第163話 【生配信回】ドラゴンを喰らう!①

「どうも、お久しぶりです。モンスレチャンネルのモンスレさんです。本日は、冒険者のみなさんからの要望多数により、第5階層先行調査パーティによる、ドラゴン退治の様子をお届けしようかと思います」


"おおー、ついにドラゴン退治か!"


"期待してます!"


"肉です、ドラゴンの肉を持ち帰るのです! お代はお支払いします!"[¥50000]


"ぜひ料理したいんです!"[¥50000]


"あと食レポ期待してます!"[¥50000]


"↑こいつらもう勝ったあとのこと考えてやがる……"


"まあモンスレさんたちなら勝つだろうけど……"


「今のところはいつも通りですが、第5階層に入ってからは余裕がなくなると思うので、私の胸元にスマホを固定しての撮影となります。見づらくなる上に、コメントに反応もできないかと思いますが、ご了承ください」


"むしろモンスレさん視点で見られるのいいじゃん"


"いつか360度カメラでもやって欲しい"


"VRでモンスレさん体験とか、やってみてえー!"


「それでは、対ドラゴン訓練の成果と、新装備の威力のお披露目、ご期待くださいませ!」


 と挨拶して、おれたちは第4階層の拠点か第5階層へ出発する。


 特になにか異変も起こらないまま、前回の緑竜グリーンドラゴンと戦った地点にまで到達する。


"あそこにあるのが竜の死骸か"


"もう腐ってて、ほとんど骨だな"


"あちこち部位が減ってるのは、素材に取られたのか"


"じゃあモンスレさんたちの新装備は、ドラゴン素材製?"


"期待"


 そのまま探索は続行。


「うん? 風が……?」


 紗夜がふと呟く。


 その違和感に、おれは即座に反応した。洞窟内で吹く普通の風じゃない。


「翼竜がいる! みんな戦闘態勢だ!」


 おれの指示に、すぐみんな散開して武器を武具を構える。


 緑色の鱗を持つ、小型のドラゴンだ。緑竜グリーンドラゴンとは別種で、翼竜の一種。


 小型といっても、人よりはひと回り大きい。それが空中に複数いる。


"ワイバーン!?"


"どんな味だろ"


"↑おい"


「オレに試させろ!」


 さっそく吾郎が飛び出した。


 獲物を見つけたとばかりに翼竜は急降下。対し吾郎は、すれ違い様にカウンターで一太刀。


 その背後で、翼竜が体勢を崩して地面に転がる。


「なるほど、よく斬れやがる。いい武器だ」


"一撃!?"


"やるな武田先生"


 吾郎たち『武田組』の主武装は、ドラゴンの爪から削り出した刃に、アダマントをコーティングした剣だ。


 その名も『ドラゴントゥース』。『竜の爪先』を意味する。


 フィリアも装備するこの剣は、見た目に目立った特徴はないが、非常に頑丈で切れ味が鋭い。


 翼竜程度の相手ならこの通り。


 中型ドラゴン以上の大きさには、急所まで刀身が刺さらないだろうが、この切れ味なら竜鱗だって切り裂けるだろう。


"あっさり過ぎて、強いんだか弱いんだかわかんねー"


"え、凄いでしょ。あの一瞬で的確に急所を斬ったんだよ"


"翼竜の動きも相当早かったし"


"いやいや待て待て、冒険者じゃない一般視聴者にはもうわからんて"


"そんなことより味は?"


"落ち着けまだ終わってない"


 吾郎に続き、そのパーティメンバーも続いて翼竜を仕留める。


 訓練通りの動きだ。


 おれたちも加わって、さらに数匹を撃破すると、残った翼竜は背を向けて逃げていく。


"お、勝ったか"


"さすがに危なげないな"


 だがあっさり過ぎる。翼竜ならもう少ししつこく、次々に仲間を呼んで泥試合めいた戦いを挑んでくるはずだが……。


 おれが察するのとほぼ同時。ロザリンデが叫んだ。


「みんな後ろよ! あいつらはわたしたちから逃げたのではないわ!」


 振り向いた瞬間、赤い光が広がっていく。


「みんな! ユイの後ろに!」


 叫ぶが早いか、結衣が走る。


 竜鱗と竜骨で固められた大盾を構え、先頭に。


 そして残る全員は、竜の皮膚と鱗から作り出されたマントで身を包む。襟首に巻いた部分を上に伸ばし、口と鼻を覆うのも忘れない。


 火だろうと毒だろうと、吸い込んでしまうのが一番危ない。それを防ぐためだ。


 そして、おれとフィリアは結衣の背後に回る。


「――風撃プレッシャー!」


 ふたりで放った強烈な風圧が、炎の勢いを削ぐ。


 とはいえ勢いを殺しきれない。


 次の瞬間、おれたちは炎に包まれた。


"見えない! 火かこれ!?"


"でもスマホは無事っぽい! なら!"


 やがて炎が吐き尽くされる。


 呼吸するのも苦しい熱気だが、全員生きている。さすがミリアム渾身の対ブレス装備。


 焦げた臭いが周囲に漂う。全身から噴き上がった汗による不快感。それ以上の緊張感で空気が張り詰めていく。


 高熱で生まれた陽炎の向こうで、赤い巨体が揺らめいていた。


 赤竜レッドドラゴン


"今のはあいつのブレスか!"


"おいおい、巻き込まれたワイバーンの死体、黒コゲじゃねーの!"


"おのれ貴重な食材を!"


"↑いやもう、せめてみんなの心配しろよ……"


"デカいな、ドラゴンって。モンスレさん視点だとよくわかる"


 赤竜レッドドラゴンは、この前の緑竜グリーンドラゴンよりさらに大きい。


 しかもドラゴン種の中でも、特に獰猛で好戦的だ。


 おそらくおれたちと翼竜との戦いの音を聞きつけ、血が騒いで現れたのだろう。


 こちらが無事と見るやいなや、赤竜レッドドラゴンは地響きを起こしながら突進してくる。


「ユイが、行きます……!」


 宣言して、結衣が突っ込む。


 いかに結衣に優れた筋力STRを持っていたとしても、あんな小柄で軽い体では、対抗できない。


 爆走するトラックを正面から受け止めようとするようなものだ。


 だが結衣もエース冒険者だ。無謀な真似は絶対にしない。


 おれたちもその背中を信頼を眼差しで見送り、次の攻撃の準備をする。


 結衣が赤竜レッドドラゴンと衝突。


 その体が軽々とはね上げられる。


"うわあああユイちゃあああん!!!!1!!"


"バ、バカな……! 簡単すぎる、あっけなさすぎる!"


"いや待て、よく見ろ!"


 ただぶつかっただけなら、ここまで高くは飛ばされない。結衣は盾を巧みに操り、衝突の衝撃を利用して上に飛んだのだ。


 そして盾を手放し、背負っていた新武装を両手に構える。


"ユイちゃん!"


"あの高さから叩きつける気だ!"


 赤竜レッドドラゴンは一瞬遅れて結衣の動きに気づく。巨木のような太さの尻尾を振って迎撃。


"ああダメだ!"


 空中で軌道を変えられない結衣は直撃するかに見えた。


 だが!


 結衣はして赤竜レッドドラゴンに迫撃。


 渾身の一撃を振り下ろす。


 結衣の新武装『破鎚ドラゴンファング』。その威力は――!?




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次回、引き続き、対ドラゴン戦です!

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