しばし、たびたび

あんちゅー

旅に出る

そうだこれから旅に出よう


思い立てば早いか荷物をまとめ


ひとりぽとぽと歩いてく


薄暗お空が白んでくれば


朝の雫を浴びた梢が


キラッキラと光っている


ひとりしばしば歩いていると


溢れるほどの人の波


掻き分けもぞもぞ泳いでいくも


目的地までは夢の先


人の波間に隙を見つけて


飛び込んで行けば一息のまま


そんな所に見つけたるのは


大きくうねる鉄の龍


人波口に放り込み


おなかいっぱい飲み込んで


自由気ままに走る星霜


私はしっぽに捕まると


振り落とされないようにしがんでく


大きく龍は空を翔け


私の横を大きな大きな羽を広げた


夜鷹が一緒に飛んでいる


ここは光の届かない


深い深い夜の海


ちりちりばめた星屑が無数に降り落ち瞬きを


暑くて寒くて茹だって凍って


色んな顔の出会い橋


「いつもいつも大変ですね」


「ええとっても」


私が橋の袂の彼女に聞くと


こくりと頷き口を開いた


「けれども年に一度は会えるもの」


彼女は頬を真っ赤に染める


太陽みたいな一等星


龍は大きく進んでく


うねりとうねりと掴む宙


星屑の中を進んでいく


ここはどこかと見渡すと


大きな大きな巨人の肩の


真っ赤なシンボル平家星


「こんにちはお仕事ですか?」


「あぁ、大牛を食らうてやらう」


見上げる先には立派な角の大牛


彼は大きな口開け高らかに笑う


「愛した女神に捧げるためさ」


立派な胸に突立つ角を難なく掴んで仕留める狩人


愛する女神はどこかしら


空に浮かんだ大きな月をみる


まあるく明るい微笑みの月は


彼を優しく照らしている


夢のような時間はあっという間


今日はもう疲れてしまった


私は龍の背まで這い


ファファ毛布にくるまって


鞄に詰めた水筒の


紅茶を飲みつつ夜を眺める


なんでも包み込んでくれる夜が好き


人も星も声も波も感情も記憶だって


散りばめられた星を手で


そっとすくってフーっと吹く


粉々のそれはまるでキラキラの雪みたい


温まった体が急に夢のようにぼんやりしてく


もう、目が覚める時間だ



電車のアナウンスが聞こえ、私は目を覚ます。

あとひと駅で最寄り駅に着くみたいだ。

腕時計を見れば、時刻は11時を過ぎた頃。窓の外には寝静まった静かな街並みが流れていく。

一日の終わりなんてこんなものだ。

毎日同じことの繰り返しなのに、どうして私はまだ縋りついているのだろうか。いつか何かが起こるとすれば、きっとそれは私が死ぬ時くらいのもので、あとはそう普段が地続きに伸びているだけ。

そう考えると急に怖くなる。

私はこのままでいいのかな。

暗い窓に映る自分の表情は、幾ばくも若くて輝いていた頃とは大分違うように見えた。

明日もきっとそうで、明後日もきっとそう。

これが私の選んだ道で、これが私の人生だ。

そう思えばすっかり輝く光が、私を導いてくれないものかと、帰宅途中の私は思う。

ほら一歩、もう一歩踏み出せば。

どこからともなく声が聞こえてふらと足が動いてしまう。

すんでのところで理性が首を振ってみせる。

あぁ、案外光はすぐ側にあるみたいだ。

耳をつんざくクラクションの音が耳の中にいつまでも残り続ける。

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しばし、たびたび あんちゅー @hisack

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