第49話 対処法が分かってれば苦労しない

「ご迷惑でなければ、私も同行させてください」


 迷宮ダンジョン突入の準備を整えたところ、同じく装備を整えた丈二がついてきた。


「丈二さん、迷宮ダンジョンの経験はあるのかい?」


「もちろんです。特に直近10日間は、迷宮ダンジョンで寝泊まりしておりました」


「10日は凄いな。でもなんで?」


「レベル上げのためです。上の者から、VIPであるあなたがたをガードするよう命じられてしまいましてね。魔物モンスター料理も、1日3食と言わず、6食ほど詰め込んでおりました。超過カロリーを消費するのも大変でしたが」


「そりゃ凄い熱意だけどさ」


「お陰様で、能力値はなかなかのものになりましたよ。おふたりにはまったく及びませんが」


 言いつつ、さっき更新したばかりのステータスカードを見せてくれる。


 体力HP最大体力MHP :6/12

 魔力MP最大魔力MMP :0/19

 筋力STR最大筋力MSTR :5/8

敏捷性AGI最大敏捷性MAGI:4/8

抵抗力DEF最大抵抗力MDEF:4/7


 現在値は迷宮ダンジョン外なので常人的だが、最大能力値は、階層レベル1の冒険者としては中々だ。特に魔力の値がずば抜けている。


 フィリアもこれには感心したようだ。


「魔法の訓練もされていないのに、この魔力値は凄いです」


 各能力値は、魔素マナのある環境下でどう動いたかによって伸び方が違うと思われる。


 紗夜は、素早く敵を仕留める戦法が多かったためか、敏捷性AGIが高くなっていた。力押しするタイプの冒険者は、やはり筋力STRが高めだ。


 一方で、丈二は魔法を使ったこともないはずなのに、やたらと魔力MPが鍛えられている。


「どうやら才能があったようです。昔から、そうではないかと思っておりましたが」


 丈二は冷静な表情を崩さないが、声色は誇らしげだ。


 その様子に、先日メッセージアプリを通じて紗夜から送られてきた動画を思い出した。


『津田さんがダンジョンで変なことしてました』


 そんなメッセージと共に送られてきた動画には、表紙に『†DARK BIBLE Ⅲ†』と手書きされたノートを片手に、キレキレにポーズを決める丈二の姿があった。


 動画内で丈二は「ダークファイア……ダメだ、ありきたりすぎる。フレイム? ブレイズ……いやイグナイト。よし、ダークイグナイト!」とか言って、ノリノリでまたポーズ――たぶん魔法発動のポーズを取っていた。


 おれはただ一言、『見なかったことにしてあげて』と紗夜に返したものだ。


「……魔法はイメージ力も重要だからね。イメージトレーニングとかしてたんなら、それが効いたのかもしれない」


 決して厨二病の再発症が原因だとは言わない。男の情けだ。


「しかしいくら魔力があっても、それを活かせなければ意味がありません」


 丈二の言うことはもっともだ。


 魔力だけでなく、他の能力にも同じことが言える。高い筋力STRを持っているのに、クロスボウなどの射撃武器で戦っては宝の持ち腐れだし、高い敏捷性AGIを重い装備で殺してしまうこともありうる。


 重要なのは、能力をどう活かすか。


 上手く活かせば数値以上の活躍ができるだろうが、活かせなければ全く逆の結果にもなる。能力値はあくまで目安でしかない。


 結局は、数値に反映されない、その人の経験や知識、技量が物をいう。


 そして魔力を活かすには、やはり魔法の知識が不可欠だ。


「つきましては、いずれはおふたりに魔法についてレクチャーしていただきたいと思っております」


「それならフィリアさんが専門だ」


 フィリアは微笑んで頷く。


「魔法については、葛城様も習いたいと仰っていました。そろそろ講義を開いてもいいかもしれません」


「それでしたら掲示板に受講者募集ポスターを貼りましょう」


「あ、掲示板といえばさ、やっぱりちゃんと読まない人が多いみたいなんだ。紗夜ちゃんも読み落としてたところがあったし、他にも通知できる方法があったほうがいいと思う」


「それなら近々、メッセージアプリに公式アカウントを開設予定です。即時一斉通知に使うほか、AI応答システムで必要な情報をすぐ見られるようにしますよ」


「それは便利そうだ」


「他にも、専用アプリを開発させております。依頼の発注や受注の簡便化が目的です」


 とかとか展望を話しながら、迷宮ダンジョンへ入っていく。


 魔物モンスター除けを使って、さっさと第2階層へ。


 そしてドリームアイを誘い出すための誘引剤を焚いて、おれたちは近くに身を潜める。


 待つこと20分弱。ドリームアイがやってきた。狙い通りのメス。運がいい。


 おれは自分の頭部に魔力を集中して、短く呟く。


「――精神保護レジスト……!」


 念のため幻覚対策の魔法をかけてから、ドリームアイの死角からゆっくりと近づいていく。


 充分に接近してから、分厚く大きい袋を一気に広げて、ドリームアイに覆い被せる。


 ――!!!??!!!


 もぞもぞと激しく暴れるが、強引に押し込み、素早く封をする。それでも暴れるので、今度は手のひらに魔力を集中。


「――睡眠スリープ!」


 袋の中でドリームアイは大人しくなった。魔法が効いて意識を失ったのだ。


「よし。じゃあ、他のやつに見つかる前にさっさと帰ろうか」


 袋を担いで振り向くと、フィリアは小さく拍手してくれた。


「見事なお手並みです。さすがタクト様」


 一方の丈二は、拍子抜けといった様子だ。


「こんなにもあっさり……?」


「そうですよ、津田様。タクト様は凄いお方なのです」


「さすがリアルモンスタースレイヤー、ですか」


「ま、対処法が分かってれば苦労しないからね」


 でもフィリアに褒められるととても嬉しい。笑みが漏れてしまう。


「しかし、サンプルが追加で必要になるなんて、研究所でなにがあったんだい?」


「それが例の男――末柄美幸さんの元夫、宍戸ししど克也かつやがですね、ドリームアイを殺してしまいそうなのです」


「あの幸せな夢の中にいて?」


「どうやら彼の幸せには、暴力がつきもののようです」


「そんな人間が存在するのですか……」


 フィリアは心底理解できないのか困惑の表情を浮かべる。


「ま、DV男ならあり得るか」


 おれは肩をすくめた。


「それでさらにひどい目に遭うだろうけど、自業自得だね」




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