16:美味しいものは、幸せ。
魔具師――ナマズそっくりのおじいちゃんにかき氷器を作ってとお願いしたら、苦笑いされてしまった。
貴族のお嬢様らしいってどこがなんだろう? 性格は前世に引っ張られて一般的なピーポーな気がするんだけど?
「いやぁ、お願いしとらんじゃろ。作って!ってのは命令形じゃよ?」
まじか! いや……でも、嫌だと言われたら条件聞いて、どうにかこうにか作ってもらう気満々だったけど。あれ? ということは、つまりは命令形になるの?
ちらりと店員さんを見ると、コクコクと頷かれた。え、どっち? それは、なるなる!の方なの?
「えっとぉ、作ってくださいっ!」
ガバリと頭を下げてお願いしてみたら、今度は下手に出過ぎだと笑われた。
「もぉ! じゃあ、どうしたらいいの!?」
「うははは。可愛く笑って、『おねがい』って言えばいいんじゃよ」
――――ほほう?
「おじいちゃん、おねがい?」
コテンと首を横に倒しつつお願いしてみたら、おじいちゃんが目頭をぐっとつまんだまま停止した。いったい何が?
「破壊力がすごいですね。サキュバス?」
「いや、普通の人間じゃ。人間界から追放された悪女じゃ」
「……サキュバスのハーフ?」
いやいやいや、なんでそうなるの。私は普通の人間だし! ちょっと悪役令嬢はやってたけど、今はそこそこに真面目に生きてる……はず。
…………たぶん。
結局、おじいちゃんは作ってくれることになった。
私のふわふわした前世のふわふわした記憶でのふわふわな説明だったのに、あれよあれよと理解してくれて、明日にはお店に持ってきてくれることになった。
「おじいちゃん、有能っ!」
「ふははは。じゃろ? 今度唐揚げをおまけしてくれていいんじゃよ?」
「もちろんっ! 新メニューも考えてるから、味見してね!」
「ほほぉ。ほいじゃ、作ってくるかのぉ」
おじいちゃんが鼻歌を歌いながら店の裏に消えていった。
店員さん曰く、おじいちゃんがあの雰囲気のときは、あり得ないほど凄いものを作り出すときだとかなんとか言いながらブルッと震えていた。
いま魔界に流通している調理魔具のほとんどがおじいちゃんの開発らしい。
「え、コンロとかも?」
「はい! 改良版を、ですが。今のは一定温度を指定できるじゃないですか?」
「うんうん! 油180度って設定したら一定にしてくれるね」
めちゃめちゃ便利なのよね。あの機能。
具材入れると油の温度が下がるけど、直ぐ設定温度に戻してくれるし、ずっと一定に保ってくれるのよね。
「はい。その機能を開発しました」
「………………めっちゃ凄くない?」
「はい。めっちゃ凄いんです。なんで調理魔具ばっかりに力を入れるのかわかりません」
兵器とかも作れるし、その方が断然儲けるらしいけど、なぜか作らないらしい。
不思議なおじいちゃんだ。
とりあえず、これでかき氷が食べれる。
美味しいものは、幸せの味だよね。
帰ったら急いでシロップ作ろうっと!
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