第98話 居場所がないのなら、作ってしまえばいいのです!
「どうしてもっと早く言ってくれなかったのですか?」
生配信を終えて医務室へ行ってみると、丈二が心配そうにロザリンデに問いかけていた。
「ごめんなさい。迷惑をかけてしまうと思っていたから……けれど、これでは本末転倒ね。後先考えずに、はしゃぎすぎてしまったわ」
ロザリンデはベッドの上でしおらしくしている。
「丈二さん、ロゼちゃんは平気? ……なわけないか」
声をかけて初めて丈二はこちらに気づいた。ロザリンデのこと以外周りが見えていなかったようだ。
「一条さん、それにみなさん……。はい、お察しの通り、
「霧化しなくてよかったよ」
「ぎりぎりだったそうです」
「こちらも迂闊だった。
「ダスティンは、
「おれもだよ。でもロゼちゃん、ここまで弱ってるってことは、ずいぶん長い間、人の血を吸ってなかったんだね?」
尋ねると、ロザリンデは弱々しく頷いた。
「ええ……わたし、悪い子じゃないもの」
「でも吸わなければ、
「……その通りよ。でも悪い子の真似は、したくないわ」
「なにを言っているのですか」
丈二はロザリンデの肩を掴み、正面から彼女を見つめる。
「必要なら言ってください。私の血でよければ差し上げますから」
「いいのよ。人間ほど効率的ではないけれど、わたしも周囲の
「それで、次に目覚めるのはいつになるのです?」
「それは……」
「5年後ですか? 10年後ですか? あなたは、こんなにも私の心をかき乱しておいて、何年も私を放っておくつもりなのですか? 冗談じゃありません」
「でもわたしは、これまでずっとそうしていたのよ」
「私はこれからの話をしています。少なくとも私は、あなたと会えなくなるのは嫌です」
「……そうね。ごめんなさい。わたしも……目覚めるたびに老いていくあなたを見るのは嫌だわ」
「では血を……」
差し出された丈二の腕を見て、しかしロザリンデは小さく首を振った。
「……ダメだわ」
「なにを意地を張っているのです」
「いいえ、そうではないの。今のあなたには
「そういうことでしたか……。ならすぐ
丈二はロザリンデを抱き上げる。
「付き合うよ、丈二さん」
おれたちはみんなで、
◇
第2階層に入ってすぐ、適当な
第2階層の
紗夜と結衣は早めに食事を終え、周辺の警戒に当たってくれる。
それから丈二は、ロザリンデに腕を差し出す。
「では、今度こそどうぞ」
もし間違いが起こり、ロザリンデから血を与えられてしまったら
「ありがとう、ジョージ。いただくわ。はむっ」
ロザリンデはまるで甘露を味わうかのように、うっとりと目を細める。幼い顔つきなのに、妙に艷やかで色っぽい。
始めこそ遠慮がちだったロザリンデだが、だんだんと嚥下のペースが早まり、まるで貪るような勢いになっていく。
これは止めるべきかと踏み出しかけたところ、ロザリンデは丈二の腕から口を離した。
「ダメ……これ以上は、ダメ……」
罪悪感と名残惜しさをせめぎ合わせながら、丈二の腕に残る血を舐め取っていく。
そっとフィリアはロザリンデの背後から肩に触れる。
「ロザリンデ様、はしたないですよ」
「わ、わかっているわ。でも……」
「いけません。津田様が見ておられますよ」
するとバツが悪そうに、恥ずかしそうに、今度こそちゃんと離れる。けれど、最後にぺろりと舌なめずり。
「ごめんなさい、ジョージ。初めてで……吸いすぎてしまったわ」
「構いません。それより、いかかですか?」
「ええ、わたしの中があなたで満たされて……幸せよ」
ロザリンデは自分の唇を撫で、それから首、胸、それからお腹へ手を這わせる。
丈二は真っ赤になった。
「ご、誤解を生む言い方と仕草はやめてください。私は体の調子のことを聞いたのです」
「とても調子がいいわ。ありがとう、ジョージ」
「それは良か――おっと」
「ジョージ!?」
安堵する丈二だったが、ぐらりとふらつく。おれは危うく受け止めた。
「貧血だ。丈二さん、休んだほうがいい」
「ごめんなさい、ジョージ……」
おれは丈二の腕の手当てをして、包帯を巻いていく。
「しかし、これからどうしようか。今日の様子を見る限り、ロゼちゃんが地上で暮らすのは、かなり無理がありそうだ」
「わたしは構わないわ。苦しくてもジョージと一緒だもの。たまに、こうして血をもらえるなら……」
「私は嫌ですよ。あなたが苦しむのなんて。血なら毎日、いくらでも吸ってください」
「ダメだ丈二さん。さすがに君の体が持たない」
「でしたら輸血してでも……」
「そのために人の命を救うための血を使うのか? 他の手段だってあるだろう。おれたちも血を提供するとか」
ロザリンデは首を振る。
「わたしは……丈二の血じゃなきゃ嫌だわ。かけるしかない迷惑なら、恋人だけにしたいもの」
「なら、どうするか……」
全員が納得する案はないかと考えるが、すぐには出てこない。
すると、ロザリンデは諦観を含む笑みを浮かべる。
「……わたしが、ここで暮らせばいいのだわ。ここなら
「しかしロザリンデさん」
「いいの。あなたは地上に、わたしは迷宮に。ここはあなたが暮らすには危険すぎるから」
「離れ離れになってしまうのですよ。私も、毎日はここには来れない……」
「仕方ないわ。わたしの居場所は……地上にはないのだもの」
そのとき、すっくとフィリアが立ち上がった。
「諦めるのはまだ早いです」
ロザリンデはフィリアを見上げて目をぱちくり。
「なにかいい手があるの?」
「はい。居場所がないのなら、作ってしまえばいいのです!」
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フィリアの語る、居場所の作り方とは? どんな内容になるかご期待いただけておりましたら、ぜひぜひ★★★評価と作品フォローで応援ください!
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