短編と思い付き

アイビークロー

雨樋の祈り

 私は、ガーゴイル。ただの、不格好な錆びた雨樋。

 仕えるのはとある屋敷の主人。彼は魔法を使う。人々の幸せを願う錬金術師だ。行く宛てもないから、住めるだけで有難いから、と引き取ったという打ち捨てられたこの屋敷を直し、私に命を与えてくれたお方。


 私は、彼がかえるのを待っている。




 彼は、薬を求めていた。不治の病に侵された人をも救える、万能の霊薬を。

 人魚の鱗、叫ぶ草の根、不死鳥の涙。これなら、今度こそは、と笑っていた。これで人々を救える、と。



 それは、ついぞ叶わぬ望みであった。


 完成した薬を飲んだ彼は倒れ込んだ。数刻後に起き上がった彼の生気のない眼と、朝日に焼かれる肌をよく覚えている。

 なんのことはない、薬の効力が人間の肉体には強すぎた。ただそれだけのこと。


 生ける屍となった彼は血肉を食らうようになった。今は屋敷のネズミや周辺の森の鹿で済んでいるが、人間が捕食対象に入っていないとは限らない。

 人々の幸せのため奔走していた彼は、きっと人を食らうことを望まない。


 ああ、もどかしい。『従獣は主人に逆らえない』縛りが、彼を救うことをも拒んでいる。彼が邪を祓う槍のようだと言ってくれたこの尾も、彼に憑いた悪霊すら祓えないならただの棒切れと変わらないではないか。


 私に出来るのは、離れた村から訪れる人を拒み、朽ちた体で彷徨う彼を屋敷に封じることのみ。

 彼の魂はあの体に縛られたままだ。




 この地で私は、彼が輪廻へ還るのをただ待ち望んでいる。





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 友人たちが短編小説書き合いしようぜ!お題3つ出せ!!と言っていたので提出した「ガーゴイル」「エリクサー」「トライデント」を使って書いたものです。

 没になりました。なんでだよ。ファンタジーいいだろ。

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