第19話 これは炎上するよ

「この動画、すっごくバズってて! SNSでもトレンド入りしてるんですよ! 一条先生、有名人です!」


 はしゃぐ紗夜に対し、おれは苦笑するしかない。


「町中でやたら見られてると思ったら、そういうことか……」


「リアルモンスレですもんね」


 ちなみに『モンスレ』とは『モンスタースレイヤー』という大人気テレビゲームシリーズの略称だ。倒したモンスターの素材で新たな装備を作り、より強大なモンスターに挑んでいくアクションゲームで、協力プレイで一世を風靡した。


 役所の出口のほうを見てみると、記者らしき者がカメラマンと共に待ち受けている。


「うわあ、おれ、これから取材受けるの……?」


「当然の流れかと。英雄たるもの、人々に活躍が語られて然るべきなのです」


 どこか嬉しそうなフィリアだ。まったくもう。他人事だと思って。


「言っとくけど、フィリアさん。君もその対象だと思うよ?」


「はい? なぜでしょう?」


「魔法ぶっ放してたからね。人によってはおれより、そっちのほうが興味あるんじゃないかな」


「そ、それは困ります……!」


「でもまあ逃げてもきりがないだろうし、適当に納得させて帰ってもらうしかないかな」


「あの、では、わたくしも一条様とご一緒しても?」


「そのほうが良さそうだね」


 おれは面倒事は早めに片付けようと、フィリアと一緒にこちらから記者に声をかけた。



   ◇



 記者の質問に関しては、秘密にしたいことや説明が面倒なことははぐらかしつつ、グリフィン退治について答えた。やがて充分と判断したか、質問内容が切り替わる。


「それでは今回のグリフォン被害について、どうお考えになりますか? 未然に防ぐ方法はあったのでしょうか?」


「あっ、それに関しては」


 口止めされてたし、一応誤魔化しておいてあげよう。と思っていたら。


「はい。あれはお役所の怠慢が原因かと考えます」


 フィリアは、その役所の制服姿であっさり言ってしまった。


「それはどういうことなのでしょうか?」


「こちらの一条様が事前に危険性を訴え、迷宮ダンジョンの一時封鎖を提案くださっていたのですが、素人考えなどと言われ不当に却下されてしまったのです」


「一条さん、それは本当ですか!?」


「えぇっと……」


「本当です。一条様はお知り合いの方や、買い物に立ち寄ったお店それぞれに伝えてくださっておりました。今回、人的被害が少なかったのは、そのお陰でもあると思います」


「いや他の冒険者の人たちが頑張ってくれてたのもあるよ?」


 その後、記者はこの件について根掘り葉掘り聞いてきたが、フィリアはまったく躊躇せず正直に答えてしまう。


 まあ、約束通り、おれは喋ってないからいっか。


「いやあ、これは助かりました。職員の方から、このようなお話が聞けるとは思っておりませんでしたので」


「ああ、いえ、わたくし、もう職員ではないのです。先ほど退職届を提出いたしまして……。正確にはまだ籍はあるのですが、有休消化のため本日が最終出勤日なのです」


「ほう、それはやはり今回の不手際に対する不満から?」


「いいえ、無関係です。プライベートですので、その理由については、秘密です」


 唇にそっと人差し指を立てる。


「そうですか。ありがとうざいました。では、またなにかありましたらお伺いいたしますので! 失礼いたします」


 ラフにお辞儀してから、記者はカメラマンに「さっき言ってた店にも取材に行くぞ」とせっつきながら去っていった。


 おれは苦笑する。


「容赦なくぶちまけたね、フィリアさん。これは炎上するよ」


「どうせ黙っていても、いずれ明らかになることです。それならば、事実無根の記事を書かれる前に、本当のことをお知らせしておいたほうがお互いのためかと」


「そうだろうけど、大変なことになるだろうなぁ」


「なってしまえば良いのです。少しばかり痛い目に遭えば、事の重大さに気づいて、より良い働きをしていただけるはずです。人の命のかかっているお役目であのような怠慢……ただで済むと考えるほうが間違いです」


「フィリアさん、結構怒ってたんだね」


「はい、とても。これからお役所になにがあったとしても、わたくし、としか言うつもりはありません」


 それからさらに唇を尖らせる。


「それにそれに、記者の方々もです。わたくし、貴重なお話をご提供しましたのに、なんの報酬もくださいませんでした。ひどいです。タダ働きですっ」


「そっちのほうが怒ってるね……。まあ、そういうものらしいよ」


「もう記者さんの取材には応じないことにいたしますっ」


 ぷんすかと頬を膨らませるフィリアである。やっぱり怒ってる顔も可愛い。


「しかし……フィリアさん、ここ辞めちゃうんだね」


「はい、一条様が装備について教えてくださったお陰で、迷宮ダンジョンに潜るほうがずっと稼げるようになりましたので」


「じゃあ、武器屋の店番や、メイドさんも辞めちゃうのかい?」


「武器屋のほうは続けるつもりですが、もう一方は、はい。どちらにせよ、あのお店も被害にあっておりますし、しばらく営業はできないので」


「……残念だな。メイド姿、可愛かったのに」


 ぽっ、とフィリアは頬を赤らめる。先ほどの不機嫌さが消えてなくなる。


「そ、そう仰るなら、たまにお手伝いにいってもいいかもしれませんが……いえ、それより、一条様」


 フィリアは不安げに、おれを見つめる。


「先ほどの取材の中で、宿を失ってお困りだと仰っておりましたが……」


「あはは、まあね。まあ、野営道具はあるし平気だよ」


「平気なわけがありません。せっかく手に入れた居場所を失ってしまうなんて……」


「失ってなんかいないよ。居場所ってのは、なにも住処だけを指すものじゃない」


 おれは微笑んでみせる。


「好きな人と一緒にいるとか、望む生き方をしてるとか、自分が自分らしく居られるときこそ、居場所があるって言えるんじゃないかな。だから、おれは平気なんだ。ちゃんと居場所がある」


「それならいいのですが……いえ、よくありません。住処の問題はまた別のお話です。なので――」


 フィリアはなにか言いかけて、やめる。しかし迷うように瞳をあちこちにせわしなく動かす。やがて赤面しつつも決意して、再び口を開いた。


「……よろしければ、わたくしのうちにいらっしゃいませんか?」




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読んでいただいてありがとうございます!

1/17朝時点で、本作はカクヨムコン9 現代ファンタジー部門週間ランキング103位でした! もっと評価していただければ、100位以内も夢ではないかもしれません!

「先が気になる」とか「フィリアさん可愛い」とか「動画回もっと!」とか 思っていただけましたら、ぜひ★評価と作品フォローで応援くださいませ!

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