背中を一押し
@ns_ky_20151225
背中を一押し
朝、通勤時間帯の駅のホーム。そういう密度の高い人ごみにいるとよく聞こえる。でもほとんどはファーストフード店のざわめきとおなじですぐに意識しなくなる。人の思考というのはその程度のものだ。ひとつのことを、あたかも文章を読むようにずっと考えてる人なんかいない。くらげのようにとりとめもなくふわふわ。それがふつうの人の頭の中だ。
でも、時々ひとつのことを集中して考えてる人がいる。そういう思考はくっきりと背景から浮かぶように感じられる。
あ、いた。思いつめてる。あたしは心の中で微笑んだ。かわいい。中学生の男の子だった。部活の子に告白するか迷ってる。言わなければ今の関係のままでいられるんじゃないか。告白なんかしたら壊れてしまう。やめておけ。でもまったく動かなかったら後悔するぞ。そう考えて悩んでる。
そんな時、あたしのもうひとつの力を使う。『背中を一押し』だ。背景雑音にならないほどはっきりした真剣な思いなら、その決意をほんのちょっと後押しできる。あの男の子は選択をしようとしてるんじゃない。心の底では告白しようって決心したのにだれも後押ししてくれない状態だっただけだ。
だからあたしが押してやる。そしてあの子は決めた。今日、告白するだろう。その結果がどうであれ、決意したことを行動に移したんだから後悔はない。
あたしは「がんばれ」と心の中でつぶやいた。
あれ、あそこにも。二人もなんて今朝は珍しい。強い思いだ。さっきの中学生よりも。でもさっきとおなじで迷ってるようでありながらすでに決定は下してる。じゃあこの人も。
あたしはホームの端、黄色の線の外側に立つ男の人の背中を一押しした。
了
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