第99話 迷宮の中に宿屋があれば
「作るだって?」
おれも立ち上がってフィリアを見つめる。
「はい。おふたりが一緒に暮らせる場所は、今のところ地上にも
「詳しく聞かせてください、フィリアさん」
丈二も食いついてくる。ロザリンデもフィリアから目を離さない。
「ロザリンデ様は
「第2階層用の
「いや丈二さん、それは難しいのは前に話した通りだ」
第2階層の先行調査の最中、そんな話題が出たことがあったのだ。そのとき考えてみたが、第2階層からは
結局おれたちは、探索者が第2階層で採掘するには冒険者の護衛が必須だ、と結論づけた。
「タクト様の仰る通りです。わたくしが考えているのは、
「つまりフィリアさんは、強い
「はい、そうです」
「でも、その縄張り主になる
「その
「それができれば確かにそうかもだけど……」
「タクト様の時代にはなかった発想かもしれませんが、わたくしの時代には
「そうだったのか……。そのやり方は、フィリアさんが知ってる?」
「はい。母のひとりが
「わかった。おれも
「はい。その上で、家の庭にでも定住させれば、その周辺は安全となるはずです」
「なるほど。面白そうな手段です」
話を聞いて、丈二は感嘆の声をあげた。暗かった顔に、笑みが灯る。
「それなら、ロザリンデさんと一緒に暮らせるかもしれない」
ロザリンデは首を横に振る。
「いいえ、それでは足りないわ。肝心の家がないのよ。わたしは箱のベッドがあるからいいけれど、ジョージはずっと野宿なんて大変でしょう? それに、ここではお仕事もできないわ。毎日出勤するのに
「そんなこと問題ではありません――と言えれば格好いいのですが、確かに住処がないのはつらいですね。事務所への行き帰りも、かなりの難点です」
「一緒にいられる代わりに、今度はジョージが無理をしてしまうのなら、わたしが地上にいたほうがマシよ」
「いいえ、ロザリンデ様。住処なら目星はついておりますよ。あまりいいイメージはありませんが……」
と、フィリアは遠くへ視線を向ける。ここからは見えないが、その方向にある建物のことは、ロザリンデ以外はみんな知っている。
「ダスティンの屋敷、ですか」
フィリアは微笑んで頷いた。
「はい。実はこの前から考えていたのです。安全に休息できる施設があれば……と。
セリフの最後のほうは、ちょっとだらしない笑みになる。
「安全を確保の上、さらに電気やインターネットも通れば完璧です。おふたりにはそこに住み込んでいただいて、津田様は普段のお仕事はリモートでおこなっていただき、本当に必要なときにのみ地上に出ていただく……ということでどうでしょう?」
ロザリンデは目を輝かせた。
「毎日誰かが来てくれるの? それはいいわ。寂しくなくて」
「確かにいい。上手くいけば丈二さんたちだけじゃない。冒険者みんなの役に立つ」
けれど、と思う。
かなり難しくないか? 屋敷はかなり古いから修繕が必要だろうし、電気やインターネットをここまで引いてくるのだって、言うほど簡単じゃないはずだ。
「でも……どうやったらできるかな?」
材料や道具・機械の輸送。状況によっては材料は現地調達。そして作業員の安全確保のため移動中・作業中を問わず、常に護衛をつけておかないといけない。
ある程度は金でなんとかなるだろうが、問題は建築業者や電力会社、通信事業者が引き受けてくれるかどうかだ。
「なんとかなるかもしれません」
真剣に考えだしたおれだったが、丈二の言葉に意表を突かれてしまう。
「なんとかなるもんなの? 結構な大事業だよ?」
「いえ、実は以前から似た計画はあったのです。研究所のほうからも、
「そんな計画が……」
「ええ、もう少し先の話でしたが、予定を早めてしまいましょう。そして作業を第2階層の屋敷にまで広げてもらいます。それが済むまでは、一緒というわけにもいきませんが……」
丈二はロザリンデに申し訳なさそうな顔を向ける。ロザリンデは首を振る。
「そうね。寂しいけれど……きっとすぐ一緒に暮らせるのでしょう? 少しばかり焦らされるのは構わないわ」
「すぐ、とは確約できませんが、やれるだけのことはしてみます」
こうしておれたちは、ロザリンデと別れて地上に帰還した。
◇
翌日から、さっそく丈二は事業の拡大を提案したらしいのだが……。
「……ダメでした。第1階層の早期着工はともかく、第2階層に関しては予算の問題で来期以降でなければ無理だそうで……」
事務所の机で拳を握りしめ、丈二は悔しそうに語る。おれとフィリアは顔を見合わせてから、彼に微笑みかける。
「だったらその予算は、おれたちがなんとかしようじゃないか」
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※
拓斗たちは計画を実行できるのでしょうか?
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