第54話 ステータスオープン、です

「結衣ちゃんって武器はメイス使ってるんだねっ、すごく重くて強そう」


「う、うん……。本当はもっと大きい武器がいいんだけど……まだユイには持てないから。だから盾も一緒」


「大きい武器が好きなの?」


「ユイ、体小さいから、大きい武器を持てば、アニメみたいで『え』だと思って」


 迷宮ダンジョンに入ってから、紗夜と結衣は楽しげに会話を重ねていた。


「あっ、そうだ。今のうちに、ステータス見せ合いっこしとこ?」


「はい。ステータスオープン、です」


 ふたりは自分のステータスカードをその場で更新して、見せ合った。


 紗夜のステータスは、以下の通り。


 体力HP最大体力MHP :5(4 +1)/12

 魔力MP最大魔力MMP :1(0 +1)/12

 筋力STR最大筋力MSTR :4(3 +1)/11

敏捷性AGI最大敏捷性MAGI:6(4 +2)/15

抵抗力DEF最大抵抗力MDEF:4(3 +1)/10


 現在値の()内には、基礎値と、魔素マナによる強化値が『+』で記される。


 第1階層の比較的薄い魔素マナだから数値上は大した強化ではない。しかし比率で考えると大きい。素の能力値は合計14ポイントだが、強化分は魔力MPを除いて5ポイント。身体能力が35%も強化されている。


 実際には等倍で強化されているわけではないが、それでも、か弱い少女が、そこそこ鍛えた成人男性くらいの強さにはなる。


 一方、結衣のステータスは……。


 体力HP最大体力MHP :5(3 +2)/16

 魔力MP最大魔力MMP :0(0 +0)/3

 筋力STR最大筋力MSTR :5(3 +2)/16

敏捷性AGI最大敏捷性MAGI:3(3 +0)/5

抵抗力DEF最大抵抗力MDEF:5(3 +2)/15


「わあ、すごい! あたしが勝ってるの、魔力MP敏捷性AGIしかないよ。そっかぁ、迷宮ダンジョンだと体格差も補えるんだ。すごいなあ」


「うん、力こそ、パワー……だから」


 本人の言う通り、見事なまでのパワー型。盾役タンクにぴったりの強さだ。


 可憐で小柄な女の子だが、魔素マナによる強化次第では、見た目からは想像できない強さを発揮する。異世界リンガブルームではよくあることだ。


「なので……魔物モンスターが出たら、前はユイに任せて。紗夜ちゃんは、後ろから狙い撃ちで」


「うん、わかった。やってみるね」


 ぽん、と腰のクロスボウを叩いてみせる紗夜だった。


 それから結衣は、興味深げにおれのほうを見上げた。


「あの、良かったらモンスレさんの、ステータスも見てみたいです……」


「あっ、あたしも気になりますっ。嫌じゃなかったらぜひ見せてください!」


「えーっと……まあいいか。他の人には言わないでね?」


 おれもその場でステータスカードを更新して、見せてあげる。


 体力HP最大体力MHP :11(6 +5) /170

 魔力MP最大魔力MMP :3(0 +3)/100

 筋力STR最大筋力MSTR :8(5 +3)/130

敏捷性AGI最大敏捷性MAGI:8(5 +3)/115

抵抗力DEF最大抵抗力MDEF:7(4 +3)/120


 すると、紗夜も結衣も、一様に固まった。


「あの、一条先生? これ本当ですか? 体力HP、第1階層の時点であたしの最大値に近いんですけど」


「むしろ……素の能力がちゃんと普通の人なのが意外、です……。モンスレさん、このステータスで、あのグリフォン倒したんですよね……?」


「そ、そういえばそっかっ」


 ふたり揃って、「うわぁ」とばかりに一歩引いた。


「やめてよ引かないでよ。割と傷つくからね、それっ」


 おれはステータスカードを引っ込める。


「おれやフィリアさんは、日本政府の依頼でずっと前から迷宮ダンジョンに関する研究や実験を手伝ってたんだ。このステータスはその副産物だし、おれの戦い方はAIを活用した最新の訓練の賜物なんだよ」


 ということにしておく。丈二が作ってくれた『設定』だ。


 おれやフィリアの強さに疑問を持たれたときには、こう答えることに決めたのだ。


「へええ、前から政府と……って、先生ってやっぱりすごい人だったんですね」


「エージェント……。かっこいい、です」


「他のみんなには秘密だよ?」


 と、フィリアの真似をして唇に人差し指を立ててみる。


「あと、秘密と言えば、ステータスは基本的に他人には見せないほうがいいと思うよ。あんまり考えたくないけど、自分より弱い相手探してなにかしでかそうとする悪い人もいるかもしれない」


「あっ、そっか……。そういうことも、あるかもしれないんですね……」


「知識や経験で能力差を覆せはするけど、能力値の低いほうが不利なのは変わらないからね」


「はい……気をつけます……」


 ふたりが神妙に頷いてくれたところで、おれはフィリアにも目を向ける。


「おれたちも、マッチングのときにはステータスの詳細は伏せるように気をつけないといけないね?」


「そうですね。パーティが成立するまでは互いのステータスは明かさないよう徹底いたしましょう」


 言ってから、フィリアは胸元で手を重ね、にこりと微笑む。


「ところで動画の構成がまとまりましたので、そろそろ撮影を始めてもよろしいでしょうか?」


 なんか口数が少ないなー、と思っていたが、ずっと考えていたのか……。


「はい、あたしは大丈夫ですっ。結衣ちゃんは、どう?」


「は、はい。や、やります……っ」



   ◇



「はい、始まりました。モンスレチャンネルのフィリアです。今日はとっても可愛いゲストのおふたりと一緒に迷宮ダンジョン探検いたします。それでは、おふたりとも、自己紹介をどうぞ!」


 フィリアが引っ込むと、代わりにまず結衣がカメラに入ってくる。


「お、お、お邪魔します……。ゆ、ユイちゃんネルのユイ、です……! 今日はこれから――じゃなくて、あの、ユイは前衛で、えと……得意武器はメイスですっ。ちょっと重いけど、こうやって――ひゃうっ!」


 メイスを振り上げたところでバランスを崩し、すてーん! と転んでしまった。


「あうぅ……カット、してください……」


 結衣は顔を両手で覆いながら、呻くように懇願した。




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