。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る