第155話 今日は仕事のことは忘れよう
雪乃と隼人の結婚式をおこなうため、おれたちはなかなか忙しく動いたものだ。
まず、物置のように使っていた宿の一室を整理整頓して、教会のように仕立て上げることから始めた。
壁一面のステンドグラスに、荘厳なパイプオルガン……なんてものは、さすがに
もともとある窓のガラスを替えたり、壁に飾りつけを施したり。パイプオルガンは、電子オルガンで代用だ。他には長椅子をたくさん揃えたり、演出用の照明を組み込んだり。それなりに見えるようにはなっただろう。
一方で、披露宴の準備のほうは、かなりいい感じになった。食堂ホールはもともとあるし、なにより、隼人と同期の新人冒険者に心強い味方がいたのだ。
そのパーティの名は『ドラゴン三兄弟』。
「
「50人前だろうと100人前だろうとなんのその!」
「披露宴のご馳走も、真心こめて作りましょう!」
なんと、おれたちのチャンネルで上げていた
以前、彼らの要望に応えて
まだ見ぬ食材を
もちろん料理も美味い。さすが本物のプロ。
調理場や食堂ホールは、もともとは冒険者が自分で持ち込んだ食材を自分で料理して食べるための場だったが、今ではすっかり彼らの
そんな彼らの協力を得られたことで、披露宴の料理はバッチリだ。食材となる
そして、肝心の神父役である。これは意外と身近なところで見つかった。
リチャード爺さんだ。
若い頃に神学を学び、神官の資格を有するにまでなっていたのだそうだ。
なんでも、宗教は儲けやすかったから、らしい。リチャード爺さんらしい理由だ。
しかも冒険者資格も持っている。なぜ持っているのかと尋ねたら、「いざ儲け話があったときに、
「かつては、辣腕のヒルストンと言われた私だ。決して安くはないぞ?」
とか言われたが、是非もない。提示された代金を気持ちよく払い、リチャード爺さんを神父役に任命した。
その間、並行して様々な調査も進行していた。
「結局、今日になってもあの声の主はわからないまま……か」
隼人や梨央が
「日本語で意思疎通してたから、すでに何人かの冒険者に接触してる
「もしかすると念話――心に直接意思を送り込んで意思疎通していたのかもしれません。なにも知らない方なら、普通に会話したと誤認してしまっても無理はありません」
「意思を飛ばしていたとなると、第4階層にはいないのかもしれないね。でも、念話が使えるだけでも大したものなのに、
「斎川様が仰っていたように、神様か悪魔か、ということでしょうか?」
「神はともかく、悪魔はあるかもね。しっかり望みを叶えるのは、契約を重んじる悪魔らしいし。他にも、知性のある
「エルフ……」
フィリアは呟いて、思案するように視線を落とす。考え込んで、気持ちが沈んでいくようだった。
「ごめん。おめでたい日に、こんな話しちゃって! 今日は仕事のことは忘れよう。暗い顔してたら、隼人くんたちに申し訳ないよ」
「あ……はい、そうですね。わたくしのほうこそ申し訳ありません! せっかくの日なのです、一片の翳りもあってはいけません!」
フィリアは気を取り直し、胸元で両手を合わせる。それから、にっこりと笑顔。
今日のために仕立てたドレスと相まって、とても上品で、綺麗な仕草だ。さすがは一国のお姫様。目立たないドレスのはずなのに、本人の所作で他より際立って見える。
「フィリアさんはいつも綺麗だけど、今日はもっと綺麗だね」
「ありがとうございます。そう言うタクト様は……ふふっ、あまり着慣れていらっしゃらないようですね」
おれも礼服を着ているが、フィリアの言うとおり、着慣れてはいない。
こちらに戻ってきてからの3年間の社会人生活でも、スーツはやっぱり慣れなかった。
「まあね。冒険用の装備が一番しっくりくるかなぁ」
とかやっていると、丈二とロザリンデのふたりもやってきた。
普段からスーツを着慣れている丈二と、たびたびゴシックドレスを着ているロザリンデだ。流石にふたりともバッチリ決まっている。
丈二はこのところ、梨央のスポンサーに対する調査と、闇サイトの処遇について色々忙しく動いていたが、今日は休みをとって来てくれたようだ。
隣に並ぶロザリンデも嬉しそうにしている。
調査の進捗は気になるが、それは式が終わってから聞くこととしよう。
軽く談笑していると、ふとロザリンデが気づく。
「あら、タクト、そろそろ時間ではなくて?」
「おっと、そうだね。よし、繋いでくるよ」
おれはその場を一旦離れ、準備しておいたタブレット端末で、ビデオ通話をかける。
やがて画面には、可愛らしい少年の姿が映った。
「やあ、
『わ、わああ、モンスレさんだー!』
春樹は驚きと喜びの声を上げた。
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※
明日はいよいよ結婚式本番です!
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