第6話 すれ違う


 あれからずっと、私は此処にいます。

 清純君が居なくなってから、本気の恋愛をした男性も居ましたし、結婚を前提で交際していた方もおりました。でも、結局は上手くいかず……いえ、きっと原因は私なのです。


 身も心も、清純君を忘れてはいませんでした。

 私の体を愛撫する指先、舌、硬くなる陰茎ですら。

 甘い吐息も、余裕のなく上擦る声だつて。


「……文香ちゃん」



 夕陽が差す部屋で、私と清純君の終わりが近づいています。

 長い長い恋愛ごっこの副作用がすうっと解けていくように、私の彼への想いは昇華されていきました。


「今、幸せ?」


 彼の薬指に光る物に気付かない程夢見る少女ではありませんし、純心でもありません。絡む指先に当たるその感触に、私の胸はチクリと痛みましたが、それでも彼に愛されたかった。

「……まぁ人並に」

 清純くんは薬指を隠すようにキュッと拳を握ると、腕の中の私を引き寄せ、キスをひとつ。

 そしてそれから何度も、何度も。互いの何かを探るように。

 なんで今更……と、憎まれ口のひとつも言いたかったのですが、私はその言葉を飲み込みました。


「あの時二人で駆け落ちしてたら……」

「たらればの話しは、私たちには必要ないでしょ?」

「そっか」

「でもね、清純くん」



 ━━愛してる。


 いや、愛してた。



 夕陽が沈むその前に、お別れのキスをして。

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