【カクヨムコン9短編】自分の人生は自分で決めろ~ふんどし刑事の事件簿~

雪うさこ

余計なお世話傷害事件



 暮れも押し迫った12月31日、大みそか。その事件は起こった。被害者は人間の男、鈴木達夫(50)。野良猫のタマを手懐けようとしたところ、タマに噛まれて、全治二週間の傷を負ったという。鈴木からの通報があり、タマは現行犯逮捕されたのだった。


 ねこねこ警察捜査ニャン課では、さっそく『余計なお世話傷害事件』という看板が掲げられていた。中には、ホワイトボードが置かれ、総勢十匹の猫たちがそれを取り囲んでいた。


「今回の事件は、そもそも野良猫への余計なお世話を繰り返す鈴木達夫が、反撃にあった、という構図であります」


 若手刑事であるスコティッシュフォールドのスコちゃんがホワイトボードに貼られている鈴木の写真をモフっと叩いた。


「鈴木は、野良猫に餌と引き換えにお触りを強要する手口を繰り返していました。タマ以外の近隣猫からも被害届が複数、上がっています。我々からしたら、本当に迷惑行為としか言いようがありませんが、鈴木の住む人間界には、それを裁く法律がありません」


 猫だかりからは不満な声が上がる。


「あいつらは、すぐに我々のからだをお触りしようとしてくる」


「なんと失礼な人種だ」


 不平不満の声は、いつの間にか捜査本部をいっぱいにするくらいに、大きくなっていく。スコちゃんはどうしたものかと、黙ってそこに立っていたが、不意に「おうおうおう。今はその話じゃねえ」と低い声が響いた。すると、騒ぎはピタリと収まり、一瞬で静寂が戻ってくる。


「すみません。刑事デカ長」


 猫だかりの先頭にいた、三毛猫のミケさんが頭を下げる。ホワイトボートの隣で、マタタビ入りの葉巻をふかしていた鯖トラ猫——ふんどし刑事のにゃん吉は「お前らの気持ちはわかる。だが、今は会議を進めろ」とスコちゃんを見た。スコちゃんは「は」と返答すると、ホワイトボードに視線を戻した。


「事件は12月31日の19時半に起こりました。国民的歌合戦番組が始まる時間だというのに、鈴木は玄関先に『猫ちゃん大好きッチュー』を置き、タマを待ち伏せ。タマは、餌のにおいに誘われて、暗闇から姿を現し、そしてその餌を食べた。すると鈴木がタマの背中を撫で始めたため、タマが鈴木の右手に嚙みついたということです」


 猫だかりからは「大好きッチューを出されたら、出ていかないわけにいかねえ」、「汚いぜ」という声が上がる。しかし、そんなことはお構いなしで「話は決まりだな」とにゃん吉は、腰にまかれたふんどしをモフっと叩いた。


「タマに会う。お前たちは猫たちからの被害届を調べてくれ」


「え! 刑事デカ長! タマを調べるのではなく、鈴木を調べるのですか?」


 驚くミケさんに、にゃん吉は「そうだ」と答えた。


「それから。鈴木を裁く人間界の法律はないかもしれないが、猫たちの気持ちを鈴木に伝えてやれ。年に一度の国民的歌合戦を見るのも忘れるくらい、猫に関わりたいヤツだ。かなりの猫好きなのかもしれない。本当の猫好きなら、自分のしでかしたことを理解するはずだ」


「わかりました」


 ミケさんは、さっそく周囲の猫たちに指示を出す。猫たちは一斉に部屋から姿を消した。それを見送った、にゃん吉とスコちゃんは、タマがいる取調室へと足を向けた。



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