30:これはデート?

 



 魔王を待たせるのも申し訳ないので、ブラウスとフレアスカートに着替えて、ちゃちゃっと髪を纏めた。


「お待たせしましたー」

「ん」


 いつの間にやら偽ヒヨルド姿に戻っていた魔王に、左手を差し出された。

 これは繋げということ?

 まぁ、繋ぐけども。




 トテトテと町中を歩いて家具屋さんに向かう。

 知り合い数人とすれ違ったら、挨拶する暇もなくニヤニヤとウィンクをして立ち去られた。

 なんだろなぁと考えたところで気が付いた。


「あっ! そうか!」

「なんだ?」

「私、ヒヨルドとデートみたくなってるからか!」

「――――っ!」


 魔王の手がビクッと動いた瞬間には、隣に妙に見覚えのある男性がいた。


「……魔王?」


 角を無くして、髪を短く黒くした、魔王。


「ウィル」

「はいはい。ウィルですね」


 魔王と呼んだらすぐバレるから、名前で呼べってことか! 納得!


 なんとなくご機嫌そうな魔王と手を繋いで家具店に到着した。

 私は、貯蔵庫用の棚を買い揃えたいのだ。

 

「おや? ミネルヴァちゃん、彼氏かい?」

「違いますよー」

「「……」」

「「ゔぁふぅ!」」

「痛ぁ!?」


 足元にいたフォン・ダン・ショコラになぜか甘咬みされた。地味に痛いし。


「こら……」

「ヴァウゥ!」

「わふわふっ!」

「ヘフン!」


 それぞれがそれぞれで『こら』と軽い注意をした魔王に何かを訴えている。

 魔王は分かっているとかなんとか言っているから、会話が成立してるんだろうなぁ。何話してんだろ。


「ええっと……何かお買い求めに?」

「あ、そうそう! 棚を買いたくて」


 魔王と店内をグルグルして、棚板を増やしたり移動させたり出来るタイプのを選んだ。

 在庫はかなりあるそうなので、倉庫にお邪魔して魔王のストレージにポイポイっと入れてもらった。


「わぁ、ストレージ持ちさんですか! それだけ入る方は珍しい! もうどこかで働かれてありますか?」

「……ん。生涯契約をしている」

「あらー。残念」


 どうやら大型(?)ストレージ持ちは、かなり厚遇されるらしい。

 ほへぇ、超助かる! くらいの軽い感覚でいたけど、拡張もしてもらえたし、分割も許可してくれて、書類も用意してくれたし……わりと土下座で感謝ものなのかもしれない。

 

「ドゲザ?」

「ん? 後で披露しますねー」


 貯蔵庫に棚を設置して、料理も並べたら、土下座しとこ。


「あ! その前に鍋とかバットも買い足したい!」

「ん」


 魔王は今日は時間があるらしいので、とことん付き合ってもらおうっと。


「いやぁ、ウィルがいてくれてよかったぁ」

「んっ!」


 魔王がちょこっとだけ微笑んでいた。

 感情が表情に乗らないらしく、分かりづらいけど『ん』の感じからして、ご機嫌らしい。

 

 ――――魔王って面白い!

 


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