第162話 100点がひとつより、80点がたくさん

 ミリアムと敬介が武具を仕上げてくれるまでの間、おれたちは第4階層拠点の充実を計りつつ、対ドラゴン訓練に精を出した。


 訓練の内容としては、ドラゴンの種類、それぞれの特徴や対抗策など、おれが異世界リンガブルームで『屠竜とりゅう騎士』から習ったものをベースとした座学。


 そして、火蜥蜴サラマンダードラゴンに見立てての、実地訓練だ。


 火蜥蜴サラマンダーの弱点を突かず、ドラゴンに使うような戦法を試す訓練だ。


 ドラゴンほど強くないので、訓練としては不充分だが、学んだやり方を、ぶっつけ本番で試すよりはずっとマシだ。


 この訓練、第5階層先行調査パーティが主だが、それ以外な者も一緒に受けていいことにしている。


 もちろん、雪乃や隼人たち『花吹雪』を含むファルコン隊は参加した。


 さらに、並々ならぬ熱意で参加するパーティもいた。


 その筆頭は、あの料理人パーティ『ドラゴン三兄弟』である。


「この前ドラゴン倒したとき、なんで肉を持ち帰ってくれなかったんですかぁ!?」


「ぜひとも味が知りたかったのにぃ!」


「美味しく料理してみせたのに!」


『ドラゴン三兄弟』がドラゴンを料理して食べる、か。字面だけ見ると共食いだなぁ。


「いや、倒すのに精一杯で、黒コゲにしちゃったから」


「もったいない!」


「えぇい、ならば私たちで獲りに行くまで!」


「モンスレさん! ぜひ我々にもドラゴン退治の訓練を!」


 という感じだ。


 彼らはまだレベル3だが、そのうち本当に、食欲のみでドラゴンを倒しそうで末恐ろしい。


 しかし、彼らのような存在には心救われる思いだ。


 迷宮ダンジョン攻略自体には興味はなく、最近の外部でのごたごたにも関係なく、ただ自分たちの夢や目標のために活動している。


 この場所が、そういう者たちの居場所となっていることが嬉しいのだ。


 そうして迷宮ダンジョンでの日常はすぐに過ぎ去り、いよいよミリアムたちの店に装備の仕上がりを確認する日がやってきた。


 確認だけなので、おれとフィリアのふたりだけで来た。


 店内にずらりと並べられた武具に、思わず「おお」と声が漏れ出てしまう。


「凄いな、ふたりとも。あの量の素材で、全員分用意してくれたのか」


「ふふふ、まあねー」


 おれの注文した竜殺しの剣ドラゴンバスターを始め、数々の武器と防具が、しっかり人数分揃えられている。


「色々と頭使って節約したよー。足りない分は次に強い素材を仕入れて補ったりもしたけどさ。まあ、100点の出来とは言えないけど、同じ素材量で80点がこれだけ作れたほうがいいでしょ?」


「その通りだよ。おれたちはひとりで戦ってるわけじゃないからね。こっちのほうがありがたいよ」


「そう言ってくれて嬉しいよ。師匠なんかはさ、最高品質を求めがちだから意見が全然合わなくってさー」


「時間と素材がたっぷりあれば、そっちのほうが助かるけどね」


「アタシは急がされたからなぁ……。というわけで、約束通り、フィリアは今日一日おもちゃにさせてもらうね?」


 ミリアムに迫られて、フィリアは後ずさる。


「あ、あのー、特急料金はお支払いいたしますので、勘弁してはいただけませんか?」


「それはもちろんもらうけど、それはそれ、これはこれだからね?」


 フィリアはおれの背中に隠れてしまう。


「た、タクト様……どういたしましょう?」


「タクト、どいてねー。フィリアをよこしてねー」


 おれはフィリアのほうを向いて、両肩をぽんと叩く。


「フィリアさん、おれは報酬には2種類あると思ってる。物理的報酬と心理的報酬だ。そして、いい仕事には、然るべき報酬と敬意を払うべきだとも思ってる」


「は、はい……」


「物質的報酬――つまりお金は充分支払った。あとは心理的報酬だね」


 おれはひょい、とフィリアをミリアムのほうへ明け渡した。


「た、タクト様ぁ!?」


 すかさずミリアムが、がしっとフィリアを捕獲する。


「サンキュー、タクト。こうなるってわかってただろうに、逃げずに来るなんてフィリアも誠実だなぁ」


 フィリアは捨てられた子犬のように震えた。


「う、裏切ったのですかタクト様! わ、わたくしの気持ちを!?」


「さあさ、お楽しみの時間だよー」


「あぁあ~」


 店内奥の六畳間へ引きずられていくフィリアだった。もちろんおれはそれについていく。


「ミリアムさん、今日は撮影してていい?」


「配信とかしなきゃいいよー」


「大丈夫、個人で楽しむだけだから」


「なにを仰っているのですかタクト様!? あっ、いやっ、ミリアム様! 待ってください! 心の準備が――はうんっ!」


 さっそくミリアムが指圧を開始し、艶っぽい声を上げる。


 おれもカメラアプリで動画撮影だ。顔を赤らめ涙目になったフィリアは、非常に趣深いものがある。


 と、その時だった。


 激しく地面が揺れ出した。


「地震――!?」


 おれは即座にスマホを放って、ふたりを引き起こし、手を引いて店外まで避難する。敬介も一緒に店を飛び出した。


 やがて地震は収まる。幸いなことに、家屋が倒壊するほどのものではなかった。しかし、店内で陳列していた武具は、崩れて散らかってしまった。


「あー、まいったなぁ。もっとしっかり固定しとけばよかったー……」


「いや、揺れのせいっていうか、ちゃんと片付けてなかったせいなんじゃ……」


「忙しかったんだからしょうがないじゃんよー」


 肩を落とすミリアムと敬介だ。


 もうフィリアでお楽しみなんて言っていられない。


「片付け、手伝うよ」


「ごめん、助かるー」


 散らかった店内を4人で片付けつつ、念のため、揺れても崩れないように固定していく。


「やはり、地震の原因は迷宮ダンジョンなのでしょうか?」


 このところ地震が多いが、その震源はこの島にあるのだという。震度は大したことはないので、さほど問題視されていないが、気にはなる……。


「それを調べるのも含めて、迷宮ダンジョンの奥を目指さないとね」


 おれたちはその後、改めて武具の仕上がりに問題がないことを確認して、引き上げた。さすがに数が多いので持っては帰れない。


 グリフィン運送がそれらを宿まで届けてくれたら、さっそく威力のお披露目だ。




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拓斗たちは、どんな武器を手にしたのでしょうか!?

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