第7話 応援
『いやー!! お水そんなにいらない! もっと土、土も欲しいの!』
種子の生存本能から、わた毛は人に聴こえない魂の叫びを上げました。タンポポは土の上でないと芽を出せないのです。水は植物に必要不可欠ですが、過ぎれば身体が腐るし、それだけは育たないのです。このまま水面に落ちたらおしまいです。しかもあまり綺麗とも言えない水の中からは、何でもスキキライ無く食べ尽くしてしまう魚のコイまで目を光らせて、『やあやあ、なんだかよくわからないが、フワフワして美味そうなもんが落ちて来たぞ』とわた毛を見上げています。
このままでは悪くてお魚のご飯、良くて川の上を流れながら種子も綿毛も腐るの二択。
『ここで終わりたくないのー!』『うわぁーん!』『お助けぇええええ!!!』などとわめくタンポポの叫びが届くはずもないのですが、
「「「「がんばれー!!!!」」」」
という四人分の声援が上から聞こえて来て、わた毛に不思議な力がわいて来ました。植物は話しかけると育ちが良いという研究もあります。そんなわけで、動けないはずのわた毛は、フンッ!フンッ!とわた毛の傘に力を込め、水面スレスレを踏ん張っていました。そんなバカな!
そうこうしているうちに、フワッと風がわた毛を掬い上げました。コイはつまらなそうに川の底へ潜ってしまい、わた毛は風に持ち上げられ、どんどん、どんどん上昇していき──、近くの屋根を飛び越えて、見えなくなってしまいました。
川を覗き込んでいた四人は、わた毛を見送って一安心。ちなみにすみれお姉さんはまだ幹夫さんと腕を組んだままです。
「わた毛さんだいじょうぶかな?」
「てつだいしてダメだったらヤだよな」
「おてつだいってなんのこと?」
「……なんでもない」
「えー、気になる!」
「じゃあ日っきにかいとくからよんどけ。だれにもいうなよ」
「うん、ないしょ!」
こそこそナイショ話をするさくらちゃん達の横で、すみれさん達もラブラブしていました。照れ屋オドオド屋の幹夫さんもだいぶ開き直ったようです。
「植物に話しかけたのなんて、子どもの頃以来」
「子どもの時はやってたの?」
「うん、わたしの名前ってすみれでしょう、だからおんなじすみれの花ならお話出来るんじゃないかって、すみれの花見かけるたびやってたの。今でも時々お父さんがからかうのよね」
「それは初めて聞いたな」
「だってこんな事話すの恥ずかしいし」
甘えるように身体をすり寄せるすみれさんの体温にドキドキしながら、これから先すみれさんの知らない事をもっと知る事になるんだろうな。と、幹夫さんは考えるのでした。
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