第52話 ダンジョンに出会いを求めるのは
フィリアから『マッチング』なんて単語が出てきて、おれは驚いてしまった。
「フィリアさん、マッチングアプリ知ってたんだ?」
「はい。SNSの広告で最近よく見かけますので」
「そういうの、興味あるの?」
「いえ、それほどには。わたくしには必要ないものでしたから」
ちらり、と黄色く綺麗な瞳がこちらに向けられる。しかしすぐ逸らされる。
その言葉と仕草に、ちょっとほっとする。
「ですが、結びつけるのは恋人を求める男女でなくても良いはずです。パーティメンバーを求める者同士を結びつけるという意味でのマッチングは、アリではないかと」
「なるほど。それはいいアイディアです」
丈二は大きく頷いた。
「一条さんにフィリアさんは、ほぼすべての冒険者と顔を合わせており、しかもステータスカードで能力は把握済み。相性の良い相手を探すのは、そう難しいことではないでしょう」
「んー、でも、相性が良いからってこっちが勝手に決めちゃっていいものかなぁ?」
「あたしとしては、希望を聞いてくれると嬉しいですっ」
おれが首をひねると、紗夜がすぐ反応してくれた。
「普通のマッチングアプリでも、相手の年齢とか、収入とか、趣味とか、ある程度、希望を出せますもん」
「よく知ってるね。やったことあるのかな?」
「いえっ! クラスメイトがやってたときに、話が聞こえてきただけですから! まあ、正直、興味はありましたけど……」
最後のほうには声が小さくなってしまう。恥ずかしそうに顔を下げる。
「オーケイ。じゃあ、年の近い男の子に絞って探してみようか」
「いえいえいえ! そういうのいいんで!
バタバタと慌てて手を振る様子が可愛い。
「……ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているのでしょうか?」
ぽつりと丈二がそんなことを呟く。
「わたくしは良いと思いますよ。冒険を通して芽生えていく愛……。素敵なことだと思います」
「ですよね。私もそう思います。そういうものに未だに――いや、今だからこそ憧れがあります」
フィリアの返答に嬉しそうな丈二だ。初対面のときには思いもしなかったが、なかなか愉快な人なのかもしれない。
「じゃあ紗夜ちゃん、どんな人が希望だい?」
「えっと……まずあたしと相性がいい人がいいんですけど……」
「紗夜ちゃんとの相性か……」
紗夜はステータスカードを提示してくれる。
これを踏まえて、おれは問いかけた。
「紗夜ちゃんは、この先、どんなスタイルを目指していくんだい?」
「えっと、やっぱりあたし
「そうだね、その方針でいいと思う。となると紗夜ちゃんは後衛向きだ。それなら前衛をやれる
「誰かいます?」
「ベテランの吾郎さんがいいんじゃない? あの人も、まだパーティ組めてなかったし」
紗夜は露骨に嫌そうな顔をした。
「ああいう、言葉遣いが乱暴な人は嫌です……」
「そっかぁ……。とりあえず前衛をやれそうな人を探してみるけど、紗夜ちゃんはもうレベル2だからなぁ。釣り合う人は、それこそベテラン勢になっちゃうけど」
第1階層での成長限界が近く、第2階層でも通用しそうな冒険者のことは
これまで見てきた例でいうと、最大能力値の合計が60以上なのが目安だ。
「あの、あたしレベルはこだわりません。そこは一緒に成長していければいいので。むしろ性格とかの相性のほうが重要だと思います」
「それもそうだね。それなら選択肢が広がるよ。他に希望する点はある?」
「えっと、やっぱり年が近いのと、女の子がいいなって思います」
「女の子か……。それなら、あの子がいいかも」
「あ、誰かいます?」
「うん、気の弱そうなところがあるけど、とってもいい子だよ。よし、ちょっと連絡を取ってみよう」
「はいっ、お願いしますっ」
おれが連絡を取って小一時間後、その子はプレハブ事務所にやってきてくれた。
「やあ。この前、報酬を渡して以来かな」
「……はい。ご……ご無沙汰、してます……」
やってきてくれたのはいいが、妙におどおどしてしまっている。もとから気弱な印象はあったが、これほどではなかった。
黒髪のショートボブは前髪だけ長く、うつむくと目元が完全に隠れてしまう。そして小さく震えるような様子は、か弱い小動物のようだ。実際、身長も紗夜より小さい。
「紗夜ちゃん、紹介するよ。こちらは今井結衣ちゃん。美幸さんが行方不明になったとき、見つけてくれた子だ。で、結衣ちゃん、こっちは葛城紗夜ちゃん。パーティメンバーを探してるんだ」
と、おれが間に立って紹介したのだが、肝心の結衣は話が耳に入っていないらしい。
「ご、ごめんなさい……!」
結衣は紗夜ではなくおれのほうに向き直り、勢いよく頭を下げてきたのだ。
「許して、ください……! 出来心だったんです……っ!」
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