第49話 対処法が分かってれば苦労しない
「ご迷惑でなければ、私も同行させてください」
「丈二さん、
「もちろんです。特に直近10日間は、
「10日は凄いな。でもなんで?」
「レベル上げのためです。上の者から、VIPであるあなたがたをガードするよう命じられてしまいましてね。
「そりゃ凄い熱意だけどさ」
「お陰様で、能力値はなかなかのものになりましたよ。おふたりにはまったく及びませんが」
言いつつ、さっき更新したばかりのステータスカードを見せてくれる。
現在値は
フィリアもこれには感心したようだ。
「魔法の訓練もされていないのに、この魔力値は凄いです」
各能力値は、
紗夜は、素早く敵を仕留める戦法が多かったためか、
一方で、丈二は魔法を使ったこともないはずなのに、やたらと
「どうやら才能があったようです。昔から、そうではないかと思っておりましたが」
丈二は冷静な表情を崩さないが、声色は誇らしげだ。
その様子に、先日メッセージアプリを通じて紗夜から送られてきた動画を思い出した。
『津田さんがダンジョンで変なことしてました』
そんなメッセージと共に送られてきた動画には、表紙に『†DARK BIBLE Ⅲ†』と手書きされたノートを片手に、キレキレにポーズを決める丈二の姿があった。
動画内で丈二は「ダークファイア……ダメだ、ありきたりすぎる。フレイム? ブレイズ……いやイグナイト。よし、ダークイグナイト!」とか言って、ノリノリでまたポーズ――たぶん魔法発動のポーズを取っていた。
おれはただ一言、『見なかったことにしてあげて』と紗夜に返したものだ。
「……魔法はイメージ力も重要だからね。イメージトレーニングとかしてたんなら、それが効いたのかもしれない」
決して厨二病の再発症が原因だとは言わない。男の情けだ。
「しかしいくら魔力があっても、それを活かせなければ意味がありません」
丈二の言うことはもっともだ。
魔力だけでなく、他の能力にも同じことが言える。高い
重要なのは、能力をどう活かすか。
上手く活かせば数値以上の活躍ができるだろうが、活かせなければ全く逆の結果にもなる。能力値はあくまで目安でしかない。
結局は、数値に反映されない、その人の経験や知識、技量が物をいう。
そして魔力を活かすには、やはり魔法の知識が不可欠だ。
「つきましては、いずれはおふたりに魔法についてレクチャーしていただきたいと思っております」
「それならフィリアさんが専門だ」
フィリアは微笑んで頷く。
「魔法については、葛城様も習いたいと仰っていました。そろそろ講義を開いてもいいかもしれません」
「それでしたら掲示板に受講者募集ポスターを貼りましょう」
「あ、掲示板といえばさ、やっぱりちゃんと読まない人が多いみたいなんだ。紗夜ちゃんも読み落としてたところがあったし、他にも通知できる方法があったほうがいいと思う」
「それなら近々、メッセージアプリに公式アカウントを開設予定です。即時一斉通知に使うほか、AI応答システムで必要な情報をすぐ見られるようにしますよ」
「それは便利そうだ」
「他にも、専用アプリを開発させております。依頼の発注や受注の簡便化が目的です」
とかとか展望を話しながら、
そしてドリームアイを誘い出すための誘引剤を焚いて、おれたちは近くに身を潜める。
待つこと20分弱。ドリームアイがやってきた。狙い通りのメス。運がいい。
おれは自分の頭部に魔力を集中して、短く呟く。
「――
念のため幻覚対策の魔法をかけてから、ドリームアイの死角からゆっくりと近づいていく。
充分に接近してから、分厚く大きい袋を一気に広げて、ドリームアイに覆い被せる。
――!!!??!!!
もぞもぞと激しく暴れるが、強引に押し込み、素早く封をする。それでも暴れるので、今度は手のひらに魔力を集中。
「――
袋の中でドリームアイは大人しくなった。魔法が効いて意識を失ったのだ。
「よし。じゃあ、他のやつに見つかる前にさっさと帰ろうか」
袋を担いで振り向くと、フィリアは小さく拍手してくれた。
「見事なお手並みです。さすがタクト様」
一方の丈二は、拍子抜けといった様子だ。
「こんなにもあっさり……?」
「そうですよ、津田様。タクト様は凄いお方なのです」
「さすがリアルモンスタースレイヤー、ですか」
「ま、対処法が分かってれば苦労しないからね」
でもフィリアに褒められるととても嬉しい。笑みが漏れてしまう。
「しかし、サンプルが追加で必要になるなんて、研究所でなにがあったんだい?」
「それが例の男――末柄美幸さんの元夫、
「あの幸せな夢の中にいて?」
「どうやら彼の幸せには、暴力がつきもののようです」
「そんな人間が存在するのですか……」
フィリアは心底理解できないのか困惑の表情を浮かべる。
「ま、DV男ならあり得るか」
おれは肩をすくめた。
「それでさらにひどい目に遭うだろうけど、自業自得だね」
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